ギター職人だったZach Mehrbach(ザック・メアファー)氏によって立ち上げられたZMFヘッドホン。彼が手がけたフォステクス製のヘッドホン「T50RP」のカスタムチューン品の音のよさが評判を呼び、独自のヘッドホン開発を決意、これまでの常識を超えた新たなヘッドホンの開発がスタートした。

 製品開発時に彼が目指したのは、当時、世界的に高い評価を得ていたソニーのヘッドホン「MDR-R10」を超えること。木工の専門知識を活かし、独自のチューニング・メソッドを確立。同時に、さまざまなハウジングの幾何学的構造にチャレンジすることで、斬新、かつ複雑な成形複合曲線を導き出している。

 さらに音質改善策として、ハウジングの周囲に5つのオープンスロット(小さな穴)を追加し、複合カーブの音響効果と半開きのデザインの利点を組み合わせたクローズドデザインを考案。その成果が彼のデビュー作となった完全オリジナルのフラッグシップモデル「Eikon」(エイコン)と「Atticus」(オーテール)というわけだ。

密閉型ヘッドホン
ZMF Vérité Closed LTD Stabilized ¥450,000(税別、限定モデル)

●使用ドライバー:50mmベリリウムコーティングPENドライバー、20%ベリリウムコーティング
●再生周波数特性:10Hz〜25kHz
●インピーダンス:300Ω
●感度:97dB/mW
●最大入力:250mW
●質量:VéritéClosed=455g、VéritéClosed LTD=500g
※付属品:ストックOFCケーブル2本(各1.5m、6.35mmコネクター、XLR)、ZMF LTDマホガニーケース、オーナーカード
※ラインナップ:「VéritéClosed STD MonkeyPod」¥330,000(税別、モンキーポッド仕上げ)

今回発売される「Vérité Closed LTD」。右下が取材で使った「Vérité Closed LTD BLUE STABILIZED MAPLE BURL」で、左上は「Vérité Closed LTD PURPLE STABILIZED MAPLE BURL」となる。木材によって一台一台の模様が異なってくるので、同じ仕上がりはこの世にふたつとない

 そしていまから約2年前、ベリリウムコーティングのドライバーを組み込んだオープン型ヘッドホン「Vérité」(ヴェリテ)を発表。ヴェリテとは、現実感・自然主義・真実感を強調するスタイルとして使われる言葉。彼はそこに“究極の表現力”という強い思いを込めている。

 ここで取り上げる「Vérité Closed」はその名称通り、Véritéをベースに 密閉型として開発された注目作だ。実際、ベリリウムを蒸着した超薄型PEN(ポリエチレンナフタレート)ドライバーをはじめ、マグネシウム素材を採用した軽量シャーシ、ラムスキンのイヤーパッド、雄大なサウンドステージを実現する側面のポーティングなど、共通する技術が少なくない。

 Véritéのデザインの象徴とも言えるハウジング(スタビライスド)についても、木材ブロックからくり抜いて、ひとつひとつていねいに仕上げられる。

 今回、ザック氏が密閉型モデルを手がけた理由は、ふたつ。より豊かな低音の量感を獲得すること、そして唯一無二の着色仕上げによって、世界にひとつしかないヘッドホン「Vérité Closed LTD」をユーザーに提供することだったという。

 製品はオーダーメイドとなるが、LTDバージョンについては季節ごとに異なる木材で少量生産するスペシャルモデルで、今回の「LTD Stabilized」では「PURPLE STABILIZED MAPLE BURL」と「BLUE STABILIZED MAPLE BURL」のふたつの仕上げを用意。メープルバール材に青または紫の樹脂を浸透させたもので、独得の色合いと質感を備えている。生産は米国イリノイ州。

写真左は付属品一式。6.5mmピンジャックとXLRコネクターの2種類のケーブル、さらにユニバースパッドも同梱されている。右の写真はイヤーパッドを外したところ。この奥に50mmドライバーが取り付けられている

 では早速、その実力を検証していくことにしよう。今回の試聴機器は別表の通り。CD、SACD、ハイレゾ音源の他、映画UHDブルーレイも視聴している。

 まず装着感だが、無垢材のハウジングの影響もあって、特に軽いという印象ではないが、高級スキンを奢った肉厚のパッド(オーテールパッド)が両耳をしっかりとホールドして、頭にかかる負担は意外に少ない。パットの感触の心地よさと、それに合わせた側圧のチューニングの巧みさ、そしてマグネシウム製シャーシによる軽量化といった細かな工夫の積み重ねによって、快適な装着感を実現しているということだろう。

 女性ヴォーカル、ピアノ、ジャズトリオと、日頃から聴き慣れた曲を再生してまず感じることは、音の質感が実に滑らかで、きめ細かいことだ。ジェニファー・ウォーンズのCD『Famous Blue Raincoat』から「First We Take Manhattan」を聴くと、艶やかな歌声に加えて、奥行、高さ方向への空間の拡がりと、ピッチを正確に刻んでいくリズム感のよさが印象的だ。特に響き、余韻など、微小信号の描きわけが意欲的で、その場の空気感、気配までも鮮明に描き出す。

 今井美樹のSACD『Dialogue』は、透きとおった歌声はイメージ通りだが、声の出方、低音の伸び、そして空間の拡がりと、そのサウンドは躍動感に富んで、開放的だ。例えば「青春のリグレット」。アコースティックギター、ピアノ、パーカッションと、シンプルな演奏とともに彼女のフレッシュな歌声が拡がっていくが、自分の目の前で歌っているかのような生っぽさに、思わずゾクッとするほど。ここまでの鮮度の高さは、通常のヘッドホン試聴ではなかなか体験できない。

 続いてハイレゾ音源から、反田恭平のピアノ『リスト』(96kHz/24ビット/WAV)の再生。音の勢い、瞬発力を感じさせる厚みのある響きが特徴的。スタンウェイの鍵盤を時には軽やかに、時には激しく叩く反田の指の動きが感じられるほど、分解能が高く、同時に、ホールの空間の大きさ、気配がより明確に感じられるくらい、余韻の描写が生々しい。

本文にもある通り2種類のイヤーパッドが付属しており、それぞれの音の違いを楽しむことができる。パッドはハウジングの縁に沿ってかぶせる方式なので、交換も簡単だ

 ここでイヤーパッドを少し小振り(厚みが薄い)のユニバースパッドに交換してみたが、その変化は予想以上。特定の色合いを感じさせないニュートラルな再現性は変わらないが、低域がわずかに締まることで、リズムの刻みがより的確になり、曖昧さを感じさせない。

 そして音の立ち上がりが俊敏で、粒立ちのいいピアノの響きが、ホールの空間にゆるやかに浸透していく様子も鮮明に描き出していく。本機にはこの2種類のイヤーパットが付属しているので、音の好みや再生する曲によって、積極的に使い分けることをお勧めしたい。

 最後に映画『アリー、スター誕生』を大画面スクリーンとの組合せで再生してみたが、ここでも鮮度の高い、勢いのあるサウンドが躍動した。大きな歓声に割り込んでいくようにレディ・ガガの歌声が浸透し、厚みのある演奏が場を盛り上げる。

 彼女が熱唱する「Shallow」は骨格の太いスケール感溢れるサウンドが素早く立体的に拡がり、場内の興奮がダイレクトに感じ取れるほど。120インチの4K映像と対等に渡り合うだけのクォリティ、スケール感は立派。最上級のホームシアターの臨場感を体験することができた。

 高S/N化、ワイドレンジ化を図りながら、分解能に磨きをかけるという正攻法の音づくり。手持ちのCDライブラリー、ハイレゾ音源の再生に止まらず、映画、音楽ライブなどの映像コンテンツの再生でも、充分通用するだけの豊かな表現力を備えていることが確認できた。

 世界にひとつしか存在しないという高級ヘッドホン、その実力は私の期待値を大きく超えるレベルに達していた。

今回の試聴は、SACD/CDプレーヤーやUDBブルーレイプレーヤーの2chアナログ出力をヘッドホンアンプのEuforiaに入力して行った。ハイレゾ音源は、UDP-LX800のUSB端子にメモリーを取り付けて再生している

<主な試聴機器>

●SACD/CDプロジェクター:デノンDCD-SX1 Limited
●ヘッドホンアンプ:Feliks Audio Euforia
●UHDブルーレイプレーヤー:パイオニアUDP-LX800
●プロジェクター:JVC DLA-V9R

今井美樹さんのSACD『Dialogue』再プレス決定!
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