PSYCHO - UHD BLU-RAY STEELBOOK EDTION
with DTS:X/4K DIGITAL RESTORATION

The master of suspense moves his cameras into the icy blackness of the unexplored!

Release Dates (Theater):June 16, 1960 (Domestic)
Domestic Total Gross:$32,000,000
(International: N/A)

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Psycho Trailer (50th Anniversary) HD

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screen capture

FILM

『サイコ』は熟練のツアーガイドに案内されて、細心の注意を払って計画された地獄行きの旅に出るような映画だ。英国の劇評家ケネス・タイナンがこう語ったように、開幕と同時に強烈な印象を与え、観る者は瞬く間に物語に引き込まれていく。ヒロインは映画の前半で思いも寄らぬ相手に殺害され、そして後半はそれまで経験したこともない恐怖が襲うのである。そう、『サイコ』は映画の革命でもあった。原作はアメリカの作家ロバート・ブロックによって書かれた同名小説。ウィスコンシン州プレーンフィールドで起きたエド・ゲインによる猟奇殺人事件がモデルとなっており、原作を読んだヒッチコックはすぐに映画化を試みるものの、契約を結んでいたパラマウントは首を縦に振らなかった。そこで『ヒッチコック劇場』のスタッフと製作を開始(『ヒッチコック劇場』シーズン2/『One More Mile to Go/もうあと1マイル』との類似性も指摘される)、脚本は若手のジョゼフ・ステファノが担当することに(のちにTV『アウターリミッツ 』のエピソードを執筆)。まずステファノとヒッチコックは原作の大幅な改訂に着手、なかでも殺人鬼ノーマン・ベイツを繊細な美青年に、そして殺される女性マリオンのドラマとして物語を始めたことは意表をついた設定であった。

『ヒッチコック劇場』の人気、すなわち短編スリラーの映像化が視聴者のニーズに適ったものであるなら、それを映画でやってみようではないか。『サイコ』におけるヒッチコックのコンセプトは、「テレビ」を「映画」で演ることであった。映画となるとより過激性が求められるが、ヒッチコックの凄いところは時のヘイズ・コードを侵犯することなく、ヘイズ・コード体制下のスリラーとして完成させたところにある。それでも時間にして13秒ほどのショットを自主規制してカットした。今回のUHD BLU-RAY/BLU-RAY化においては、はじめてノーカット・バージョンを楽しむことが出来る。出演はノーマンにアンソニー・パーキンス、マリオンにジャネット・リー、後半のヒロインとなるライラにヴェラ・マイルズ、そしてマーティン・バルサム。タイトルデザインは天才ソウル・バス。

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VIDEO

撮影は『ヒッチコック劇場』の75エピソードを担当、劇映画はオーソン・ウェルズの『マクベス』などで知られるジョン・L・ラッセル。35mmスタンダード撮影/劇場公開は上下マスキングのビスタサイズ。35mmオリジナルカメラネガからの最新4Kスキャン/4Kワークフロー(パラ消し、フリッカー除去、グレイン・マネジメント、HDRグレーディング)は、L.A.のユニバーサルスタジオ・デジタルサービスで行なわれた。レストア監修は『JAWS/ジョーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリロジー、今回UHD BLU-RAYリリースされたヒッチコック作品(『めまい』『裏窓』『鳥』)などを担当した、ユニバーサル・グローバル・メディア・オペレーションズのSVPでレストア責任者のマイク・ダルティが務めている。LUT(ルックアップテーブル)は54年リリースのイーストマン・パンクロマチックフィルムTri-X 5222(ナイトシーン、低照度の室内シーン) 、そして59年導入のDouble-X5233(デイライトシーン、高照度の室内シーン/5222よりも感度が低い)。5222は伝説的な露光ラチチュードを実現したフィルムで、他の白黒フィルムとよりも幾分ナロウなトータルレンジではあるものの、きめの細かいシャープな画調を特徴とする。HDRはHDR10のみを採用。映像平均転送レートは63.4Mbps。収録アスペクトは1.85:1ビスタサイズ。

BLU-RAY (1080p / VC1)
- 2010年50周年記念版より。当時の技術では修復し切れなかったパラや縦傷がわずかに残っている

UHD BLU-RAY (2160p / MPEG-H HEVC) - パラや傷痕をリデュース、粒子感もオーガニック

ダルティによれば「HDRは、陽光やライトで明るく照らされた部分、夜景や車のライトといった発光などにネガやRAWデータに記録されたままの情報を引き出すことができる。だが映画においてもっとも重要なものは画面の中のアクションであり、オリジナル映像の意図を把握しながらHDRをトーンダウンする必要がある。カラリストは、シーンがHDRの恩恵を受けていることを明らかにしながら抑制を効かせなくてはならず、その加減が非常に難しい。HDRは過度のノイズを明らかにしてしまう恐れがあるので、ヒッチコック作品のようなクラシックにみるオプチカルショット(オーバーラップや合成など光学処理された場面)の再現には、細心の注意と管理が必要となる」という。

そうした意味で視覚的な現象のみを評価すれば、本作の映像はいわゆる高精細映像とは距離を置いている。時おり軟調なショットも登場。粒子感の強度が変動すると、なにやら雪のように見えるショットも存在する。だがそれによって本盤のプレゼンテーションの輝きが損なわれることはない。意図的に鮮明度やエレガントな白黒の光沢を抑えた映像であり、ヒッチコックのビジョンとラッセルの撮影術を忠実に尊重し、絶妙な粒子感を維持しながら(Tri-X 5222は粒子感がわずかに強い)スリラーの魅力を高め、異様なムードを再現してるのがわかるはずだ。これまでのBD版(VC1圧縮/シャープネスとDNRの弊害が散見された)からの改善は、多用される大顔絵の情報量、車のボディや水滴、オスカー候補となったジョージ・ミロによる美術セットやリタ・リッグス(『鳥』『マーニー』)の衣装のディテールに明快。輪郭強調は皆無。なかでもナイトショットははるかに優れたコントラストと明瞭度を誇っており、さまざまなライッティング操演、雨やシャワーのスプレー効果は観逃がせない映像となっている。HDRが描くグレースケールは驚くべきものがあり、これまでにない奥行きがあり、陰影ディテールや闇夜の可視性も高まっている。

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AUDIO

音響エンジニアはヒッチコック作品の常連でもあるウォルドン・O・ワトソン(他作『大空港』『アンドロメダ・・・』)、ウィリアム・ラッセル(他作『ガンファイトへの招待』『スイート・チャリティ』)。2010年5.1chマスターからのDTS:Xミックスはユニバーサルスタジオ・サウンド部門で実施。音声平均転送レートは3.4Mbps(24ビット)を記録する。BLU-RAY同様にオリジナル・モノーラル・トラックを収録するが、米国盤初期ロットに関しては、モノーラル・トラックを選択してもDTS:Xが再生される。これはユニバーサルのミスであり、この症状が出るディスクをお持ちの方は交換が可能。(リコールは https://www.uphe.com/en/contact-support、または USHEConsumerRelations @ visionmediamgmt.com で受け付けている )

初の5.1chミックスとなった2010年マスターは素晴らしい出来栄えであった。オリジナル・トラックがモノーラルであることを考えると、フロントヘビーのミックスであることは誰の耳にも明らかであったが、それでも可聴エリアを拡張する適切なステレオ・セパレーションを聴取できた。しかもこれをアップミックス再生すると、相当の没入感が得られたのも事実である。そしていよいよDTS:Xミックスのリリースである。偉大なるバーナード・ハーマンの音楽、恐怖場面での悲鳴、車のクラクションや雷鳴といった効果音を除けば、これ見よがしの描音は排除されている。第一幕のホテルの部屋、オフィス、マリオンの家のシークエンスでは、音響効果が意図的に抑制されており、それが逆に不穏なムードをじわりじわりと高めていく。DTS:Xミックスの効果が明快に打ち出されるのは、マリオンが銀行に預けるべき大金を抱えて、車であてもなく彷徨い始めてからだ。それまでマリオンのまわりを煙のように纏わりついていた音楽は、なにかに憑かれたように変調を始める。日が暮れ、雨が降り出すと、ワイパーは指揮棒と化して音楽と同調し出すのだ。雨の効果も怖い。フロントガラスとルーフに叩きつける雨。雨を弾き飛ばすワイパー音。マリオンがベイツ・モーテルのネオンをみつけ、誘い込まれると雨もワイパーも、そして音楽も落ち着きを取り戻す。ヒッチコック音響演出の素晴らしいところは、これらの音をシャワー・シーンでもういちど演ったことだ。マリオンの裸体に当るシャワーの水流。壁面や床面に弾け飛ぶ水滴。すでにマリオンがモーテルに誘われるシークエンスで、彼女の死を予告していたのである。それゆえにモーテルの場面で高鳴りが収まった音楽は、マリオンの血が排水溝に流れ込む音とシンクロする。まるで、生の鼓動を飲み込んで消えていくかのように。このシークエンスを聴くだけでも、DTS:Xリミックスの効果に酔い痴れることができ、喜んだ墓場のヒッチコックも飛び起きるに違いなかろうよ。

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FINAL THOUGHTS

国内盤が11月27日に登場する『サイコ』だが、ヒッチコック・ファンやシネフィルは同時発売のUHD BLU-RAYセット『アルフレッド・ヒッチコック クラシックス・コレクション』も気になるところだろう。同コレクションには『サイコ』の他に、マイク・ダルティが担当した『裏窓』『めまい』『鳥』も収められており、なかでも『めまい』は高いクオリティを誇っているからだ。いささか高値ではあるが、懐が許すなら手元に置きたい愛蔵版であることは間違いない(ちなみに米国盤の同コレクションは、『鳥』のみが日本語字幕収録となっている)。今回紹介のスチールブック・エディションは、レビュー・アップデート時点で国内盤の在庫があるようだ。ご興味ある方はお早めに。

SPECIAL FEATURES

  • Audio Commentary
  • Documentary: The Making of Psycho
  • Psycho Sound
  • In the Master's Shadow: Hitchcock's Legacy
  • Hitchcock/Truffaut
  • The Release of Psycho
  • The Shower Scene: With and Without Music
  • The Shower Sequence: Storyboards by Saul Bass
  • The Psycho Archives
  • Posters and Psycho Ads
  • Lobby Cards
  • Behind the Scenes Photographs
  • Publicity Shots
  • Trailers and Re-Release Trailer

※これまでのBLU-RAY版と同じ特典だが、UHD BLU-RAYにも収録される

SCREEN CAPTURES

DISC SPECS

TitlePSYCHO
ReleasedSep 08, 2020 (from Universal Studios)
SRP$22.99
Run Time1:48:51.191 (h:m:s.ms), Uncut 1:49:04.496 (h:m:s.ms)
CodecHEVC / H.265 (Resolution: 4K / HDR10)
Aspect Ratio1.85:1
Audio FormatsEnglish DTS:X (48kHz / 24bit / DTS-HD MA 7.1 compatible)
English DTS-HD Master Audio 2.0 mono (48kHz / 24bit)
Spanish DTS-HD Master Audio 2.0 mono
French DTS-HD Master Audio 2.0 mono
SubtitlesEnglish SDH

FILM SPECS

タイトルサイコ
1960
監督アルフレッド・ヒッチコック
製作アルフレッド・ヒッチコック
製作総指揮N/A
脚本ジョセフ・ステファノ, 《原作》ロバート・ブロック
撮影ジョン・L・ラッセル
音楽バーナード・ハーマン
出演アンソニー・パーキンス, ジャネット・リー, ヴェラ・マイルズ
ジョン・ギャヴィン, マーティン・バルサム, サイモン・オークランド
ジョン・マッキンタイア

4K画質評価

解像感★★★★★★★★  8
S/N感★★★★★★★★★ 9
HDR効果★★★★★★★★  8
色調N/A
階調★★★★★★★★★ 9

音質評価

解像感★★★★★★★★  8
S/N感★★★★★★★★  8
サラウンド効果★★★★★★★★  8
低音の迫力★★★★★★    6

SCORE

Film★★★★★★★★★★ 10
Image★★★★★★★★★  9
Sound★★★★★★★★   8
Overall★★★★★★★★★  9