パナソニックは、透明性と高いコントラスト再現を両立した透明有機ELディスプレイモジュールを開発、12月上旬からアジア大洋州市場を皮切りに発売すると発表した。調光ユニット付きの「TP-55T110」と、調光ユニットなしの「TP-55T100」の2モデル展開で、サイズはどちらも55V型。オープン価格での発売を予定している。

 透明ディスプレイは、その名の通り通常は透明なガラス板で、映像信号が入力された場合に、そこに情報を表示するデバイスだ。背景が透けて見えるので空間を遮断することもなく、設置環境にも自然に溶け込んでくれる。

透明有機ELパネルの応用例

 特にテレビの場合、画面サイズが大きくなると映像を写していない場合に黒い板としての存在感が目立ってしまうといった事も指摘されていた。透明ディスプエイであればそういったこともなくなるわけで、これは業務用途に限らず大きなメリットになるだろう。

 ではなぜ透明に見えるのか。パナソニックによると、網戸で向こうが透けて見えるのと同じ原理だという。通常の有機ELパネルでは発光するRGB画素が全面に配置されているのに対し、透明有機ELパネルはRGB画素と透明画素が交互に並んでいる。

 そのため映像信号が入力されていない場合は透明画素ごしに向こう側の風景が透けて見え、映像が入力された場合にはRGB画素が発光して画面が映し出されることになる。

 なお登場した2モデルのうち、調光ユニット付きのTP-55T110は光の透過率を電気的に制御する調光ユニットをパネル背面に装着しており、透明モードと遮光モードを切り替えることができる。遮光モードでは、調光ユニットの透過率を下げてパネル後方からの光を遮るので、明るい環境下でも背景が見えない、黒の締まった高コントラストな映像を表示できるという。

 さらに今回のパネルは、そもそもバックライトを必要としない自発光型なので、ディスプレイ部は厚さ1cm未満(TP-55T100は3.8mm、TP-55T110は7.6mm)と超薄型を実現。ディスプレイモジュール内の各部材を、真空で高精度に貼り合わせることで反射ロスを抑え、透明性を高めて色鮮やかな高画質映像を獲得している。

 さらに自発光ならではの広視野角を持ち、斜め方向からでも見やすいという特長も備えている。これはデジタルサイネージ(電子看板)やショーウィンドウといった用途には不可欠なスペックと言える。

 また同社では今回、ディスプレイ部と電源ユニット部を分離させたモジュール仕様を採用した。これにより、設置やシステム設計の汎用性が高くなり、住宅のみならず、商業、交通、公共施設といったさまざまな場所に柔軟に設置することができるという。また複数枚を接合することで大画面表示も可能になる。

 パナソニックでは2016年以降、ドイツのIFAIやアメリカのCES、日本のCEATECといった展示会で透明ディスプレイの試作品を展示していた。実際にStereoSound ONLINEでもその様子を紹介しており、当時も多くの読者諸氏からアクセスを集めていた。

 今回の商品化は通信インフラの進化やコンテンツの多様化が加速する中、新たな映像表現が可能な透明ディスプレイへの期待の声が多く寄せられたことを受けてとのことで、まずは先述の通り業務用ルートで販売される。

 しかしこの透明有機ELパネルなら、普段は窓として使い、必要な時に放送や各種情報を映し出すウィンドウテレビも実現可能だし、こういった新しい時代のディスプエイを求めているユーザーは少なくない。

 さらに今回の透明有機ELパネルと同時に、表面に木目風の多層化粧シートを取り付けることで木材のような質感を持ったディスプレイモジュールや、光源と鏡の間に制御デバイスを挟んだミラーディスプレイといった技術発表も行われた。前者は既に日産パビリオンのNISSAN CAFEでインタラクティブテーするとして体験展示されている。

 パナソニックには、これらの技術を活かして、リビングで使える大画面透明有機ELテレビやミラーテレビも発売して欲しいところだ。

<関連記事>

「TP-55T110」「TP-55T100」の主なスペック

●画面サイズ:55V型
●アスペクト比:16対9
●画素数:水平1920×垂直1080画素
●パネル種別:透明有機ELパネル
●接続端子:HDMI入力1系統(CEC Ver1.4b対応)、アナログ音声出力1系統(3.5mmステレオミニジャック)、USB端子1系統(ソフトウェアアップデート用)
●消費電力:292W(待機時約0.5W)
●寸法/質量:TP-55T110=約W1235×H748.9×D7.6mm/約14kg、TP-55T100=約W1225×H744.4×D3.8mm/約8.0kg、電源ユニット部=W210×H60×D305mm/約1.75kg