チャンネルベースで音楽録音の3Dミキシングを実現、欧州のクラシック系レーベルを中心に支持されている「Auro(オーロ)3D」。この画期的な方式を発案したベルギーのギャラクシースタジオを母体とするストームオーディオ社(フランス)のISP 3D.16ELITE(HiViグランプリ2018/ブロンズ・アウォード受賞)が第2世代機に進化、この秋わが国に上陸した。

向かって左:PA 16 MK2。右:ISP.24 ANALOG MK2

CONTROL AV CENTER
STORM AUDIO
ISP.24 ANALOG MK2
¥2,000,000+税

●対応サラウンドフォーマット:ドルビーアトモス(最高13.1.10構成)、Auro-3D、DTS:X、ほか
●接続端子:HDMI入力7系統(4K/60p、18Gbps対応)、HDMI出力2系統(4K/60p、18Gbps対応、うち1系統eARC対応)、デジタル音声入力6系統(同軸×3、光×3)、アナログ2ch音声入力5系統(バランス×1、アンバランス×4[7.1ch入力設定可])アナログ音声2ch出力1系統(バランス)、アナログ24chプリ出力1系統(バランス)、LAN1系統
●ラインナップ:16ch仕様(¥1,800,000+税)、32ch仕様(¥2,300,000+税)
●アップデート:ISP 3D.16ELITEからのアップデートあり。24chデコーダーアップデート(¥470,000+税)、HDMI基板アップデート(¥200,000+税)
●寸法/質量:W490×H191×D479mm/13.2kg

 

16ch POWER AMPLIFIER
PA 16 MK2
¥1,300,000+税

●搭載アンプ数:16
●定格出力:200W×16(8Ω)
●接続端子:アナログ音声入力1系統(バランス)、コントロール端子(USBタイプA、LAN、トリガー12V)
●ラインナップ:8ch仕様(¥1,000,000+税、ブリッジ使用可)
●寸法/質量:W442×H150×D495mm/18kg
●問合せ先:(株)ナスペック TEL:0120-932-455

 

 

 ISP 3D.16ELITEは、オーバーヘッドスピーカー6本が最大設置本数だったが、今般登場した後継機のISP.16 ANALOG MK2は同8本の配置が可能となり、その上位モデルであるISP.24 ANALOG MK2(以下、ISP.24 MK2)は、信号処理上最大13.1.10(オーバーヘッドスピーカー10本)構成が可能となった(サブウーファーは複数台接続可能)。

 ここではISP.24 MK2と同時発表された16chパワーアンプPA 16 MK2を組み合わせて、オーバーヘッドスピーカーを3列9本配置しているHiVi視聴室でそのパフォーマンスを検証することにした。PA 16 MK2は、パスカルオーディオ社(デンマーク)のクラスDアンプ技術を援用した200W(8Ω)/ chの16chパワーアンプ。アナログ音声入力はISP.24 MK2、PA 16 MK2ともにXLRバランス端子のみが装備されている。

 輸入元スタッフの協力の下、厳密な測定と入念な調整を経て得られた両機によるイマーシブ・サウンドは、Hi Vi視聴室史上最高レベルのすばらしさ。その音の訴求力の凄さに大きな衝撃を受けたことをまず告白しておこう。

 

ISP.24 ANALOG MK2は、パネル右側に16ch分の、筐体中央下側に8ch分のプリ出力を装備。すべてXLRバランス仕様となる。HDMI端子や拡張用ボード追加用のスロット構造になっており、必要に応じての基板および機能の追加が可能だ。前世代機と比べて、デコード用DSPやボリュウム構成が進化、全体的なソフトウェアも洗練され、高音質と多機能、使いやすさが向上している

 

8Ω時の定格出力200Wを誇る16chぶんのパワーアンプを高さ15cmほどの筐体に収めたPA 16 MK2。16chのバランス入力端子に加えてバナナプラグ/Yラグ端子対応のスピーカー端子をところせましと装備している。アンプ回路はデンマーク・パスカルオーディオ社製クラスDアンプモジュールをストームオーディオが独自カスタマイズをして搭載している。増幅回路については前世代からのステップアップは特にないそうだが、パネル材質等の筐体構造は変更されている

 

システム全体の低域描写を包括制御する新技術に注目

 最初にISP.24 MK2の概要に触れたい。本機はAuro3D/ドルビーアトモス/DTS:Xのサポートはもちろんのこと、IMAXエンハンスド、DTS:Xプロのデコードについても本年度中にアップデートで対応する予定という。初代機との違いについていうと、まずデコーディング用DSPがS/N改善を図られた、テキサス・インスツルメンツ製新世代チップに載せ替えられたことが挙げられる。ボリュウムについても、従来のデジタルタイプから小音量時のS/N改善が図れるデジタル/アナログ・ハイブリッド・タイプに変更された。

 また本機採用のルームアコースティック補正技術「DiracLive(ディラク・ライヴ)」も最新ヴァージョンとなり、新たに「バスコントロール・アドオン」機能が加えられた。これはサブウーファーを含め、全チャンネルの低域のディレイ/ゲイン/フェイズを統合的に管理し、リスニングポイントで低音が不明瞭になることなく最適な音が得られるように包括的に制御する技術。この機能が加わったことで、サブウーファーを複数台設置した場合でもシームレスでナチュラルな低音が得られるという。

 また本機は、24チャンネルを水平(サラウンド)方向だけではなく垂直方向に展開することができる。つまり内蔵のアクティヴ・クロスオーバーを用いた、2ウェイ以上のスピーカーのマルチアンプ駆動も可能なのである。また本機はネットワークオーディオ機能も有しており、総合音楽再生管理ソフト「Roonレディ」に対応(2ch/Stereoのみ)。なお本機の操作は専用アプリ「ストームリモート4.0」をインストールしたiPadで行なう。同アプリは以前に比べてシンプルなレイアウトに変更され、とても見やすくなった印象だ。

 

最新映画音響の魅力を満喫!驚愕のプロセッサーの誕生だ

 まず「DiracLive」最新版による測定を行なう。この室内音響補正技術最大の音質訴求ポイントは、本格的なインパルス・レスポンス補正が可能なこと。測定用マイクロフォンをリスニングポイント近傍を移動させながら最低9ヵ所でテストトーンを設置されたすべてのスピーカーから放射させ、直接波と初期反射音をトータルで最適化する仕組みだ。

 ちなみに周波数補正についていうと、DiracLiveがリファレンスとする周波数特性のターゲットカーブは、400Hzを0dBとし、30Hzで +2 dB、10kHzで – 2 dBというゆるやかな右肩下がり特性。経験上納得できるカーブだが、もちろんこの特性をフラットに設定することもできる。ちなみにこの測定は、機器購入時に輸入元または販売店がユーザー宅に赴き、行なってくれるという。

 

ISP.24 ANALOG MK2の基本設定や操作等はパソコンならびにiPadが必要だ。特に基本設定は、LAN経由でインターネットに接続、別売りマイクセット「New Microphone Kit(仮)」(価格未定)を接続したうえで、設定用パソコンからISP.24〜のIPアドレス(ネットワーク上の住所を示す数字)を使って、PCのブラウザーからISP.24〜に接続。基本スピーカー配置等を指定/設定したあとで、測定用マイクをUSBケーブルでパソコンとつなぎ、PCの画面に出てくる測定操作等の設定を行なう仕組み。部屋音響補正はDirac(ディラク)社の最新手法、Dirac Live3が用いられている。マイクで拾ったデータはインターネットを介してストームオーディオ社のサーバーに送られ、演算結果がユーザー宅へフィードバックされる

 

 テストはHiVi視聴室リファレンスのモニターオーディオのプラチナム・シリーズⅡでフロア・チャンネルを構成して行なった。オーバーヘッドスピーカーは天井に取り付けられたイクリプスのTD508MK3。なお、サブウーファーのPLW215Ⅱはセンタースピーカー両サイドに2基設置した。

 チャンネル・アロケーションについては下図の通り。センタースピーカーにPLC350Ⅱを充てた7.1ch構成でテストを始めたが、放射パターンの異なる横置きセンタースピーカーが他チャンネルと音が溶け合わない違和感が拭えず、センターレスの6.1ch構成に変更した。この変更により各チャンネルが有機的かつ緊密に溶け合った極上のサラウンド空間が出現、さまざまな音楽・映画ソフトを再生しながら、その蜜の味を堪能した。

 

取材は、HiVi視聴室に7.2chスピーカーをセット、天井に設置済のオーバーヘッドスピーカー9本のうち、8本を使う設定で実施した。ISP.24 ANALOG MK2では、さまざまなパターンがプリセットされているが、今回は「Base Layer」(フロアスピーカー)は7.2chに、「Height Layer」は天井前方の3本を、「Top Layer」は、天井中央の3本、後方の2本の計8本を割り当てた。なお、フロアーのセンタースピーカーは途中で外した6.2chの状態として再設定、測定もやり直した

 

測定は視聴位置をシングルポジションにした状態では9箇所行なう必要がある。今回は7.2.8構成だったため、17回の信号音の採取を9回ずつ実行、延べ153回の集音を行ない、測定時間は15分程度かかった。視聴位置を広くする場合は測定回数も増えて、最大で17箇所になるケースもある。なお、測定は、初回導入時に輸入代理店のナスペックあるいは販売店が行なうが、ユーザー自身が実施する場合は、専用マイクセット(New Microphone Kit仮称/価格未定)を購入する必要がある

 

測定した結果の画面。写真はフロントLスピーカーの補正結果だ。ターゲットカーブは、ストームオーディオ社が定めたカーブで、低域を少し持ち上げつつ、高域を落とした状態となる。カーブは完全フラットなどにすることも可能だ

 

 ちなみに今回の視聴時に駆動される天井スピーカーは下図の通り。Auro3Dと同社提案のアップミックス・モードAuromatic再生時は6本、それ以外(ドルビーアトモス等)は4本が駆動される設定だ。

ストームオーディオのコントロールAVセンターは、フォーマットごとのスピーカー配置を基準にスピーカー設定を行なう考え。今回はHiVi視聴室の天井に配置されたスピーカー9本(放送用の22.2ch配置を基準にしている)のうち、同時に8本を接続しているため、ドルビーアトモス、DTS:X、Auro-3Dそれぞれで、再生するスピーカーが異なる。左図はドルビーアトモス音声再生時に鳴る天井スピーカー4本を、右図はAuro-3D再生時に鳴る天井スピーカー5本を示している。なお、音声信号と再生スピーカーの関係は、スピーカー設定とプリセットされている配置次第で変化する

 

 まずAuro3Dのデモディスクでバスコントロール・アドオン機能のオン/オフを試してみたが、圧倒的にオンがいい。うたい文句通り低域の混濁感が雲散霧消し、すっきりと澄明な音場空間が出現するのである。ドルビーアトモス収録のUHDブルーレイ『リメンバー・ミー』の花火が打ち上げられる場面を観たが、その破裂音の強烈なことといったら! 2基のPLW215Ⅱから放射される低域成分が、不必要に尾を引かずピタッと止まるのである。バスコントロール・アドオン機能のすばらしさとともに、このサブウーファーの実力の高さにも驚愕した。

 映画ソフト再生時のサブウーファーの複数使用については、過去の経験からいうと必ずしもうまくいくとは限らず(部屋の形状や広さによって混濁感が増したり、2基の低音が打ち消し合って低音の量感が削がれたりする)、そんなに簡単に推奨していいものかと老婆心から忠告したい気分で本誌前号を眺めていたが、バスコントロール・アドオン機能を使えば間違いなくうまくいくだろうとの確信を得た。

 同じくドルビーアトモス収録のUHDブルーレイ『1917命をかけた伝令』『地獄の黙示録ファイナル・カット』『フォードvsフェラーリ』等を再生してみたが、ダイアローグのヌケのよさ、サウンドエフェクトの手応えのある質量感、音楽のダイナミックな広がりなど聴き応え満点。ハリウッドの超一流ダビングシアターにワープしたような気分で最新映画音響の魅力を満喫した。

 『フォードvsフェラーリ』のクライマックス、ル・マンでのレースシーン。唸りを上げて走り抜けるフォードGT40の、7000rpm前後のエグゾーストノートは、まるでゴージャスな音楽のよう。いくら音量を上げていっても、まったくうるさくないのだ。おそろしいサラウンドプロセッサーが登場したとの思いしきりの数時間。前モデルからの音質向上ぶりは筆者の予想をはるかに上回っていた。ぜひ一度自宅でもテストしてみたい。

 

主なリファレンス機器

プロジェクター
JVC DLA-V9R

スクリーン
キクチ グレースマット
(120インチ/16:9)

UHDブルーレイプレーヤー
パナソニック DP-UB9000(Japan Limited)

スピーカーシステム
モニターオーディオPL300Ⅱ(L/R)、PLC350Ⅱ(C)、PL200Ⅱ(LS/RS)、PL100Ⅱ(LSB/RSB)、PLW215Ⅱ(LFE×2)、イクリプスTD508MK3(オーバーヘッドスピーカー×8)

 

視聴したソフト

BD
『Auro-3D Demonstration Disc Vol.2』『MAGNIFICAT』、『ブレードランナー2049<チェコ盤>』(以上、Auro-3D音声)、『WESTERN STARS/ブルース・スプリングスティーン』、ドルビーアトモス音声)、『ジュディ 虹の彼方に』(DTS-HDMA5.1ch音声)

UHDブルーレイ
『リメンバー・ミー』、『1917 命をかけた伝令』、『地獄の黙示録』、『ブレードランナー2049』、『フォードvsフェラーリ』(以上ドルビーアトモス音声)