オーディオテクニカ AT-ART9XI ¥150,000
●発電方式:MC型●出力電圧:0.5mV(1kHz、5cm/sec)
●内部インピーダンス:12Ω
●適正針圧:1.6g〜2g(1.8g標準)
●自重:8.5g●針交換価格¥105,000
●問合せ先:(株)オーディオテクニカ

オーディオテクニカ AT-ART9XA ¥150,000
●発電方式:MC型
●出力電圧:0.2mV(1kHz、5cm/sec)
●内部インピーダンス:12Ω
●適正針圧:1.6g〜2g(1.8g標準)
●自重:8.5g
●針交換価格¥105,000
●問合せ先:(株)オーディオテクニカ

 オーディオテクニカは、MC型フォノカートリッジの最高級ラインにARTの名称を冠している。本年6月に同社は2機種のARTを同時に発売した。両機ともART9Xのネーミングが共通で価格も15万円と同一。AT-ART9XIは従来のART9から刷新した鉄芯タイプのフラッグシップ機。型番末尾のIはアイアン=鉄芯を意味している。いっぽうのAT-ART9XAは、ART7からの大幅改良モデル。型番末尾のAはエアー(空気)で空芯を意味しており、非磁性のポリマーを巻き枠にしている。0.12mVの出力電圧だったART7に対して、ART9XAでは巻き枠を大型化することで0.2mVと大幅アップを実現。

 両機とも発電コイルを左右独立配置にした同社伝統のデュアルムービングコイル構造を特徴としており、セパレーションのよさを狙っている。強磁力のネオジム磁石と、鉄とコバルトの合金であるパーメンジュールの全面採用も特筆事項だ。

 両機は本誌試聴室で聴いている。アナログプレーヤーはテクニクスSL1000Rで、ヘッドシェルは自重15gのオーディオテクニカ製AT-LH15H。ここでは昇圧トランスにゼネラルトランス販売FM-MCT1(ケーシング済み)を併用してエアータイトのATC5プリアンプのフォノ入力に接続。パワーアンプもエアータイト製ATM3でB&W800D3を鳴らしている。

ヘッドシェルは同社AT-LH15H(¥11,500)を使って試聴した。

 まずは鉄芯タイプのAT-ART9XIから。一聴して同社OC9やAT33のシリーズよりも力感があり、しかも品位の高い音だ。ブライアン・ブロンバーグ「WOOD2」では、音の切れ込みが鋭く定位のしっかりした音で聴き手に迫ってくる。ボロンカンチレバーに無垢特殊ラインコンタクト針という仕様はOC9XSLと同等なのだが、発電機構がメタルボディにリジッドに固定されている構造が音に表れたかっこうだ。アンセルメ指揮「三角帽子」は左右の広がり感が好ましく、その効果として深みのある奥行き感が得られている。エネルギーバランスが整っているのは、井筒香奈江のダイレクト盤でも確認できる。そのB面はウッドベースとエレクトリックベースの両方が参加しているのだが、その描きわけも明瞭でヴォーカルの肉感的な存在も定位感よく提示している。音質的な個性は控えめに感じられ、オーディオ的なハイファイ・サウンドという好印象を抱いた。

 ボロンカンチレバーにシバタ針を組み合わせたAT-ART-9XAは、なるほど空芯らしいと納得できる、誇張や脚色を手控えたような音の素直さが特徴。鉄芯タイプの音に耳慣れている私は陰影のコントラストをもう少し望みたくなるが、鉄芯に起因するヒステリシス成分から解放されているぶん、こちらのほうが正確な音の表現なのかもしれない。音場空間の提示はART9XIと似通っており、やはり奥行き感の表現に長けて広々としている。前作のART7よりも出力が高いぶん力感も増しており、清楚な音の表情が魅力だ。

AT-ART9XI

AT-ART9XA

針先と発電機構のクローズアップと概念図。カンチレバーは両機ともΦ0.28mmボロン。スタイラスはAT-ART9XIが1.5×0.28milラインコンタクト、AT-ART9XAが2.7×0.26milシバタ針。逆V字型に配置されたデュアルムービングコイル方式は共通で、ネオジムマグネットとパーメンジュールヨークを採用。AT-ART9XIは出力電圧0.5mV。空芯型のAT-ART9XAは巻枠の見直しによって刷新前のAT-ART7からコイル断面積を拡大し、出力電圧0.2mVを得る。アルミハウジングに高剛性樹脂を組み合わせて寄生共振を抑制するボディ構造、アルミ削り出しベース部も両機で共通で、カートリッジ側にネジ孔が切られビスだけでヘッドシェルに取り付けられる。


試聴する三浦氏。アナログプレーヤーはテクニクスSL1000R。

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