8K放送の普及や8K対応ゲーム機の登場により、家庭での8K伝送が注目を集めている。そのためのインターフェイスにはHDMIが使われ、既に8K対応HDMIケーブルも登場している。ではそれらの製品はどんな規格や条件で作られているのか。今回はHDMI Licensing Administrator Inc.の代表であるRob Tobias(ロブ・トバイアス)氏に麻倉怜士さんがインタビューを行った。(編集部)

麻倉 今日はよろしくお願いいたします。HDMIケーブルは、今日のオーディオビジュアルに取って、欠かせない存在になっています。まずはHDMIの現状についてお聞かせください。

ロブ ご存知の通り、HDMIのテクノロジーはPCや自動車、AV機器などの民生機器で多く採用されています。2002年の市場投入以来、すでに100億台以上が出荷され、1,700を超える企業がHDMIを採用し、様々な開発やマーケティング、販売に取り組んできました。さらに近年は、医療や軍事、航空、セキュリティ、監視、産業の自動化といった業界でも多く使われるようになってきました。

 2021年は社会情勢、経済面でも全世界的にたいへんな一年になりましたが、民生機器にとっては力強い年だったと思います。ステイ・ホームが続く中、テレビの消費が伸び、子供たちはラップトップを使って遠隔で授業を受ける、または遠隔でテレワークを行なうなど、通信関連機器が多く使われた一年にもなりました。

 2021年は、ワクチン接種が可能となることで多くの生活が元に戻ることが期待されますが、行動様式ではそのまま残る部分もあるでしょう。ビジネス活動が再開された場合でも、テレワーク、テレスクールは継続すると思われます。遠隔作業の環境整備、PCやその他の見直しも必要とされ、それらの需要は堅調に推移すると見込んでいます。

麻倉 なるほど、リモート作業の充実がHDMIインターフェイスの普及を促進するわけですね。では技術面での進化はあるのでしょうか?

ロブ 超高速HDMIケーブル認証プログラムも始まっています。これによりすべての超高速HDMIケーブルは、弊社が定めるHDMI2.1の仕様に従ってテストを受けることが求められます。基本的にはHDMIのシステム上で8Kのパフォーマンスが達成できているかどうかを確認しています。

 このテストを行うHDMIフォーラム認証テストセンターも開設されました。メーカーがHDMIケーブルを製造した場合、必ずここに持ち込んで、HDMI2.1や超高速HDMIケーブルとしてのテストを行います。テストはすべての長さについて行い、認証されたケーブルはパッケージに認証ラベルを表記することになります。

 それから、「生涯製品検証プログラム」も運営しています。ラベルの貼られている製品をランダムに市場から選んで、きちんと動作しているのか、要件を満たしているのかをテストするプログラムです。

 もうひとつ、光HDMIケーブル(AOC)の要件もリリースしています。長距離ケーブルの用途としては、ハイエンドなAVホームシアターやデジタルサイネージ用などを対象にしていますが、これに対する認証も行なっています。

麻倉 日本では8K放送がスタートしており、HDMI2.1対応機器も既に発売されています。そのためのHDMIケーブルの検証環境が整ったということですね。

ロブ 大手テレビ・メーカーはHDMI2.1対応モデル、及びHDMI2.1対応ポートを発売し始めていますし、今回のCESオンラインでもHDMI2.1対応の新製品が発表されるでしょう。

 既に、ソニーの「PlayStation 5」やマイクロソフト「Xbox」シリーズなどのゲーム機器にも採用されています。2021年には、デスクトップやノートパソコン、モニター、セットトップボックスなどのジャンルでもHDMI2.1が搭載されると予測しています。

 中でもゲーム機器関連は機能も拡張され、ゲームメーカーやディスプレイメーカーも様々な対応をしてくるはずです。まず解像度とフレームレートが進化し、4K@120Hzでゲームが行われるでしょう。さらに8K解像度にも対応していくと期待しています。

 画質改善も進むはずです。HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)は、これまでに映画やテレビでしか色の深み、色域などの恩恵を受けられなかったのですが、それらがゲームでも利用できるようになっていきます。そうすることでゲームも、よりリアルな画像でプレイできるようになってくると思います。

 オーディオの品質も改善されます。ゲームでもドルビーアトモスやDTS:Xをサポートすることで、サラウンドで楽しめるようになりますし、e-ARC機能を使ってサウンドバーやワイヤレスヘッドセットでも簡単に扱えるようになります。

 さらに、ゲーム機が自動的にテレビに最適な低遅延モードで出力するALLMや、ゲームごとに最速のフレームレートで出力するVRR(可変リフレッシュレート)、フィレーム情報の天測速度を上げることで表示遅れを回避するQFT(クイックフレームトランスポート)などの機能も実装されるでしょう。

麻倉 さてここからはCESでの発表についてうかがいます。今回のCESはオンライン開催になってしまいましたが、プレス・コンファレンスはどうなるのでしょう?

ロブ 例年プレスの皆さんとは対面で記者会見を行なってきたのですが、今年はオンライン開催ということもあり、個別インタビュー形式でお話をさせていただくことにしました。

麻倉 HDMIが登場した2002年の時点では、いくつかあるインターフェイスの中のひとつであったと思いますが、今日ではものすごい数のHDMI対応機器が市場に溢れています。ここまでの成長を遂げたというのは、どのような理由があったとお考えですか?

ロブ HDMIがここまで成功を収められたのは、常に市場を先んじていかなくてはいけない、技術も先んじていかなくてはならないと集中していたからだと思います。そのためにはスペックを作ることが必要で、どんなチップ、あるいはどんなシステムが開発されようとも、その前に、我々は仕様を整え、整備して皆さんの前にお出ししなくてはならないと考えていました。

 実際、2002年当時のスペックは現在の何分の一の能力だったと思います。多くの企業が時間とエンジニアリングの労力を割いてくれなかったなら、ここまでスペックを先に進めることは出来なかったでしょう。そこまで皆さんに指示してもらえた事が、現在の仕様に仕上がってきた一番の理由だと思います。

麻倉 新しい市場として、航空機や医療の分野があるとのことですが、具体的にはどのような使い方をしているのでしょうか。また、なぜこうした新しい市場に進出できたのでしょう。

ロブ それらの新しい分野の多くで先進的なディスプレイ、特殊な解像度を使っているケースが多くあります。そんな中にあっても、HDMIがデファクトスタンダードであること、HDMI規格が採用されていることが多く、それが新しい市場展開の大きな理由になっていると思います。

麻倉 最近、放送機器を取材しました。これまでは他のインターフェイスを使っていた例が多かったのに、近年はHDMIが放送機器の中にも入ってきていました。これも新しい分野のひとつだと思いますが、放送分野におけるHDMIの展開については、いかがお考えでしょうか。

ロブ 放送関係でも使用されるようになったのは、HDMIがまさにユニバーサルな仕様になってきている証拠だと思います。プロフェッショナルな使用にも耐えうるクォリティになっているというのが、放送機器で採用に進んでいる主な理由だと思います。

HDMI Licensing LLC社長(CEO,Chairman & President HDMI Licensing Administrator Inc.)のロブ・トバイアス氏。HDMI規格のマーケティング、プロモーション、ライセンシング、マネージメントサービスを提供する組織を統括・指揮している

麻倉 現在、HDMI2.1まで進化して来ましたが、今後はどのようなスペックになるのか、例えば、8Kで解像度的には完成なのか、あるいはさらなる発展も考えられるのか、お聞かせください。

ロブ HDMIフォーラムは約80社で構成されています。テレビメーカー、ゲームプラットフォーム、PC産業、ケーブルメーカー、セットトップボックスと、多岐に渡った会社で構成されています。それぞれがどのようなニーズを持っているのかによって、HDMIの将来が描かれていくだろうと思っています。

 ですので、これら業界がどんな方向に向かおうとしているのか、どのような新技術が必要とされるのか、例えば現在は解像度に焦点が当たっていますが、8Kで終わりなのか、それとも16Kまで行くのかということは社会の要求次第ともいえます。それだけではなく、他にもオーディオや画質は、ゲーム対応など様々な領域があるので、次のHDMIの規格では、そのすべてで進化させる、ということになると思います。

麻倉 私は昨年、HDMI2.1対応の光HDMIケーブルを複数検証しましたが、8Kが伝送できない製品も多くありました。これらは認定プログラムが存在しない時点で製造されたものと思われます。今後は、そうした問題のあるケーブルは登場しないと考えていいでしょうか?

ロブ それが認定プログラムの目指すところです。AOCの規格をきちんと定め、認定テストを実施する。それにより、きちんと機能するケーブルが市場に出るように進めていきます。

麻倉 8K時代にはHDMI2.1対応ケーブルが不可欠です。ぜひユーザーが安心できる品質の実現をお願いいたします。

(まとめ:御法川裕三・泉哲也)