アナタはどんな方法で音楽を楽しんでいますか? ディスク再生やストリーミング、ダウンロードなどなど、最近は音楽再生の方法も多岐にわたっている。だが音質にこだわるのであれば、ハイレゾなどの音楽ファイルをUSB DACやネットワークプレーヤーで再生するのが一番。そこで重要なのが音楽ファイルを保存するミュージックサーバーだ。今回は「fidata」(フィダータ)ブランドを展開しているアイ・オー・データ機器に同社ミュージックサーバーの最新事情を聞いた。対応いただいたのは、同社事業戦略本部 企画開発部 企画開発1課の開口東史さんだ。(編集部)

fidataの新製品「HFAS1-HN80」(¥350,000、税別)と「HFAS1-S21」(¥370,000、税別)の外観はまったく同じ。搭載されるストレージが、8TバイトHDDか、2TバイトSSDかという点が異なる

土方 昨今、音楽を楽しむのはファイル再生が中心という方も多くなり、それに連れてミュージックサーバーの重要性が増しています。サーバーは音源の保存場所であると共に、配信元にもなっているのです。

 そんな中、アイ・オー・データはfidataブランドでこの世界に本格参入しました。最初はネットワークオーディオサーバーとして発売されましたが、その後ネットワークオーディオプレーヤー機能を内蔵し、さらに「fidata Music App」もリリースするなど、着実に機能を拡張してきています。

 そこで今回は、最新のネットワークオーディオ再生環境におけるサーバーの重要性をfidataの開発を担当している開口さんにうかがうと共に、同社の最新モデル「HFAS1-HN80」と「HFAS1-S21」についてお聞きしたいと思います。

開口 弊社がfidataブランド第一弾となる「HFAS1-S10」「HFAS1-H40」を発売したのは2015年でした。そこから5年が過ぎて、ストレージの状況も変化しています。そんな中でミュージックサーバーとして様々なことが求められています。今回はそれぞれの後継機として、そういった声に応えたいと考えました。

土方 具体的にはどんな点が変化したのでしょう?

開口 弊社では2020年4月にfidataの4周年記念モデルとして「HFAS1-S20」を発売しました。これは上位機のシャーシを使った容量2TバイトのSSD搭載機という位置づけでした。

 このモデルは40セット限定でしたが、1週間ほどでほぼ完売してしまったのです。これは嬉しい反面、困ったことにもなりました。というのも、実はこの段階で従来のSSDシルバーモデルは既に終息しており、限定品なので準備した台数以上のご注文を受けることができない状態だったからです。

土方 そういった事情もあったんですね。

開口 そこで手配できる部材をうまく使いながら、お客さんに喜んでもえらえる製品を短期間で作る検討を、去年のゴールデンウィーク明けにスタートしました。

土方 それはなかなか難しいテーマだったんじゃないですか?

開口 はい。HFAS1は5年以上継続しているシリーズなので、アップデートを重ねているとはいえ、新鮮味がなくなっている認識はありました。にもかかわらず、4周年記念の限定モデルが瞬時に完売したのは、うれしい誤算でした。

背面の仕様も、USB端子が1系統とLAN端子が2系統とHFAS1シリーズで共通だ。

土方 製品としてのニーズがあったわけですね。となると次はそれにどう応えるかがポイントになります。

開口 短期間に提供でき、かつお客様のご期待に応える必要がありました。具体的には年末商戦に間に合わせることが大きなポイントです。そこで、ストレージ容量にフォーカスしたのが今回のモデルです。SSD、HDDモデル共に旧モデルに対して容量が2倍になっています。

土方 確かに、HFAS1-HN80のポイントは、ミュージックサーバーとして、僕の知る限りでは国内・海外モデル中で最大の保存容量である8Tバイトを担保していることですね。

 僕自身も今回HFAS1-HN80を自宅に導入しましたが、その一番の理由は容量でした。ハイレゾが登場してから時間が経ち、その間に楽曲数も増え、DSD 11.2MHzのような容量の大きなファイルも登場しています。これまではHFAS1-H40を使っていましたが、4Tバイトでは足りなくなったのです。そのためよく使う音源を選んでHFAS1-H40とHFAS1-XS20に分散配置していました。

 でもそれだと使い勝手や音質面で差異も感じられしっくりこなかった。全部の音源を一番いい環境で聴きたいと思っていた時にHFAS1-HN80が発表されたので、これなら持っている音源をすべて集約できるだろうとピンときたのです。8Tバイトあれば、オーディオファンのほとんどがお気に入りの音源を保存できるんじゃないでしょうか。

開口 HFAS1-HN80ならミラーリングでも4Tバイトの容量がありますから、これなら喜んでいただける方も多いと考えました。さらにUSB HDDバックアップ機能と組み合わせていただければ、8Tバイトをフルに使うこともできます。

土方 SSDモデルHFAS1-S21の容量が2Tバイトになったのも、ユーザーには喜ばれそうです。

開口 SSDモデルは限定モデルのHFAS1-S20で好評だったことから、引き続き2Tバイトモデルとしてご提供することにしました。結果的にHFAS1-S21は既にメーカー完売となり、お客様のニーズにお応えできたのではないかと思います。

今回のインタビューは土方さんのご自宅と、アイ・オー・データの東京、石川オフィスをリモートでつないで実施している

土方 HDDとSSDというストレージによっても音の違いがあると思いますが、その点は開発時には意識していたのですか?

開口 もともと弊社はオーディオ用のNASを販売していましたが、当時のSSDとHDDのユーザー数は半々くらいだったのです。それもあって、fidataではSSDとHDDの両方のモデルを企画しました。

 ただし振動や電気ノイズといった観点でHDD搭載モデルの方が不利になります。なので、当時はHFAS1-H40を先に作りました。まずHDDの振動や電気ノイズの対策を行い、そこにSSDを載せたモデルがHFAS1-S10だったのです。

 もちろんSSDにサムスン製850EVOを採用したことも大きかったです。これは当時最高のSSDであるという判断で、弊社が初めてオーディオ用に採用しました。現在ではサムスンのSSDがオーディオ用途で優れているイメージがついていると思います。

土方 確かに850EVOは音のいい記録媒体として認知されています。

開口 それもあり、上位モデルのHFAS1-XS20開発時には、1TバイトSSDを2基積んだモデルも検討したのですが、様々なSSDの試聴から850EVO、それも500Gバイトモデルが当時のベストと判断しました。その結果を踏まえ、850EVOの500GバイトSSDを4基搭載したのです。

土方 HFAS1-XS20は本当に贅沢ですよね。1TバイトのSSDを2基積めば、HFAS1-S10から内部回路を変更しなくてもすんだはずなのに、850EVOの500Gバイトを使いたいがために新しい回路を作っているんですから。

開口 HFAS1-XS20は、SSDを4基搭載する前提で回路を設計して、さらにリニアパワーコンディショナーなどに音をよくする工夫を施しています。その意味で、ハイエンドモデルとしてのHFAS1-XS20の役割は変わっていません。

土方 今回の新製品ではHDD、SSDとも新しいデバイスを採用していますが、音づくりの面でもかなり苦労したのではありませんか?

土方久明さん

開口 そうですね。原則、オーディオ専用のストレージというのは存在しないので、基本的には試聴によるドライブの選定と、そのドライブを活かすための搭載方法を検討しています。

 4周年モデルのHFAS1-S20、今回のHFAS1-S21では、後継となる860EVOの1Tバイトを2基搭載していますが、HFAS1-XS20の時に培ったノウハウを継承することで、HFAS1-S21の開発では、850EVOとも異なるキャラクターを持つ860EVOを使いつつ、fidataらしさを持たせ、最適化することができました。HFAS1-S20の好調から、HFAS1-S21でも引き続き採用しました。

 HDDモデルは本当に5年ぶりの開発で、今回の開発の中心でした。5年前のHFAS1-H40は3.5インチの2TバイトHDDを2基積んでいました。それに対し今回のHFAS1-HN80は2.5インチを使っていますので、取り付け方法を新たに検討する必要がありました。

 2.5インチへの移行は、振動や電圧変動といった音質劣化の原因を抑えることにつながるのでは? と考えました。HFAS1-H40では大きなヒートシンクや3.5インチHDDを搭載していましたが、今回は小型で省電力の2.5インチHDDを採用したことでヒートシンクも不要となりました。その結果、ほぼ純粋に、振動する部分の重さで約1kgの減量を実現しました。

 ただしそれ故の苦労もありました。HFAS1-H40で使ったゴム製のダンパーはHFAS1-HN80でも引き続き採用していますが、今回のHDDではそのまま採用すると、思ったような音にならなかったのです。

土方 それは音が変化したということですか?

開口 はい。このあたりはひじょうに繊細で、どんなやり方をしても音が変わるのですが、従来のダンパーでは自分たちの基準では音が鈍くなってしまい、私たちなりに調整を加えています。

「HFAS1-HN80」には2基の4TバイトHDDを向かい合わせに配置する「水平対向レイアウト」によって回転モーメントを打ち消している

 それが純銅ワッシャーの追加につながるのですが、これはHFAS1-XS20でもX-Cluster SSDユニットに850EVOを留める時に最初に採用したものです。振動しないSSDでも固定の仕方で音が変わることを経験していたので、今回HFAS1-HN80でもその時の経験が役に立ちました。

 またHFAS1-H40はHDDを片方だけ裏向きに設置する「リフレクションシンメトリーレイアウト」を採用することで、2台のHDDの回転モーメントを打ち消していましたが、HFAS1-HN80は2台のHDDを向き合う形に配置する「水平対向レイアウト」によって同様の効果を得ています。レイアウトは違いますが、考え方は歴代モデルから脈々と受け継いでいるのです。

土方 なるほど、製品を発売してから発見した技術も入れ込んできたということですね。

開口 新モデルも含め、HFAS1-XS20以降のすべてのモデルで、グランド周りも改善しています。fidataの製品は単体では音が出ないのでS/Nがいくつというスペック的な言い方はできませんが、USB DACやネットワークプレーヤーを通して聴いていただいた時の静寂さ、音の細やかさといった部分はHFAS1-XS20譲りです。

 これらの総合的改善によって、特にHFAS1-HN80ではSSDモデルに一歩近づいた音質を手に入れたのではないかと、自信を持っています。今回の2モデルは、上位モデルで培った経験をスタンダードモデルにフィードバックして一歩前進させたという意味で、HFAS1シリーズの集大成と位置づけています。

土方 僕はHFAS1-H40はよくも悪くも低域の馬力のある音だと思っていますが、HFAS1-S10に比べてわずかに付帯音があるようにも感じていました。でもHFAS1-HN80ではそんな付帯音がなくなって、SSD的なノイズフロアーの低さになっていると感じたのです。これは凄いと思いました。

土方さんの試聴室では、ルーミンやカクテルオーディオのネットワークプレーヤーを使ってハイレゾを楽しんでいる。その音源保存用として今回「HFAS1-HN80」も新たに追加された

 改めて新製品のポイントをまとめると、SSD/HDDとも容量が2倍になったし、5年間で培われた技術も入って、音もよくなっている。しかも価格が抑えられているのが凄いと思います。HFAS1-S21はHFAS1-S10から価格据え置きで、HFAS1-HN80はHFAS1-H40から3万円のアップでしたよね?

開口 はい。どちらも従来の価格帯でストレージ容量を2倍にしています。

土方 個人的には、fidataブランドはファームウェアのアップデートにも積極的ですし、過去に発売した製品を大切にしている姿勢はすばらしいと思っています。

開口 ありがとうございます。せっかく買った商品が短期間に何度もモデルチェンジすることには私自身も抵抗があります。HFAS1シリーズは発売から6年目に入りますが、初期にご購入いただいたお客様にはたくさんのアップデートを、最近お買い上げの方には最初から充実した機能をご提供している点は、ご満足いただけるポイントととらえています。

土方 デジタル製品は進化が早い中で、fidataでは5年前の製品が今でも使える。これも貴重なことです。

開口 既存ユーザーの買い替えについて言えば、お客様のオーディオシステム全体の中では、ミュージックサーバーの優先順位は低いでしょう。当然買い替えの頻度も少なくなります。

 初期モデルのお客様は容量が足りないケースも発生しているかもしれませんが、必ずしも新モデルに買い替えなくても、増設HDDをつないだり、Soundgenicを買い増すといった手段もあります。

 しかし、HDDに関してはやはり経年劣化による故障リスクもありますので、定期的な買い替えは選択肢のひとつです。また、HFAS1-HN80の最大の長所は8Tバイトに収録可能なすべての音楽データに対して、fidata品質を担保している点です。これは増設HDDやSoundgenicでは不可能なので、最終的には音質が判断ポイントになると思います。

土方 その思想がfidataの開発メンバーで共有できているのは素晴らしいですね。その他に物作りの面で苦労したことはありましたか?

開口 今回の製品はこれまでのノウハウもあり、比較的短期間で開発できましたが、ものづくりとして、アイ・オー・データの一般的な商品開発と、fidataのそれはまったく異なるため、今でも生産面ではイレギュラーの連続です。

土方 ……それはどういう意味でしょう?

開口 fidataは、アイ・オー・データ機器の資産であるサーバー開発技術をベースに、オーディオグレードの製品に仕立てたものですが、HFAS1以前にオーディオグレードの製品を作ったことがなく、本当に手探りでした。

 弊社のものづくりには、商品をタイムリーにお届けするファブレスメーカーとして長年培ったノウハウがあり、また品質を高めるためにあらゆる製品仕様を明文化して会社組織もそのように最適化され、様々な海外パートナーと連携しています。

 しかしfidataは自社設計で、国内での少量生産体制です。開発から販売まで新たなスキームの構築が必要でした。それと社内での会話が難しいんです。コンピューターなら処理性能、映像なら見た目でわかる画質といった尺度があり設計評価基準が明確なのですが、音は目に見えず、人によって聞こえ方も違うので、開発目標を明確化するのも困難で、社内での共通言語化が色々な意味で難しいのです。

 今は社内においても聴感評価の重要性理解いただき開発を進められるようになりましたが、それでも100%プラン通りに進まないのがオーディオの難しいところですね。

土方 それはただハードウェアを造るのとも違う、難しいミッションですね。fidataは、周辺機器メーカーであるアイ・オー・データでなければ作れなかった製品だとは思っていましたが、そんな苦労もあったのですね。ちょっと感慨深くなってしまいました。

 では最後に、fidataとして今後の展望をどう考えているのかについて教えて下さい。

取材に対応いただいた、株式会社アイ・オー・データ機器 事業戦略本部 企画開発部 企画開発1課 開口東史さん

開口 2021年は今までと違う新製品、新機能を提供したいです。昨年オンラインイベントで開示した通り、USB接続のオーディオグレードのCDドライブを開発していますが、これを何と命名するか今考えています。リッピングだけでなく、CD再生のクォリティにも目を見張るものがあり、HFAS1のCDトランスポート機能にも最適な商品になりそうです。

 ミュージックサーバーとしては集大成モデルを発売したHFAS1も、実はまだ開発終了ではありません。新機能アップデートを提供する予定もありますので、ご期待ください。

土方 あのCDトランスポートはとても興味深いと思っていました。ITを知っているメーカーが作ったトランスポートは初めてかもしれません。

開口 CDトランスポートといっても、これはあくまでもUSB光学ドライブなので、単体でデジタル出力できるものではありません。

土方 単体では動かないんですか?

開口 はい。これはUSB光学ドライブなので、既存のCDトランスポートとは別のものとお考え下さい。fidataのミュージックサーバーやPCと組み合わせることで動作します。

土方 新しいカテゴリーも増えていくということですね。今後もfidataブランドの動向を楽しみにしています。今日はありがとうございました。