映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第47回をお送りします。今回取り上げるのは、おおよそ400年前のアイルランドを舞台にした幻想的なアニメーション『ウルフウォーカー』です。そのオリジナリティあふれる映像美とともに、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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『ウルフウォーカー』
10月30日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほかにて全国ロードショー

 ダブリンのバリーファーモット・カレッジのアニメーション学科の同級生だったトム・ムーア、ポール・ヤング、ノラ・トゥーミーの3人が1999年に設立した製作会社カートゥーン・サルーン。そこから送り出された『ブレルダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ブレッドウィナー』の3本は、すべてがアカデミー長篇アニメーション賞にノミネートされる成功を収めた。

 その注目スタジオの最新作がこの『ウルフウォーカー』だ。中世アイルランドのキルケニーの町。母を亡くし、父親と一緒にイギリスからその土地に移り住んだ少女ロビンは、町の奥に広がる森で住人たちから迫害される狼の群れに出会い、時空を越えた不思議な体験をする。

 眠りにつくと魂が彼ら狼と交感し、身体を抜け出して月の光に照らされた草木の間を駆け巡るのだ。一方、領主は危険な狼討伐の令を出し、それに狩人であるロビンの父も参加する。

 舞台になるアイルランド南東部のキルケニーはカートゥーン・サルーンのスタジオ所在地で、現在も多くの中世建造物を残す「大理石の都市」といわれている。その歴史ある街からこの物語が紡がれたのだろう。

 狼の少女メーヴとロビンが駆け回る森はほんとうに美しく幻想的で、同時に過去の3本よりもさらに動く絵=アニメーションの自由でダイナミックな魅力に満ちている。子どものころ日が暮れるまで遊んだ原っぱは、こういう命燃え上がる場所、秘密の土地だったのではないかと思わされ、草の匂いも蘇ってくる。いまはそれらの空き地も消え、宅地化されてしまったけれど。

 物語のベースになっているケルト文化は自然崇拝に特徴のある多神教だから、日本人が感じる八百万の神の存在と共通点があるのかもしれない。なにかこう、たいへんにしっくりくるお話なのだ。

 音楽は『ミクロコスモス』『WATARIDORI』などのドキュメンタリー、『コララインとボタンの魔女』、そして『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』のフランス人アーティスト、ブリュノ・クレ。主題歌の「ランニング・ウィズ・ザ・ウルヴス」は、『アナと雪の女王2』でエルサの耳にだけ届いたあの不思議な声を担当したノルウェー出身の歌手オーロラの人気曲の新録音バージョンだ。

 夏はあったのか。なかったのか。いまだ落ち抜かぬ世の中で、しばし別世界に誘われるのもいいのでは。『鬼滅の刃』とはまたひとあじちがうアニメーション世界を楽しみましょう。

『ウルフウォーカー』

10月30日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほかにて全国ロードショー
監督:トム・ムーア、ロス・スチュワート
声の出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン、マリア・ドイル・ケネディ/日本語吹き替え版:新津ちせ、池下リリコ、井浦新
原題:WolfWalkers
配給:チャイルド・フィルム
2020年/アイルランド、ルクセンブルグ/ビスタサイズ/103分
(C)WolfWalkers 2020

公式サイト https://child-film.com/wolfwalkers/

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