「管球王国」91号(2019年1月発行)でMCカートリッジApheta2とプレーヤーシステムPlanar 8を紹介した英国のレガ。1973年以来の歴史をもつアナログオーディオ専門メーカーだ。
今回聴いたAnia ProはMCカートリッジ。Apheta 2に準じた設計思想と機構設計を受け継ぐという、その下位モデルである。アルミ削り出しだったプラットフォームをガラス繊維の強化樹脂に変えたことが基本的な相違点のようだ。輸入元のホームページの製品写真でカンチレバー回りを覆っているコの字状の部材は、指先で脱着できる付属の針先カバー。
レガのMCはオルトフォンタイプの発展形ともいえるが、たいへんにユニークなもので、たとえばマイクロクロスコイルと、その直後に配置されたマグネットの間に隙間があり、機械的に切り離されているように見える。要はゴムダンパーもテンションワイヤーもないのだ。振動系の中心保持および制動機構は、カンチレバーが貫通する前部ポールピースまわりに隠されているらしい。ねじマウントされたマグネットをくるくる回すと簡単に磁束密度の調整ができるし、その気で設計すればMM型のような針交換構造にもなりそうだ。また、トーンアームへの取付けは通常のEIAマウントも可能な3点止めになっている。
Ania Proの試聴はプレーヤーを2台用意しておこなった。本誌リファレンスのテクニクスSL1000Rと、レガ Planarシリーズのフラグシップモデル Planar 10。前者はすでにおなじみのダイレクトドライブ機。後者は、セラミックプラッターを搭載したベルトドライブ機である。
SL1000Rは「管球王国」の試聴の場合、回転トルク調整をいちばん弱く設定しているが、むろん安定度に不足はないうえ、ノイズも含めてとにかく情報量が多い。カートリッジがピックアップした情報を余さず伝送といった勢いで、本誌リファレンスのフェーズメーションPP2000なら力感にあふれて颯爽、積極果敢にエネルギーを繰り出すフレッシュなサウンドが得られるわけだが、Ania Proは勝手がちがった。価格ランクの差ではなくて、お互い手の内を探り合う前哨戦の構えなのだ。そう、半歩引いた前哨戦。遠慮がちな甘口傾向で音像がやや遠い。ここでやめていたらそこそこの情報量、ソツなく整った中庸のMCということで一件落着だったかもしれない。
「管球王国」91号のインプレッションを思い出しながらPlanar 10に載せ換える。すると景色が一変した。アナログ機材の相性とはおそろしいものだ。こまかな雰囲気表現ではテクニクスが上と聞こえる部分もあるけれど、こちらは痩せない、細らない。音像がくっきり前へ迫り出して、響きも断然豊かで明るく艶っぽい。危なげなく積み重なる和声の厚みと透明感、そしてほどよい古色を帯びた弦楽器の上品なあでやかさなど、これぞ注文どおりの英国トーンではないかと思う。なお、定格インピーダンスは10Ωである。
レガ Ania Pro ¥135,000(税別)
●発電方式:MC型●出力電圧:0.35mV●インピーダンス:10?●適正針圧:1.75g〜2.0g●自重:6g●針交換価格:¥70,000(本体交換)●備考:ネオジムマグネット採用●問合せ先:完実電気(株)TEL 050(3388)6838