昨日(2020年10月25日)午後、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)とキングレコード株式会社、 株式会社コルグの3社は、4K映像とDSD 5.6MHz、およびPCM192kHz/24ビットのハイレゾ音源フォーマットでインターネットライブを配信する実証実験を開催した。

ユーザー宅での配信再生イメージ。PCやタブレット、Amazon Fire TC Stickなどで視聴可能。ただしデバイスによって再生できる音声のフォーマットが異なるので、注意が必要だ

 新型コロナウイルス感染症流行の影響で、観客を入れた演奏会・ライブイベントが大きな打撃を受けている。それもあり、インターネットを利用した映像や音楽配信の需要は急速に高まってきた。しかしその多くは既存の動画配信をベースにしたもので、鑑賞に堪える品質を備えているものは少ない。特に音質については、AAC圧縮の384kbpsクォリティがせいぜいといったところだ。

 そんな状況を変えようと、高感度のアーティストや配信サービス業者側による取り組みも進んでおり、弊社サイトで紹介しているWOWOW主導のハイレゾ配信実験などもそのひとつだ。そして昨日の3社によるインターネットライブ配信実証実験も、ひじょうに重要なアプローチになっていた。

 今回の実験内容は、自宅にいながらレコーディング・スタジオならではの高品位なサウンドを再現し、現場の空気感を共有しているような臨場感あふれる体験を実現するための技術的チャレンジとなる。音楽専用レコーディング・スタジオ「キング関口台スタジオ」での演奏を、4K映像とハイレゾオーディオ(DSD5.6MHz/1ビットおよび192kHz/24ビット)という大容量コンテンツで配信する取り組みは、世界初だ。

今回の実験で使用したLive Extreme用のエンコーダー。ウィンドウズ10マシンで動作する

 今回の実証実験では、コルグが開発した動画配信システム「Live Extreme」を使用し、IIJのバックボーンであるCDN(Content Delivery Network)を経由して配信を行なった。そのうち4K映像+DSD 5.6MHz音声の組み合わせでは転送レートが60Mbps近くになってしまうため、今回は一般公開せず、関口台スタジオでの関係者向けデモとしてのみ上映された。

 ちなみに一般公開されたのは4K映像+192kHz/24ビット/FLACが最高品質の組み合わせだったが、こちらの場合でも27〜28Mbpsの転送レートが必要とのことだ(2K映像+192kHz/24ビット/FLSACの場合は10Mbps前後)。

 さて、StereoSound ONLINE編集部では、昨日の関口台スタジオでの実証実験に参加し、4K映像+DSD 5.6MHzの配信品質を体験させてもらった。

 Studio1に収録システムが設置され、ここでのホルン奏者の福川伸陽さんやピアニストの阪田知樹さんの演奏をライブ配信した。4Kカメラは複数台をフィックスで設置し、サブブースでモニター&スイッチングした映像をエンコーダーに送り込む。音は2chアナログ音声をそのままエンコーダーに入力して、ここで配信マスターを仕上げている。

伝送実験の概要。これまでの4K+ハイレゾ伝送では大がかりなシステムが必要だったエンコード作業を一台のPCでできるようになっているのが最大の特徴だ

 ちなみに今回の伝送実験のキーになったのがLive Extreme用のエンコーダーだが、これはソフトウェアベースで開発されたもので、4K映像と複数の音声ストリームを1台でエンコード可能。映像圧縮はH.254のハイプロファイルで4K/30pまたは2K/60pに対応。音声は2cで、DSD 2.8MHz/5.6MHz(DoP方式)と44.1kHz/16ビット〜384kHz/24ビットのFALC/アップルロスレスが扱える。

 これまでのDSDを使った配信では、映像との同期をどう取るかが難しかったそうだが、今回はその点も解消し、違和感のないライブ配信が実現できていた。Live Extremeエンコーダー開発者の大石耕史さんによると、このエンコーダーは音質を優先してオーディオクロックを基準にしていることもポイントで、必要な場合には映像を音に合わせるといった処理を加えているそうだ。

 関口台スタジオのDSD 5.6MHz伝送実験では、Studio1で撮影した素材をこのエンコーダーでリアルタイムに圧縮・配信し、それをIIJの回線を経由してStudio2に設置したデコード用PCで受信している。映像はPCのHDMI端子から4Kテレビ(パナソニックの有機EL)につなぎ、音声はUSBケーブル経由でコルグNu-1に入力してアナログ変換、スタジオモニターで再生した。ちなみにこれらの処理の関係もあり、配信を再生できるまでに40〜60秒のタイムラグがあるそうだ。

ピアニストの阪田知樹さん(左)と、ホルン奏者の福川伸陽さん(右)

 さてそうして上映されたライブは、やはり音のよさに驚いた。福川さんは自身が録音した素材と生演奏をミックスした八重奏で『マーラー 交響曲第5番 第4楽章 アダージェット』を演奏した。この楽章はもともとハープと弦楽器で演奏されるが、今回はコロナ時代に一人で演奏する方法としてホルンによる八重奏を考えたのだという。

 その演奏ではホルンのやさしさ、力強さがダイレクトに伝わってくるもので、録音した部分と生演奏の馴染みもとても自然。楽曲としてまったく違和感のないまとまりになっていた。

 続いて阪田さんによる『ショパン(バラキレフ編曲)のロマンス』『ロベルト・シューマン(F.リスト編曲) 春の夜 S.568/R.256』の演奏も披露されたが、こちらもとても生々しく、かつフレッシュなサウンドが再現されていた。

 音がリアルで、ひじょうに近く感じるので、あたかも目の前で弾いているかのように感じた次第だ。高品質映像とロスレスサウンドであれば、配信でも生演奏のようなイリュージョンを体験できると実感した。

関口台スタジオのStudio1には4Kカメラやマイクが設置され、ライブの収録が行われた

 3社では今回の技術を使い、配信プラットフォーマーや放送局、ライブビューイング、オンライン見本市、ライブハウスといった様々な用途を提案していきたいとのことだ。

 今回のコンテンツは、以下のスケジュールでアーカイブ配信(無料)されている。ウィンドウズ、マック、スマートフォンなどのほとんどのデバイスで試聴できるのでぜひ一度その魅力を体験していただきたい。

オンデマンド配信の概要
●期間:2020年10月26日(月)10:00〜11月8日(日)24:00
●演奏:
福川伸陽(NHK交響楽団首席ホルン奏者)
 『マーラー 交響曲第5番 第4楽章 アダージェット(八重奏に編曲)』
阪田知樹(ピアニスト)
 『ショパン(バラキレフ編曲)のロマンス』『ロベルト・シューマン(F.リスト編曲)春の夜 S.568/R.256』
●視聴URL:以下の関連リンク参照
●注意点:オンデマンド配信は最大で4K映像+192kHz/24ビット/FLACまでとなります。また192kHz/24ビットまで再生できるのはウィンドウズでEdge/Chrome/Operaを、マックではSafari/Chrome/Edge/Operaのブラウザを使っている場合で、他のデバイスでは最大で48kHz/24ビットでの再生になります。

25日の伝送実験には麻倉さんも参加していた。その詳細は後日の「いいもの研究所」で紹介予定です