2A3パラレルシングルの無帰還モノーラルアンプ構成。これは、既に発売されているWR50パラレルシングルのSV-TE/50TSXと基本は同じ構成だ。タムラ製作所特注のトランス類は角張った稜線の新タイプを搭載している。公称出力はWR50の方が7W、2A3は6.5Wとほぼ同等だ。出力端子は8Ω、16Ω用が設置されている。

 初段は6SN7のパラレル接続であり、段間トランスを駆動する2段目は出力管の6V6GTを3極管接続。これらの増幅段はロフチンホワイト流に直結接続されている。低い回路インピーダンスで過渡特性を維持する意図が感じられる。新たに採用した段間トランスのB5002TSAは10kΩ対40kΩ(2次巻線直列)であり、2次側は同じ10kΩ巻線が2系統ある。本機では2次側パラレル接続なので巻線比は1:1でより低インピーダンスで使用していることになる。トランスドライブは巻線の直流抵抗が低い値なので出力管のグリッド電流対策としても有効な方式だ。こうして全段コンデンサー結合を排しているところに古典的な直熱3極管を使いこなそうという意欲が感じられる。

 2本並列の2A3は交流点火の自己バイアスであり、それぞれハムバランサーを装備。1、2段目のヒーターバイアスを片側の2A3カソード電位から与えているのが特徴。試聴機の真空管は増幅段にロシア製を用いていた。直熱整流管は5U4G。平滑用チョークコイル両側の平滑用コンデンサーは47µF/500Vを2個内蔵した特注の無誘導巻きメタライズドフィルム型を採用。また出力管カソード抵抗はホーロー型だ。いずれもサン・オーディオの製品によく見られるパーツだ。

 1本では3W程度の小出力管だが、パラレル接続の威力はたしかに音になって現れている。すなわちB&Wの800D3のような現代型の大型モニタースピーカーから安定した帯域バランスを得ているのだし、ダイナミックレンジの不足も感じず、安心して音量を上げられた。

 帯域バランスはゆるりとした高域減衰型のようで、カリカリした音にはならず、ダイナミックレンジの狭い古い録音から近年の録音まで、充分な情報量と表現意欲を聴かせる。これは現代型の広帯域低能率スピーカーを使う場合に欠かせない要件であり、音楽を盛り込む器の大きさは全方位的なゆとりにつながるといっていい。

 その上で試聴を進めると、やはり2A3らしいしなやかで繊細、豊かな和声感やホールトーンが産出される印象だ。豊潤とまではならずに、鮮度志向の録音は切れのいい音像で推進力を発揮するのが好ましい。また古典的な3点定位のジャズなど、ソリッドな音の彫像を提示しつつ、精妙な減衰音や間接音成分が軌跡を明瞭にして漂うわけで、無帰還らしい伸びやかさと、微小情報をよく析出させ繊細なタッチを生み出す潜在力には聴き惚れた。

Power Amplifier
サン・オーディオ
SV2A3TSX
¥584,000(ペア)

●出力:6.5W(8Ω、16Ω)
●入力端子:LINE1系統(RCAアンバランス、可変)
●入力感度/インピーダンス:300mV/100kΩ
●スピーカー出力端子: 8Ω、16Ω
●使用真空管:5U4G、6SN7GTB(TUNG-SOL/ロシア製)、6V6GT(Electro-Harmonix)、2A3(SOVTEK)×2
●寸法/重量:W360×H215×D270mm/15.5kg
●備考:キット仕様(¥464,000ペア)あり。シャーシカラーはワインレッドまたはダークグレーの2色から選択
●問合せ先:(株)サン・オーディオ TEL. 03(5296)0271

フロントパネルはシャンパンゴールド仕上げのアルミ製、右側に電源スイッチ、左側に入力ボリュウムを備える。真空管は、左から6SN7GTB(TUNG-SOL)、6V6GT(Electro-Harmonix)、2A3(SOVTEK、2本)、5U4G。

電源トランス、インターステージ(段間)トランス、出力トランス、そしてチョークコイルのすべてがタムラ製作所の特注品。なお、キット仕様ではトランスや端子などの主要パーツは実装済。

内部。配線はプリント基板を使用しないリード線タイプ。出力管のすぐ手前にハムバランサーを配置。金メッキ端子の真空管ソケットを採用し、2A3用ソケットのUX4Pは山本音響工芸製を使用。

搭載する3極出力管2A3はロシアSOVTEK製。

試聴スピーカーには、B&W 800D3に加え、フォステクスFE208NS(BK208NS)+T96Aのシステムも使用した。

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