これはまだしばらくの間は“巣籠り生活”を余儀なくされる事態が続くかもしれない。そんなことをぼんやりと考えていたのが昨年の秋。なにしろ都心の映画館に出かけていくのも憚られる。いかに自宅で過ごす“映画時間”、ホームエンタテインメントを充実させられるか。この機会に今いちど真剣に考えよう。
ウチのホームシアター環境もより使い易く、より過ごし易い空間にしたい。そんな気持ちが発端となって、まずは“オブジェクトオーディオの再生も出来るリーズナブルなAVプリ&セレクター”を導入するのはどうだろうと思いつき、自宅で試聴をしてみたのがStereo Sound ONLINEの記事でもリポートしたヤマハの新AVセンター「RX-V6A」だ。
試聴してみると、いま求めているポイントを過不足なくクリアーしているモデルだと感じた。「これといって導入を躊躇する理由が見つからなかった」。はずなのだが、最終的に選んだのは同じくヤマハ製のAVENTAGEシリーズ「RX-A1080」だ。絶対的な満足度は高いものの、RX-V6Aは①「SURROUND:AI」に対応していない、②編集部員の哲氏が自宅のシアターで常用しているというシネマDSPの「Enhanced」モードを搭載していない。この2点がもやもやと煩悩となって頭から離れず、いざ購入という時になってつい欲が出てしまったのだ。
AVセンターをシアターに常設することになるのはおよそ10年ぶり。ヤマハ製ともなると実に25年ぶりだ。煩悩に負けた甲斐あって、シーンごとに最適な音場効果を付加してくれるSURROUND:AIは予想以上に優秀で感心させられている。普段使いならもうこれで充分じゃないかという印象だ。オブジェクトオーディオの再生も当初のイメージだった“4.0.2”システムではなく、RX-A1080に手持ちの2chアンプを追加した“6.0.2”システムでサラウンド再生を楽しんでいる。
ただし、予算がややオーバーしたので組み合わせるサラウンドスピーカーはリーズナブルになるようにまとめた。巣籠り生活を充実させよう、とは言っても非常事態であることに変わりはない。ホームエンタテインメントのことだけを考えていればいいという状況ではない。ここは節度が大事なのだ(と、自分には言い聞かせている)。
AVセンター
ヤマハ RX-A1080 ¥140,000(税別)
●内蔵パワーアンプ数:7●定格出力(20Hz-20kHz、2ch駆動):120W/ch(6Ω、0.06%THD)●シネマDSP総プログラム数:24●接続端子:HDMI入力×7系統(HDCP2.2対応)、HDMI出力×3系統(HDCP2.2対応)、デジタル音声入力×6系統(光×3、同軸×3)、アナログ音声入力×9系統、プリアウト×7系統、他●Bluetooth対応コーデック:受信SBC/AAC、送信SBC●消費電力:400W(待機時2.5W)●寸法/質量:W435×H182×D439mm(脚部、突起物を含む)/14.9kg
節度ありき、なのはもうひとつ理由がある。プロジェクターのリプレイスを同時に考えていたからだ。いま使っているのはJVCのDLA-X75R。2012年のモデルでウチに来てからもう6年がたつ。4K投写対応のプロジェクターだが、①4K信号を受け付けない、②HDRに未対応、③画素ずらしによる4Kアップコンバート。この3点をそろそろなんとかしたかったのだ。特に①②は今どきの時流からするとマスト、だろう。
予算から逆算すると候補になるモデルは限られる。そこで第一にイメージしたのがHiVi2018年8月号『グレイテスト・ショーマン』の特集記事で視聴に使用したJVCのLX-UH1だ。この時の印象がすこぶるよかった。価格も4K&HDR対応機としては現実的。加えて、今では“ちょっと上級モデル”のLX-NZ3が既にラインナップに加わっている。LX-UH1にはなかった機能もフィーチャーされている。ならばこのLX-NZ3も視聴してみれば? 編集部からの提案を受けてしばらく使ってみることになった。
のだが! 導入はムリ、ということが判明した……投写距離が足りないのだ。今、ウチで使っているスクリーンはELITE SCREENの2.35:1シネスコ&カーブド/100inch。引き尻ぎりぎりに設置してもシネスコスクリーン目いっぱいに上映することが出来ない。あと数十cmでも余裕があれば……しかしこればかりはいかんともしがたい。
DLPプロジェクター
JVC LX-NZ3 オープン価格(市場想定価格36万2000円前後)
●表示デバイス:0.47" DMD(水平1920×垂直1080画素)●投写解像度:水平3840×垂直2160画素●レンズ:1.6倍手動ズーム・フォーカスレンズ(f=14.3〜22.9mm、F1.809)●レンズシフト:上下60%、左右23%(手動)●光源:レーザーダイオード●明るさ:3,000lm●ダイナミックコントラスト:∞対1●接続端子:HDMI×2系統(HDCP2.2対応×1, HDCP1.4対応×1)、D-sub 15pin×1系統、USB Type A×1系統、USB Type B×1系統、他●消費電力:360W(待機時:0.5W)●ファンノイズ:29dB/34dB(エコ/標準)●寸法/質量:W405×H145.8×D341mm/6.3kg
投写距離(画面サイズ16:9)
60インチ=180〜288cm、70インチ=210〜336cm、80インチ=240〜384cm、90インチ=270〜432cm、100インチ=300〜480cm、110インチ=330〜528cm、120インチ=360〜576cm、130インチ=390〜624cm
LX-NZ3の印象はLX-UH1と同様にとてもよかった。とにもかくにもDLA-X75Rと同じく、JVCの流れを汲むモデル。パッと置いてパッと好みのトーンで映画を観ることが出来る安心感がある。4Kの精細感やHDRのコントラスト感も充分。なにより3,000ルーメンの明るさがあり、絵に力強さがある。本機はレーザー光源技術「BLU-Escent」が採用されている。光源となっているレーザーダイオードの寿命は約20,000時間。2,000時間程度でランプ交換が必要な従来のモデルとはランニングコストがまるっきり違う。実質的には使いたい放題なのだ。
ただし、従来のJVCの他モデルやLX-UH1とは映像の見え方に少々違いがある。青色レーザーが光源となっているためか、やや青が強く出るようだ。シーンによっては白が青みを帯びているように感じられる場合もある。ここはこれまでのJVCのトーンをイメージしていたのでちょっと気になった。LX-NZ3とLX-UH1。価格とのバランスも含め、もしどちらかを選ぶとなったらLX-UH1にかなり心が傾きそうだ。思いのほか水銀ランプを使ったプロジェクターに目が馴染んでいるのかもしれない。
LX-UH1からLX-NZ3へのリプレイスを考えている方がいらっしゃるならばここは留意しておくべきポイントだと思う。また、DLP機ならではのレインボーノイズは(見え方に個人差はあるが)出ることは出る、ということも付け加えておこう。
ではこれまでと同様にD-ILA機の中から素直に次のモデルを、とはなかなかうまく事が運ばないのがつらいところ。懐具合の都合もさることながら、前述のテーマである「画素ずらしによる4Kアップコンバート」をクリアーすることにも今回は主眼を置きたいのだ。ウチのシアターのシステムも大きな変わり目となりそうな2021年の幕開けである。