〝デスクトップスピーカー〟と聞いて、貴方はどんなシチュエーションを思い浮べるだろうか。PCとの組合せ?パーソナルなサブシステム?メインシステムとは傾向の違う気分転換用?私の場合はそのすべてが該当する。とはいえ、サウンドクォリティや機能に妥協はしたくなく、最新フォーマットに対応したフィーチャーにも期待して、先頃私はエアパルスA80を新たに迎え入れた。

Active Speaker System
AIRPULSE
A80
オープン価格(実勢価格¥77,000前後)

●型式:デジタル入力対応アンプ内蔵スピーカーシステム
●使用ユニット:リボン型トゥイーター、115mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:10W×2(トゥイーター用)、40W×2(ウーファー用)
●接続端子:デジタル音声入力2系統(光、USBタイプB)、アナログ音声入力2系統(RCA)、サブウーファー出力1系統(RCA)
●寸法/質量:W140×H255×D240mm/4.8kg
●備考:BluetoothV5.0対応。リモコン、USBケーブル、光ケーブル、RCAケーブル、ウレタン製アングルベース付属
●問合せ先:㈱ユキム TEL. 03(5743)6202

接続端子は豊富。パソコンと直接つなげられるUSBタイプB端子のほか、スマホやタブレットと無線伝送できるBluetoothにも対応する

 メタルコーン型ウーファーとリボン型トゥイーターで構成された大小2機種を擁するエアパルス。その設計思想を紐解くには、主宰者であるフィル・ジョーンズの人となりを理解するのが早道だろう。現在60代半ばのフィルは、13歳でベースを手にし、やがて独学でアンプを作り始める。そうして〝低音〟に興味を抱いたフィルの探求心は、いかにクイックかつスピーディーに小気味よい低域を再現するかに向かったのである。

 学生時代にウェスタンエレクトリックやヴァイタボックスといった業務用大型ホーンスピーカーのノウハウを学んだ彼は、現在プラチナム・オーディオ・システム・カンパニーとPJB(フィル・ジョーンズ・ベース/楽器用ベースアンプメーカー)を主宰しているが、その経歴を俯瞰すると(輸入元のユキムのホームページに経歴の詳細が掲載されているので参照されたい。 https://www.yukimu-officialsite.com/airpulse )、90年代半ばに世界中を驚かせた巨大なホーン型スピーカー「プラチナム・エアパルス」を生み出した以外は、首尾一貫して小口径ウーファーを核とした小型スピーカー手掛けてきたことに気付く。つまり彼の低音のデザイン志向は、大面積の振動板で空気を広くグリップして朗々と低音を鳴らすのでなく、コンパクトサイズのエンクロージャーにて、ゆがみや歪みの少ない小口径メタル振動板(場合によっては複数個)を用いて、リニアリティに優れたクイックかつハイレスポンスな低域を繰り出すことを念頭にしている節がある。そうしたポリシーが今日のエアパルスの2機種にも連綿とかつ正統的に受け継がれているように思うのだ。

 なおこれはあくまで推測だが、伝説の名機といって過言でない製品名をブランド名称として復活させたことから、「エアパルス」という呼称にはひとかたならぬ思い入れもあるのではないだろうか。

エアパルススピーカーの特徴のひとつが、オリジナルのリボントゥイーター。アルミニウム製リボン振動板を強力なネオジム磁石で駆動。リボン前面のホーンでロード(負荷)をかけて、指向性を精密に制御している。クリアーで歪み感の少ない高域再現の源だ

ホーン型リボントゥイーターに見合うハイスピードかつ強力な低域ユニットもエアパルスの特徴だ。A80搭載の115mmウーファー(写真)は、硬質アルマイト処理されたアルミニウム合金の振動板とネオジム磁石で駆動する。A300Pro搭載の165mmユニットは、いわゆるショートボイスコイル型と呼ばれる強力な仕様で、大振幅再生時もボイスコイルが磁気ギャップから飛び出さない設計が施されている

音量をグイッと上げたときのパワフルさが見事なA80

 HiVi1月号掲載のHiViグランプリ2020においては、兄貴分のA300Proがスピーカー部門賞を受賞した。ワイヤレスからハイレゾ対応までと、現代のニーズにマッチしたデジタル方式バイアンプ駆動2ウェイの本格的な設計が評価されたことに基づくが、仕様面ではほぼ共通したA80も、A300Proに負けず劣らず優れたモデルと私は実感している。

 そのA80を私はデスクトップスピーカーとして新たに導入したことをHiVi1月号で記した。近年のネット動画の高音質化の波に備えたかったことに加えて、それまで使ってきたスピーカーがハイスペックなハイレゾやブルートゥースに非対応だったことや、外出時の出番が最近少なくなったポータブルDAP/アステル&ケルンAK380を専用クレイドル(いずれも生産完了)のアナログ出力と併せて活用したかったのである(A80のAUX入力に接続)。

小原さんはご自宅のデスクトップ用スピーカーとしてA80を導入。詳細はHiVi2021年1月号の「from Writers」7ページを参照のこと

 他の入力端子もほぼフル活用だ。USB入力はPCに接続。光デジタルには、ネットワークトランスポートのオーレンダーW20からの出力を送り込んでいる。

 テキサス・インスツルメンツ製クラスDアンプをブリッジモード/マルチアンプ駆動にて搭載したA80には、A300Proにない優れた特色がある。それは、入力されたデジタル信号のサンプルレートを変えずにダイレクトにデジタル増幅していることだ。デジタル/アナログの変換プロセスを経ないそのサウンドは、音のフレッシュネスの点でA300Proを凌いでいると思う。ヴォーカリストのイントネーションやアクセント、微妙なブレスの様子などを実に精巧に再現してくれ、手を伸ばせば小さな音像フォルムやその温度感さえ実感できるようなリアリティがある。まさしくホログラフィック的な姿が机上に浮かび上がるのだ。

 また、ひとたびボリュウムをグイッと上げた時の、そのコンパクトサイズを感じさせないパワフルな鳴りっぷりも好ましい。マルチアンプ駆動というメリットもありそうだが、さすがはフィル・ジョーンズがデザインしたスピーカーらしく、ベースのピッチを崩したり曖昧にしたりせず、量感とエネルギーがリニアに高まっていく感じなのである。

 11.5cmアルミ合金コーン型ウーファーとリボン型トゥイーターのつながりも抜群によく、あたかもフルレンジドライバーが鳴っているかのような一体感。前述した音像フォルムのリアリティをそれがもたらしているであろうことは確実で、内蔵アンプのコンビネーションやユニット間の位相管理も含め、アクティブ型のメリットを積極的に活かしているのではと思われる。

スケールの大きなA300Pro。ハイレゾ再生も迫力満点だ

 A300Proには、ステレオ仕様のアクティブスピーカーの通例であるL/R間を結ぶ通信ケーブルがない。Rch側に入力端子を集約し、Lch側には音楽信号をワイヤレスにて、しかも非圧縮デジタル信号のまま伝送する。したがって連結用ケーブルの長さの制限にわずらわされることなく、左右スピーカーを離して使うことが可能。また、内部配線に米国の老舗メーカー/トランスペアレント社のケーブルを使用している点も見逃せない。

Active Speaker System
AIRPULSE
A300Pro
オープン価格(実勢価格¥250,000前後)

●型式:デジタル入力対応アンプ内蔵スピーカーシステム
●使用ユニット:リボン型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:10W×2(トゥイーター用)、120W×2(ウーファー用)
●接続端子:デジタル音声入力3系統(光、同軸、USBタイプB)、アナログ音声入力3系統(RCA×2、XLR×1)
●寸法/質量:W225×H385×D350mm/14.7kg
●備考:BluetoothV5.0対応。リモコン、USBケーブル、光ケーブル、RCAケーブル付属。専用スタンド(ST 300[¥20,000ペア+税])あり

A80との違いは、サイズやユニット口径、アンプ出力を除くと、左右のスピーカーを非圧縮のロスレス・ワイヤレス接続でつなぐことだろう(A80は有線接続)。それ以外にもバランス入力に対応している点も異なる

 さすがにA300Proをデスクトップとして設置できるほど我が執務机はビッグではないので、常用しているティグロンのスピーカースタンドMGT70Wを用いてメインシステムの手前に設置、試聴した。

 ところで、充電器も兼ねたAK380専用クレイドルは、本体内蔵のデュアルDACのポテンシャルを最大限に引き出すバランス出力が可能。A300Proとのコンビネーションであれば、バランス/アンバランス変換プラグを使わずにダイレクトに接続することが可能だ。おそらくはそのメリットもあり、AK380との組合せではA80と比べてよりS/Nの高い、実にワイドレンジでダイナミックなサウンドが楽しめた。

今回はA300Proのバランス入力を活かすため、アステル&ケルンのAK380と専用クレイドルを用意し、そのバランス音声出力をA300Proにつないだ。なお、小原さんは、A80とAK380との接続時にはバランス/アンバランス変換ケーブルを使用しているとのことだ

 リボン型トゥイーターは同一だが、2ウェイのつながりのよさはそのままに、ウーファー口径が16.5cmとひと回り大きいこともあってローエンドの厚みやエネルギーの押し出しがだいぶ違う。例えばクラシックの重厚なアンサンブルやスケール感においてそれが絶対的なアドバンテージになる。AK380に保存されたブラームスやショスタコーヴィチのハイレゾ音源のスペクタキュラーな響きを存分に再現してくれたのだ。

 いっぽうでは、ロックの強いビートにおいて、立ち上がりの鋭いクイックな反応を示す。この辺りにもフィル・ジョーンズの設計手法の真骨頂が現われているとは言えまいか。A300Proは、デスクトップの範疇では決してなく、メインスピーカーとして十二分に使える実力の持ち主とみた。

 パワーアンプとスピーカーを組み合わせるコンポーネント的楽しみがアクティブスピーカーにはないと指摘するマニアは少なくないが、実勢価格25万円でここまでのパフォーマンスを発揮するシステムを組むのはかなり難しい。ましてやA80の実勢価格8万円内の枠では、ほとんど至難の業。そんなことからも、ミニマリズムという考えに則した近代のシンプルライフにおいては、アクティブスピーカーはもっと注目されていいように思う。

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