ドイツのスピーカーメーカーとしてオーディオファンにお馴染みのエラックからフロアスタンディング型の新製品、VELA FS408が届いた。VELAシリーズは旧400シリーズに代わるエラックの新たなる顔となるべく、2018年の秋にJET V型トゥイーターを採用したFS407が最初にリリースされている。次いでトップモデルとなるFS409が2019年初頭に登場し、この度、両者の中間に位置するFS408の誕生を受けてラインナップが揃った。

 上位機のFS409は、JET V型のトゥイーターにミッドレンジのドライバーと2基のウーファーを加えた4つのユニットで構成されていたが、FS408はミッドレンジを外した3つのユニットで仕上げられた。ともにウーファーをスタガーでドライブさせている点は同じだが、FS408はミッドレンジがない分、トゥイーターとのクロスオーバー周波数は2.7kHzから若干低い2.55kHzへと下げられている。

 ハイルドライバーの原理を応用したJET型トゥイーターの特徴は、なんといっても優れたトランジェント特性と放射特性を備えていることだ。JET V型は、JET Ⅲ型の改良版。ウェーブガイドを設けて放射特性をコントロールするほか、再生周波数帯域を広げて耐入力特性の改善に努めることで、高いオーディオ再生能力を獲得している。このユニットはドイツのキール市にあるエラックの本社工場内で製作されているが、アコーディオンのような折り畳み式の振動板は幅がわずか2mmしかなく、それをハンドクラフトするという、日本のオーディオメーカーも舌を巻くようなつくり込みがなされていることに驚く。こうした緻密な作業がトゥイーターの完成度を高めるとともに、高音質化に大きく寄与している。

 ウーファーユニットは180mm口径で、剛性の高いクルトミューラー製のパルプコーンの上に、アルミのコーンを装着したオリジナルの複合振動板が採用されている。このコーンにはクリスタルラインと呼ぶ複雑な幾何学模様を与えて強度を高め、パワーリニアリティと低音域の再生能力の向上を促している。

 ネットワークには磁気歪みの少ない空芯コイルを用いる。コンデンサーを始めとして高品位なパーツを採用し、さらにウーファー用とトゥイーター用の基盤を分離することで相互の干渉を低減したつくりがなされている。

 エンクロージャーはMDF製で、内部は定在波の発生を防ぐために5つの部屋に分割されているほか、エンクロージャー両サイドの平行面をなくすラウンド形状になっている。またバスレフポートを底面に向けたダウンファイヤー方式を採ることで、設置場所による低域特性の変化を抑えるとともに、フロントバッフルを3度スラントさせてタイムアライメントの調整を行なっていることもこのシリーズの特徴である。

ヴォーカルやダイアローグ、
低域の再現に聴きごたえあり

 情家みえのCD『エトレーヌ』から試聴してみたが、ベースラインのもたつきがなくバスドラムのアタックもしっかりと聴き取れる。ヴォーカルの表情が豊かで艶やかな質感が保たれているし、センターに彼女の声がよくフォーカスする。ていねいな語り口でちょっと小粋な味わいといってもいいだろう。

 上位機からミッドレンジを外した仕様だが、スタガードライブのウーファーとトゥイーターがよくマッチングしていることをうかがわせるサウンドだ。カレン・ソウサのCDでも声のニュアンスの捉え方に感心させられた。ピアノの音色も濁りがなくクリアー。華やかだが飾り過ぎるところがない。

 ローレベルの表現力にも優れているが、クラシック楽曲ではもう少し分解能が高まればという気持ちもなくはなかった。しかしながら空間表現力に不満はないし、中低域の再現性にも優れているので、グランカッサの打撃音にはパワーが宿りそのエネルギー感をよく伝える。

 最後にUHDブルーレイとBDの映像ソフトによる視聴を行なった。『ANNA/アナ』でも『エンド・オブ・ステイツ』でもダイアローグの聴かせ方が実に堂に入っている。細かなアクセントや感情の発露までよく描き出すし、爆発音や銃撃音に破壊力が備わっていることにも感心した。LFEがミックスされた低音域の再現にも強いので2chで映画音響の再生を行なうユーザーには歓迎されることだろう。またTOTOの『40 Tours Around The Sun』のライヴ収録ソフトではスクリーンから音が飛び出してくるといってもよく、映像と一体感のあるサウンドが楽しめる。

 一般的にシリーズモデルの場合、中間に位置する製品はどっちつかずになって埋没するケースが多いが、FS408にその心配はまったくない。上位機FS409との価格差はわずかだが、使いやすさからいえばFS409よりユニットひとつ分程度高さを抑えたFS408という選択肢は充分にありえる。いずれにしてもエラックファンには、新たな悩みの種ができたことは間違いないようだ。

Speaker System
ELAC
VELA FS408
¥850,000(ペア)+税

●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET型トゥイーター、
 180mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:450Hz/2.55kHz
●出力音圧レベル:88.5dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W276×H1,142×D332mm/27.1kg
●問合せ先:(株)ユキム TEL. 03(5743)6202

エラックの本社工場でハンドメイドされるJET V。ネオジウムの磁気回路、カプトン製の振動板で高域を駆動する。ウーファーはVELAシリーズ共通のAS-XR(アルミ・サンドウィッチ・クリスタルライン)仕様だ

スピーカー端子はバイワイヤリング接続に対応。今回は、低域の端子にシングルワイヤリング接続して視聴を行なった

カラーはハイグロス・ブラックのほか、ハイグロス・ホワイトもラインナップ。リスニングルームやリビングのインテリアに合わせて選びたい

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