今冬の各社注目製品

残念ながら2020年度の開催が中止となった「東京インターナショナルオーディオショウ」。
しかしながら、今年も各社から魅力的な製品の数々がリリース予定。そこで、Stereo Sound 217号(12月10日発売)では、楽しみにしていたオーディオファイルの方々に向け、「誌上TIAS2020」と題して、メーカー/輸入商社ごとに各社の《この冬の注目製品》をご紹介する特集企画を用意。今回は誌面に先立ち、WEB上でその内容を一部、先行公開する。

株式会社ステラ編

 

 

ギリシャのイプシロンが日本デビュー

 ウィルソンオーディオ、ビビッド・オーディオ、テクダス等々、数多くのハイエンドメーカーの製品を取り扱うステラが、本年度の東京インターナショナルオーディオショウで日本デビューさせる予定だったのが、ギリシャのアテネを拠点とするイプシロン。

 イプシロンは1996年に設立されたハイエンドに特化したオーディオメーカーだ。創設者の一人であり、設計責任者を務めるデメトリス・バクラヴァス氏からうかがった話とともに、日本上陸一号機となる「PST100mk2SE」をご紹介する。

 「PST100mk2SE」は切削加工による肉厚のアルミパネルで構成されたシンプルな外観を持つ大型ステレオプリ。型番末尾のSEは信号経路が銀線で統一されていることを表わす。基本的な回路構成は、増幅段→段間トランス→ボリュウム回路というもので、増幅段にシーメンス製の5極管であるC3mを用いたゼロフィードバック回路を採用、ボリュウム回路には自社設計・自社製造のトランスを左右チャンネルに1基ずつ搭載する。段間トランスも自社で設計・製造する特別品。電源部には整流管6CA4と自社設計のチョークトランスを用いている。

 現代的な外観デザインとは対照的に内部には伝統的な手法に基づくパーツが豊富に投入されているが、その理由を「我々はノスタルジックなメーカーではありません。採用の基準は常に、どこに何を使えばよい音になるのかということです。電圧増幅段に真空管を用いているのは、ソリッドステートよりも洗練された自然な音が得られると判断したからにすぎません。いっぽうで、大出力が必要な場合はソリッドステートを選びます。ようするに適材適所でデバイスを選択しているだけです」と語る。

 トランスに関しても「トランスは設計が難しく高価ではありますが、現代は磁性材料と巻き線の品質が格段に進化しており、今こそ見直されるべきデバイスです。結合デバイスとしてもキャパシターよりもはるかに利点があります」と採用理由が明確だ。ちなみに氏はトランスについて専門的に学んだ経験があり、自社設計・自社製造とすることにより品質と信頼性をコントロールできると胸を張る。

 最後に、ボリュウムノブ等のスイッチ類が前面パネルに無い理由をうかがう。

 「操作面でのミニマリスト的理念を反映させるため、ボタンやノブを設けていません。本体にノブを設けようと思ったことは、ただの一度もありません」

 来年にはパワーアンプが登場する予定だ。

 

真空管式プリアンプ「PST100mk2SE」(720万円・税別)。左は共同創立者・製造責任者のFanis Lagkadinos氏で、右が創立者・設計責任者のDemetris Backlavas氏。1966年生まれのBacklavas氏は、大学で電気工学を学び、イプシロン設立前はサウンドエンジニアとして活動するかたわら、プロ用アンプの設計・製造を行なっていたという。

 

 

 

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