ESL(エレクトロ・スタティック・ ラウドスピーカー=静電型スピーカー)を主力とする米国マーティン・ローガンの製品が、新たな輸入元を得てわが国に再上陸を果した。ここではESL XとESL9という新製品2モデルの概要とリスニング・リポートをお届けする。

 固定電極に挟まれた極薄超軽量フィルムに高電圧をかけ、音楽信号に合わせてそれを振動させて平面波を前後両方向に放射する。これがESLの基本原理だ(電圧をかけるための電源が必要)。一般的なダイナミック型ドライバーに比べて、きわめてシンプルな仕組みで発音させることができ、反応の速い繊細なサウンドがその特長。基本原理の発明はふるく、1950年半ばに英国クォード社が実用化し、ESL57がその嚆矢となった(残念ながらクォード社はESLの開発を止めた模様)。ちなみに今回採り上げる2機種はともに、ダイナミック型ウーファーとESLを組み合わせたハイブリッド型である。

 直進する平面波は音が横方向に広がらない。そこでESLパネルを湾曲させることで30度の水平指向性を得たこと。これが同社製ESLの第一の注目ポイントだ。もうひとつ同社製ESLパネルを特徴づけているのが、透明な振動膜である。このフィルムに導電材を加工すると着色されるのが普通だが、同社は導電材をプラズマ化、蒸着させる手法を採って透明な振動膜を実現している。パネルの湾曲化、透明な振動膜ともに1983年のデビュー作「モノリス」以来同社で受け継がれてきた手法だ。

 ESL XとESL9を比較すると、ESLパネルは後者のほうが大きく、380㎐以上の帯域を受け持つ(ESL Xは400㎐以上)。また、パネルを固定するのは前者がアルミ合金と樹脂のコンビネーションフレーム、後者がより強度が取れる航空機グレードの押出しアルミ合金フレームだ。パネル下部のキャビネットには、両モデルともにパッシヴ・タイプの2基の20㎝ウーファーが前後に装填されているが、ESL Xはパルプコーン、ESL9はアルミコーンという違いがある。

セッティングを追い込むと ‟ 2階席 ” の音が現れた

 ダイポール特性を持つ静電型スピーカーは、後方に放射される逆相成分をセッティングによっていかにコントロールするかが重要。HiVi視聴室で、まずESL Xを用いて徹底的に追い込んだ。最終的にはL/Rスピーカーの距離を(芯々で)約3m、後ろの壁から約45㎝、側方の壁から75㎝とし、スピーカー下部のキャビネットの側面が見えないくらいの内ぶりにすることでベスト・サウンドが得られた。リスニングポイントから見たL/Rスピーカーの開き角は65〜70度となる。

 セッティングを決めた後、さまざまな音楽を聴いてみたが、静電型スピーカーならではの「コンサートホールの2階席」を思わせる魅惑的なサウンドスケープを楽しむことができた。超軽量な振動膜から放射される繊細な響きは清冽さと気品に満ちていて、とくにシンプルなマイキングで録られた弦やヴォーカル音像の生々しさは、ダイナミック型スピーカーではなかなか得られない魅力と思う。とにかく出音にストレスがいっさい感じられないのである。

 ハイブリッド型スピーカーの弱点として指摘されることの多かったダイナミック型ウーファーとの音のつながりにも違和感はない。音像が左右のスピーカーを結んだ線よりも少し後ろに結像するイメージとなるが、2基のウーファーによって放射される低域の実在感の確かさが再生の基本となるので、映画再生も苦にしない。パワーリニアリティもよく、音量を上げていっても不安なし。ダイアローグやパルシヴな効果音等も、問題なくこなす印象だ。

 ESL9にスイッチしてテストを続けたが、音像・音場表現や音色はESL Xとほぼ同質。より剛性の高いアルミ合金フレームやアルミコーン・ウーファーが採用されているからだろうか、静寂の気韻の深さやスケール感でESL9が勝る印象だ。

 コンプレッションドライバー+ホーンを中高域に充て、音像がスピーカーを結んだ線よりも前方に張り出してくるスピーカーを自宅の視聴室で使っているぼくにとって、マーティン・ローガンのESLが描く涼しげな媚薬的サウンドスケープは清新極まりない。「もう一部屋あったらESL9!」と妄想に浸る酷暑の夜。

SPEAKER SYSTEM
MartinLogan
Classic ESL 9
¥1,300,000(ペア)+税

●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:エレクトロスタティック型(W230×H1120mm)トゥイーター、203mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:380Hz
●出力音圧レベル:91dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω、0.8Ω@20kHz
●寸法/質量:W264×H1520×D646mm/35.4kg

ElectroMotion
ESL X
¥800,000(ペア)+税

●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:エレクトロスタティック型(W220×H1020mm)トゥイーター、203mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:400Hz
●出力音圧レベル:91dB/2.83V/m
●インピーダンス:6Ω、1.6Ω@20kHz
●寸法/質量:W238×H1503×D526mm/23.6kg
●問合せ先:(株)PDN TEL:045(340)5565

ESL X、ESL9ともに、前後にウーファーが1基ずつ搭載されている。シームレスに静電パネルとつながることで上質な音が得られるが、壁との位置関係を細かく調整することが不可欠だ。スピーカー端子はともにバイワイヤリング接続に対応。静電パネルを動作させるDC電源端子もここに配置

CLS(CurvilinearLine Source)技術でつくられた静電パネルは、表面に小さな穴を開け、緩やかにカーブさせた金属パネル(ステーター)と超軽量ポリエステルフィルム(ダイヤフラム)で構成される。航空宇宙グレードのビレットと押出アルミニウム合金から製造されたAirFramesにパネルを固定することで剛性を高め、振動板表面積を最大化させた

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