ジャズ・ドキュメンタリー・フィルムの古典『真夏の夜のジャズ』が、8月21日(金)から4Kリマスターで上映される。

 映画館でかかるのは90年代半ば、六本木にあったまぶしくて相当キザだったカルチャー発信地“WAVE”地下1階「シネ・ヴィヴァン」で催されたレイトショー以来ではないかと思う。だとすると25年もの時を経ての再上映だ。ジャズ・ファンは今も確実に増えていて、しかも世界の現役ジャズメンが新鮮で面白い音楽をどんどん送り出してくれるものだから、リスナーの年齢層も下へ下へと広がっている気が個人的にはしている。『真夏の夜のジャズ』を観たことがない、知らないひとは増加するいっぽうだろう。

 観ていないのなら、一層あなたはラッキーだ。知らないことを知ってゆくほど、エキサイティングなことはないのだから。舞台は1958年、アメリカ東海岸のロードアイランド州ニューポートで行なわれた「第5回 ニューポート・ジャズ・フェスティバル」。いわゆる夏フェスの文字通りの元祖であり、これがなければグラストンベリーもウッドストックもコーチェラもフジロックもサマソニもあったかどうか。「野外で音楽を楽しむ」スタイルを定着させたフェスこそ、このニューポート・ジャズなのである。

 1958年といえば、今から60年以上も前のこと。まだジャズとアメリカが強い等号で結びついていた時期の記録といっていい。参加ミュージシャンの9割以上は亡くなっている。セロニアス・モンクのバンドでドラムを叩くロイ・ヘインズ、ダイナ・ワシントンのバンドでヴィブラフォンを奏でるテリー・ギブス(ふたりとも現在95歳)が本当に希少な存命組といったところか。つまりここに登場している音楽家たちの演奏はもう基本的にナマで聴くことはできない。ゆえに音源に頼るしかない。それを画像付きで、しかもモノクロではなく35㎜フィルムで撮られたカラー映像、さらに今回は4K効果も加わった状態で楽しめるのは実にありがたい。ぜひじっくりと往年の巨匠たちの、一世一代の名人芸に浸っていただけたらと思う。

以下、編集部からいくつか質問を受けたのでそれに答えたい。

――なぜ1958年に制作されたでしょうか? 1957年以前のフェスは映画化されていないのでしょうか?
 フェスは1954年に始まりましたが、57年以前の映像は確認されていません。ただし60年、62年のステージは一部ですがテレビ中継されました。日本では東芝EMI(当時)からVHS化されたはずです。『真夏の夜』が58年に制作されたのは、ニューポートで撮影したグレース・ケリー主演の劇映画『上流社会』(56年7月公開)がヒットしたという背景もあるように私は推測しています。ルイ・アームストロングは、その『上流社会』にも登場しています。

――その“サッチモ”ことルイ・アームストロングが、この時点ではまだ生きていたんだという驚きもあります。
 サッチモという呼び名はsatchelmouth(がま口)とかsuch a mouth(なんてデカい口なんだ!)が縮まったものといわれています。その大きな口で思いっきり歌い、トランペットを勢いよく吹く姿は映画のクライマックスのひとつといっていいでしょう。トランペットのパワーが落ちて、歌手として「ハロー・ドーリー」や「この素晴らしき世界」をヒットさせるのは、1960年代半ば以降のことです。彼は1971年に亡くなりました。

――ニューポート・ジャズ・フェスの発祥は?
 避暑地ニューポートに別荘を持っていたタバコ会社“ロリラード・タバコ・カンパニー”の経営者夫妻がジャズ・ファンで、「夏休みの間にここでジャズの生演奏を楽しんでみたい。どうせならプライベートではなく、ファンをいっぱい呼んでフェスにしたい」という構想を持っていたようです。そしてプロモーターのジョージ・ウィーンにブッキングを一任しました。『真夏』の中に彼の名前はまったく出てきませんが、このフェスの最大の功労者のひとりと断言できます。

――「こんなに凄い人たちが出ている」というのは?
 当時すでに評価が定まっていたひとという点では、ルイ・アームストロング以外ですと“ゴスペルの女王”マヘリア・ジャクソンでしょうか。ゴスペルは神に仕える音楽、ジャズやブルースは世俗音楽ということで、当時の両者には大きな壁がありました。マヘリアもジャズ・フェスで歌うことには大きな葛藤があったそうですが、お聴きのように素晴らしいパフォーマンスが生まれました。ほか、当時はまだまだ売り出し中の気鋭だったけれどその後カリスマ的な存在になったひとでは、セロニアス・モンク(2017年リリースのトリビュート・アルバム『MONK's Playhouse』にはKing Gnuのメンバーも参加)、チャック・ベリーですね。ビートルズやローリング・ストーンズに影響を与えたチャックは通常“ロックンロールのひと”と見なされていますが、ジャズ・ミュージシャンとの共演も違和感がありません。

チャック・ベリー

――「こんな名曲が聴けるよ」というのは?
 アニタ・オデイが歌う「ティー・フォー・トゥー」はどうでしょう。Negiccoのアルバム『ティー・フォー・スリー』のタイトルは、ここから来ています(Negiccoの3人も、「ティー・フォー・トゥー」を知っていました)。またチャック・ベリーの歌う「スウィート・リトル・シックスティーン」は、ビーチ・ボーイズ「サーフィンUSA」の原曲でもあります。映画の途中、リハーサル用の部屋でチェロ奏者がひとりで弾く曲はバッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番」。つまりこの映画には、1958年に存在したさまざまなジャズ・スタイルだけではなく、ゴスペルもロックンロールもクラシックも入っているのです。そしてこの、なんでも飲み込んでしまう貪欲さは、今もジャズが保持しているものだと思います。

アニタ・オデイ

映画『真夏の夜のジャズ 4K』

8月21日(金)、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

<出演>
ルイ・アームストロング、セロニアス・モンク、チャック・ベリー、アニタ・オデイ 他

<スタッフ>
製作・監督:バート・スターン
配給:KADOKAWA
原題:JAZZ ON A SUMMER’S DAY
製作年:1959年(旧作の日本公開:1960年/4K版上映は日本初)
上映時間:83分
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映画『真夏の夜のジャズ 4K』予告編

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