森田和樹監督の最新作『ファンファーレが鳴り響く』が、10月17日(土)より公開となる。往年のロードムービー的な要素に、監督自身の人生を反映させたという、青春スプラッター作だ。自身の欲求に素直に従い、次々と人を殺めていく驚愕のヒロイン・光莉を演じたのは、近年話題作への出演が続く祷キララ。役作りへの想いをインタビューした。

――祷さんの演じる「光莉」は、本当にすさまじい役柄です。
 プロットと企画書を読んだ時から、「この役を自分の中に落とし込めるのか」「どうやってこの役と向き合っていけばいいのか」とすごく考えました。血を見るのが好きで、生き物を殺すことに興味のある役柄ですから。でも監督と話し合って、脚本をいただいて、読んでいけばいくほど、「自分と光莉は意外と遠くない人間かもしれないな、この役に向き合ってみたい」と気持ちが変わっていきました。

――とはいえ、自分とこの役を一体化させていくのは並大抵ではなかったはずです。
 光莉の等身大の部分を演じたい、ではその等身大の部分とはなんだろう? それは本当に考えました。彼女もはじめから他人の理解を超えた人間ではなかったはずだ、彼女なりに、彼女の世界の中でいろいろ考えた末、覚悟や決意の上で、ああいう行動をしたのだろうと……。罪であることは解っているだろうし、逃げている毎日にもいつか終わりが来ると知っていると思うし。でもそのなかで自分の道をやり通すと決めて、行動を起こしていく。それってすごく執着や覚悟がないとできないと思いますし。

 光莉の思っていること、行動していることはすごく過激だし、確かに犯罪なんだけど、そこだけに捉われて演じたら、ただそれだけの人にしか描かれない。単に異常なキャラクターになってしまう。「このキャラクターはこうだから」って決めつけて演技したくないなと思ったので、私なりに、彼女がそう(いう人格に)なるに至った過程をゆっくりひもといていったんです。そして、彼女はあることを得ることができないまま高校生になったのだな、という考えに至りました。

 過去に家族のこととかで整理しきれていないところがあって、さらに、家族とか先生とか友人の言葉とか、たとえば映画だったり音楽だったり、自分の閉じこもった世界の外にある世界を知るきっかけに出会うことができなかった。なにか違うところへ案内してくれるものに出会えるか出会えないか、そのわずかな差が大きな差になってゆく気がしました。

――お話をききながら自分の10代の頃を考えていたんですが、最もいろんなものに出会って自分の感性がどんどん広がっていった時期も、最も考えて悩んで自分を問い詰めていったのも10代の頃だった、という実感があります。
 私も高校生の頃、自分のやりたいことがわからなくて、将来が何も見えなくて「私の人生、終わりやん」と思ったことがあります。本当に何もできなかったんです。でも友人との会話や、映画だったりとか音楽だったりとかが、「外にはこういう世界もあるんだよ」と教えてくれました。それでちょっとずつ視界が開けていったところはありますね。

――笠松将さん扮する明彦と逃避行に出ますが、光莉にとって明彦はどんな存在だったのでしょう。
 明彦は光莉が猫を殺す場面を偶然見てしまい、いろんなことがあって一緒に行動することになる。心がどこまで通じ合っていたのかはわからないし、一緒に過ごしていく中で関係性も変わっていったと思いますが、「このひとなら、そばにいてもイヤじゃない」ぐらいの気持ちにはなっていた気がします。男性としては意識するかしないかってぐらいの曖昧な気持ちかもしれないし、「明彦は私のことをどう思ってるんだろう」って考えることもまったくなかったと思いますが。明彦にすがったりするところはないけれど、もし明彦に出会わずに一人でいたら、もっと悲惨な結末だったかもしれないし。明彦はやっぱり光莉にとって、大きな存在だったと思いますよ。

――エンディングのシーンには驚かされるというか、誰かと一緒に見に行ったらその後、話が盛り上がるだろうなと思います。
 ある意味、光莉は別の世界を手に入れたのでしょうね。

――劇中、ひとりだけ赤いコートを着ているのも印象的でした。“血”をイメージさせる感じで……。
 監督の森田和樹さんからはとにかく「あれしか着ないでください」という感じでした。スクリーンで見るとすごくあの赤が映えていて、象徴的な衣装なのかなと思いましたね。ひとりだけ赤いコートで、すごく面白いなと思っています。

――演技について、森田監督からの強い意向はありましたか?
 まったくありませんでした。撮影の前に森田さんやスタッフの方と長い間話したんですが、初めから光莉役は「私」を念頭に置いて執筆されたとうかがいました。これは本当に嬉しいことです。「光莉はこういうキャラクターだからこういう演技をしてください」とか言われることは本当になかった。いい意味で自分の所有物にしていなくて、一緒に話し合って、「こういう場合なら光莉はどうするだろう」、監督の思っているのと私の解釈が違うところがあれば「僕はこう思ってたけど、祷さんは今、どういう感情で動いたんですか」と話し合ったり、同じ地平で作品をつくっているという気持ちが強く持てました。森田さんは『Dressing Up』(安川有果監督、2012年)を見て、私に光莉を重ね合わせたそうです。

――あの作品での祷さんも壮絶でした。でも『ファンファーレが鳴り響く』のほうが、当時より凶器もスケールアップしています。
 こういう役柄に自分が近いと思ったことは一度もないんですよ。自分では活発だと思っているし、お笑いも好きだし、よくしゃべるし。別に闇を抱えているわけじゃないけれど、そのいっぽうで明るい役を演じているときに「明るさってなんだろう?」と悩んでしまう自分もいる。いろんなキャラクターを演じているうちに自分というものがわからなくなってきて、「私ってどんな人間なんだろう」と思ったり(笑)。人間って100パーセント明るい、暗いということはないですよ。誰でもその両面があって、そのときどきで影の部分や陽の部分が多めに出る。私は自分のことを本当に活発だと思っているんです。だけど影のあるキャラクターに取り組んでいると、落ち着いた気持ちになれるところはありますね。

――『ファンファーレが鳴り響く』は、スプラッターと青春が同居する、ものすごくユニークな映画であるとも感じました。
 まさしく、スプラッター映画という枠ではくくれない作品になっていると思います。心に闇を持っていても、自分の内にこもって悩んでいても、何かのきっかけでそれが変わることもある。そのきっかけのひとつに、この映画がなってくれたら嬉しいです。年代とか性別とか関係なしに、いろんなひとに届いてほしい作品ですね。

映画『ファンファーレが鳴り響く』

10月17日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

※新宿K’s cinemaでは、10月17日(土)、
14:40~の回上映後
16:45~の回上映前
に、笠松将、祷キララ、森田和樹監督らによる初日舞台挨拶が行なわれる

<出演者>
笠松将、祷キララ、黒沢あすか、川瀬陽太、日高七海、上西雄大、大西信満、木下ほうか、他

<スタッフ>
監督・脚本:森田和樹
製作:塩月隆史、人見剛史、小林未生和、森田和樹
プロデューサー:小林良二、鈴木祐介、角田陸、塩月隆史
撮影:吉沢和晃 録音:西山秀明 助監督:森山茂雄 特殊造形:土肥良成
主題歌:「美しい人生」sachi.
制作・配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会
(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会

公式サイト https://www.fanfare-movie.com/
祷キララ http://sticker-inc.com/talent/kirara_inori.php
関連記事(sachi.インタビュー) https://online.stereosound.co.jp/_ct/17399833

<STORY>
高校生の明彦(笠松将)は、鬱屈した日々を過ごしている。持病の吃音症が原因でクラスメイトからイジメられ、家族にその悩みを打ち明けられないどころか、厳格な父親(川瀬陽太)からは厳しく叱咤され、母親(黒沢あすか)からは憐れんで過度な心配をされ、脳内で空想の神を殺しなんとか自身を保っている状態だ。

そんなある日、明彦はクラスメイトの才色兼備な女子生徒・光莉(祷キララ)が野良猫を殺している現場に偶然居合わせてしまう。光莉は、生理の時に見た自分の血に興味を駆られ、他者の血を見たい欲求を持っていた。光莉は「イジメてくる奴らを殺したいと思わない?」と明彦に問いかける。その日から明彦の中で、何かが変わったのだった。

明彦は、自身が学校でイジメられていることをホームルーム中に訴える。そのせいで明彦はさらにイジメグループから追い回されることになり、街中逃げ回るが、ついに追いつめられる。しかしそこで、光莉がまた野良猫を殺していた。そしてそのナイフで、光莉はなんと明彦をイジメている同級生を殺してしまう……。二人はその現実から逃げるように都会へと向かう。その最中に出会う、汚い大人たちをさらに殺していき、二人の血に塗れた逃亡劇は確実に悲劇に向かっていくのだった……。

ヘアメイク:TOM
服(全て):soduk
靴:UNTISHOLD
アクセサリー:Fauvirame

テキスト:原田和典