フランス最大のスピーカーメーカーとして揺るぎない地位を誇るフォーカルが、アリア・シリーズの限定モデル、Aria K2 936を発売した。

 フォーカルはエントリークラスからハイエンドモデルまで豊富なラインナップを揃えるが、2014年に加わったアリア・シリーズは中核を担う製品だ。その特徴はウーファーやミッドレンジの振動板に、長年の研究成果を具現化したフラックスと呼ぶ亜麻の繊維を取り入れ、グラスファイバーによるサポートを得て剛性感の高いユニットに仕上げていることだ。

SPEAKER SYSTEM FOCAL Aria K2 936 ¥680,000(ペア)+税

 ●型式:3ウェイ5スピーカー・バスレフ型
 ●使用ユニット:25mm逆ドーム型
  トゥイーター、165mmコーン型
  ミッドレンジ、165mmコーン型ウーファー×3
 ●クロスオーバー周波数:260Hz、3.1kHz
 ●出力音圧レベル:92dB/2.83V/m
 ●インピーダンス:8Ω
 ●寸法/質量:W294×H1150×D371mm/29kg
 ●問合せ先:ラックスマン(株) ☎045(470)6991

 しかしながら今回の限定モデルに採用されたユニットは、フラックスの振動板ではなく、同社がかつて黄色のカラーでつくり上げたアラミド繊維を用いていることが一番のポイントとして挙げられる。この振動板は質量が軽く、かつダンピング特性に優れているが、2019創立40周年の記念モデルとしてリリースされたスぺクトラル40 th同様、新世代機のために作り上げた、アラミドファイバーの振動板に改良を加えたK2コーンが使われている。

 Aria K2 936に搭載されているユニットは、K2コーンを用いた165mm口径のウーファが3基、同じくK2コーンによる165mm口径のミッドレンジが1基、そして逆ドーム型のアルミ合金の振動板を持つトゥイーターが1基。3ウェイ5ユニットという豪華な組合せだ。

 ウーファーの振動板にはアラミド繊維とグラスファイバーを用いた2層構造を採用して剛性を高めているが、ミッドレンジはアラミドファイバー単体でも充分な強度が得られることから、より質量を軽減した反応のいいユニットへと仕上げられている。トゥイーターは前述したようにフォーカルおなじみの逆ドーム型。アルミ合金の振動板は、軽く、減衰特性に優れていて、高音域の再現力が向上している。

 アラミドファイバーのユニットは同社が1986年から採用している素材。これをアリアシリーズで展開するのは、サウンド面の理由もあるに違いないが、そこにはJMラボ(※)時代の出発点を大切にした物づくりに今一度立ち返るという彼らのメッセージが込められているようにも感じる。

 エンクロージャーはMDF製だが、側面にはアッシュグレイの上質な塗装を施し、天板にはガラス製のパネルを配して素直な音響特性を得る工夫を凝らした。またエンクロージャーの底面にアルミ合金のベースを配し、さらにこのベースに向けて底面とバッフル板の前面にバスレフポートを設けたマルチポート・パワーフロー方式とすることで、使用環境への適応性を高めるとともにダイナミックな低音域の再現を可能にしている。

ミッドレンジは同社が1986年から採用している、アラミド繊維を使用した色鮮やかなイエローコーンのユニット。トゥイーターはフォーカル伝統の逆ドーム型で、今回はアルミ合金素材を選んだ

ウーファー3基はアラミド繊維とグラスファイバーの2層構造。昨年登場したSpectral 40thの流れを汲む設計だ。バスレフポートは前面/本体底面の両方に備わっている

シングルワイヤリング接続のスピーカー端子。台座は頑丈なアルミ合金

音の厚みで聴かせる
スケール感が魅力的だ

 このスピーカーを試聴して最初に感じたのは、レギュラーモデルのアリア・シリーズとはいささか出てくる音の趣が異なること。ゆったりとした音の流れの表現を志向したのがわかる。3基のウーファーの恩恵もあるだろうが、とりわけ低音の量感は、サイズ以上といってもよく音楽を優雅に奏でる。ヴォーカルソフトでは低音域とのバランスを心配したが、声の帯域に被ることはなかった。そこは安心していいだろう。

 クラシックの楽曲を聴くと、弦楽器などの細やかな描き出しに物足りなさはある。しかし、ダイナミックな表情や雄大なスケール感で音楽に浸りたいオーディオファンには、頼もしいスピーカーとして歓迎されると思う。ただし全高1150mmとそれなりに背丈があるので、試聴位置によっては高域が耳元へと届きにくくなる。この点は気を付けてセッティングしたい。

 映像作品はステレオ構成でチェックした。映画はUHDブルーレイの『ANNA/アナ』と『エンド・オブ・ステイツ』を視聴した。カーアクションや爆発音など豪快なサウンドが入っている作品だが、いずれもハリウッド調の分厚いダイアローグを聴くことができた。とりわけ効果音につけられた低音域の成分に対しての包容力は抜群で、そのエネルギーを部屋中に充満させるほどのパワーを解き放つ。

 またTOTOのBD『40 Tours Around The Sun』のような音楽ライヴソフトでも、ゆったりと広大な印象の音を聴かせる。映像付きのソフトで、説得力のあるサウンドを再現するスピーカーだと思う。

 いずれにせよ、充実した低音域をいかにコントロールするかがこのスピーカーの能力を引き出す大きなポイントになる。セッティングには充分な時間をかけて臨みたい。

 日本国内に割り当てられた台数はわずか100ペアの限定モデルなので、気になる方は売り切れないうちに、自身の耳でこのモデルのパフォーマンスを確かめてほしい。

※フォーカルの前身ブランド名。2002年まで、スピーカーユニットはフォーカル、スピーカーシステムはJMラボの名前で展開していた。2002年よりフォーカルに統一した