DELAの光LAN接続用オプションセットとはなにか?

 最近のネットワークオーディオで注目されている音質向上手段のひとつに、光LAN接続がある。通常のLANケーブルの代わりに、導体に光ファイバーを用いたケーブルを使う手法である。

 筆者も、光LAN接続に対応するルーミンのネットワークプレーヤーX1の導入をきっかけに、自宅2階にあるルーター、ハブ、ネットワークプレーヤー間を光LAN接続化した。やってみて分かったのだが、光LAN接続は規格が若干ややこしく、ケーブルが複数のパーツで構成されるなど導入には一手間かかる。(詳しい理由は後述する)

 そこで注目したいのが、DELAから発売された光LAN接続用オプションセットOP-S100である。DELAといえば、ネットワークトランスポート/高音質NASとして使えるミュージックライブラリーN1/N10/N100や、高品位なディスクドライブ、ネットワークスイッチ等をリリースするメーカー。本セットは、通常のLAN配線を光配線に変換する光メディアコンバーター、マルチモードに対応する光ファイバーケーブル、光対応機器が装備するSFPポートに挿しこむSFP光トランシーバーの3点で構成され、同社から発売中の光LAN接続に対応するネットワークスイッチ(以後ハブと表記)S100やBS-GS2016/Aと組み合わせることで、LANネットワークを光LAN化できる。

 

Optical LAN Adaptor Set
DELA OP-S100
¥62,000(3mセット)+税

メディアコンバーター
LAN(RJ45)とSFP端子を使った光ネットワークケーブルの変換を行なうコンバーター。本セットではバッファロー製(BMC-GT-M550M/¥24,800+税、SFPトランシーバー1個含む)を同梱する。SFPトランシーバー1個が付属している

光ファイバーケーブル
光の状態で高速/安定的に長距離伝送を可能とする光ファイバーケーブル。電気/光変換を行なうことで、ノイズの影響を遮断する効果もあるとされている。さまざまな規格があるが、OP-S100は「マルチモードLC-LC2芯50/125μm」という仕様のケーブルをセットしている。コーニング社の高信頼性ケーブルだ

SFPトランシーバー
SFP(Small Form Factor Pluggable)は、さまざまな規格を受けいれる端子で、光ファイバーケーブルとは「SFPトランシーバー」と呼ばれるパーツを介して接続する仕組み。「SFPモジュール」とも呼ばれることもある。OP-S100はバッファロー製の1GbpS対応の高信頼品(BS-SFP-GSR/¥29,800+税)をセットとしている。光メディアコンバーター付属品と同じ仕様だ

 

●ラインナップ:光ファイバーケーブルの長さの違いで0.5mセット(¥60,000+税)から50mセット(¥82,000+税)まで各種セットあり

●問合せ先:バッファロー サポートセンター ☎0570-086-086

Network Switch
DELA S100
¥138,000+税

●接続端子:LAN9系統(100Mbps対応RJ45×4、1,000Mbps対応RJ45×4、1,000Mbps対応SFP×2 [1系統のRJ45とSFPは共用])
●寸法/質量:W215×H61×D270mm/約2.5kg

高品位なミュージックサーバーを作り続けているデラは、ネットワーク再生時に必要不可欠なスイッチングハブ機能を備えたオーディオコンポーネントS100を昨年リリース。好評を得ているが、そのオプションとして光ネットワーク用アダプターセットOP-S100を発売した。今回はオーディオ用とAV用の両面からのパフォーマンスを探った

 

 

 今回はこのOP-S100を用いて、オーディオ環境と動画ストリーミング環境の両方で、光LAN接続による効果を検証、その驚きの結果についてレポートしたい。

 改めて光LAN接続のメリットを説明すると、主なアドバンテージは、データ伝送速度の高速化と最大約15kmにおよぶ長距離伝送を実現することにある。この光LAN接続をオーディオ、オーディオビジュアル用途で使用すると、接続された機器のLAN回路周り等から発生する差動伝送ノイズやLANケーブルに侵入する外部からの電磁波ノイズ等を原理的に遮断できる。

 しかし、先述の通り光LAN環境の導入は容易ではない。大きな理由は、シングルモードとマルチモードという2種類の接続手法(詳細は下記コラム参照)が存在し、さらに光接続には光ファイバーケーブルとSFPトランシーバーのふたつのパーツで構成され、それらのパーツを適切に組み合わせないと伝送できないからである。また光ファイバーケーブル先端のコネクターにも形状の違いがある。つまりどの製品を選んでいいのかわかりづらい。そこで、上記のパーツがあらかじめセットになっているOP-S100が有益なのだ。

 さらにセット内容は、光メディアコンバータとSFP光トランシーバーがバッファロー社製、光ファイバーケーブルが評価の高い米コーニング社と、信頼性の高い機材で構成されているし、ケーブル長を0.5mから50mまで10種類から選択可能なのも嬉しい。

 

光LAN接続のふたつのモードとは?

 一般的な光LANの規格はシングルモードとマルチモードという2種類が存在する。ふたつのモードのどちらも、オーディオ、あるいはAV用途で利用できるのだが、注意したいのは、これらのモードは転送のプロトコル(通信方法)の違いではないということ。光ファイバーの直径はどちらも125μm(ミクロン/1ミクロンは0.001mm)だが、信号を伝送するコアに、シングルモードでは9もしくは12μm、マルチモードは62.5もしくは50μm品を採用している。

 ふたつのモードは伝送特性が異なっており、使用用途も違う。シングルモードは長距離伝送(一般的に約1.5kmに対応)に強いが、その反面ケーブルの曲げに弱く、主に屋外配線に使われている。それに対してマルチモードは、伝送距離は概ね500mで、ケーブルの曲げに強いことから屋内のLAN配線で使われている。SFPトランシーバー(SFPモジュールとも呼ばれる)と光ファイバーケーブルは、シングルモードとマルチモードに対応する専用品であり、両者の混在はできない。(土方)

 

2種類のネットワークプレーヤーで光LAN接続の効果を試す

 今回、オーディオ環境では2種類のテストを実行した。ひとつはリンのネットワークプレーヤー、クライマックスDSMを利用して、一般的なネットワーク環境に光LAN接続を導入するケースを想定したもの(接続パターン①)もうひとつは最初から光LAN接続に対応したSFPポートを持つルーミンX1を用いて、光LAN接続と通常のLAN接続の純粋な音質比較(接続パターン②)も行なった。

 

Test1
リンKLIMAX DSMを光接続アダプターで使った効果は?

ネットワークオーディオ再生の代表としてリンとルーミンの2機種を使った。リンは最高峰のKLIMAX DSM(¥2,600,000+税/問合せ先は(株)リンジャパン ☎ 0120-126173)を用意した。LAN端子は一般的なRJ45タイプを1系統搭載している

DELA S100光LAN
接続パターン①

ルーターとS100の間を、①一般的なLANケーブル(RJ45端子の銅素材ケーブル)で直結した状態(ルーター→S100→リン)と、②OP-S100で光LAN接続とした状態(ルーター→光アダプター→光ケーブル→S100→リン/接続図)で比較した

 

 パターン①のクライマックスDSMは、まずルーター、ハブ、ネットワークプレーヤー間を通常のLANケーブルで接続してから、光メディアコンバータをルーターとハブの間に挟み込む形で光LAN化して比較した。さすがにネットワークプレーヤーとして最高峰の評価を受けているリンの最上級モデルは、一般的なLAN接続でも素晴らしい音質だ。ストリーミングサービスTIDAL(日本未サービス)で聴いたジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィル「帝国のマーチ」は、情報量がギュウギュウに詰まった密度ある音が広大なサウンドステージを伴なって眼前に広がる。ハイレゾファイルのザ・ウィークエンド「Blinding Lights」もスケール感の豊かな演奏をバックに、リアルなヴォーカルが左右スピーカーの中心にシャープな音像を描く。

 次にこれを光LAN接続化してみたわけだが、期待を大きく上回るものだった。まず高域から低域の幅広いレンジでノイズフロアーが下がる。これにより空間表現を左右するホールトーンなどの微小レベルの音が明瞭になり、ステージの奥行や高さ方向の表現力も増す。「Blinding Lights」のさらにシャープな音像表現には舌を巻いた。LAN接続の電気信号を光に変えるという変換のデメリットは感じなかった。

 また、多くのネットワークプレーヤーを試した筆者の経験として、リンのネットワークプレーヤーは、ハブやルーターなど周辺機器のネットワーク環境に比較的音質が左右されづらい印象があったのだが、そのリンのプレーヤーでさえ明瞭な音質向上効果があったことは興味深い。

 となれば、SFPポートを持つルーミンX1での試聴にはがぜん期待が高まる。光LAN接続に対応した本機のような製品は、通常のLANケーブルと光LAN(SFP)端子を持つS100を導入し、対応モジュール/ケーブルを加えるだけで光接続が可能だ。先の検証と同じように最初は通常のLAN接続で聞いた後、光接続に切り替えた。(接続パターン②)こちらも同じように、聴感上のノイズフロアーやSN比向上が共通する印象で、中低域の骨格が確かなX1のよさがさらに引き立つ。また、さすがに本製品は開発段階から光接続でチューニングをしているのだろうか、リンで感じたドラスティックな変化というより、全帯域がよりシームレスで隙のない表現になる。

 

Test2
ルーミンX1を光LANケーブルで直結した時の効果は?

ルーミンX1(¥2,000,000[シルバー]+税/問合せ先はブライトーン ☎ 03-6869-0516)は同社最高峰のネットワークオーディオプレーヤーで、土方さんも導入している。一般的なRJ45端子のほかにSFPポートを備えており、光ネットワークケーブルで直結接続が可能だ

 

DELA S100光LAN
接続パターン②

ルーミンX1は、1LAN接続した状態(ルーター→S100→ルーミン)と、2SFPポートにOP-S100に付属しているSFPトランシーバーを両端につなげた光ファイバーケーブルでS100とつなげた状態(ルーター→S100→光ケーブル→ルーミン/接続図)とを比較している

 

光LAN接続はAV再生でも驚くほどの効果をみせた

 ネットワークオーディオでは大きな効果があった光LAN接続だが、映像環境に用いるとどのような変化が起きるのだろうか? より厳密に取材に臨まないといけないプレッシャーを感じながらテストに挑む。ソース機器にApple TV 4Kを使い、『ブレードランナー2049』と『フォードvsフェラーリ』を視聴した。

 検証したネットワーク環境は次の3つ。

Ⓐ ルーターとApple TV 4Kを通常のLANケーブルで直接接続。

Ⓑ ルーター→スイッチングハブS100の間に光メディアコンバーターを使用してS100とApple TV 4Kを通常のLANケーブルで接続(接続パターン③)。

Ⓒ ルーター→スイッチングハブS100を通常のLANケーブルで結び、光メディアコンバータをS100とApple TV 4K端末に使い光LAN接続した(接続パターン④)。

 

Test3
Apple TV 4Kを光接続アダプターで使った効果は?

各種映像ストリーミングサービスに対応したApple TV 4Kを用いて、インターネット経由の動画コンテンツで、光LAN接続の効果がどのようなものかチェックした。Apple TVの4K&HDR映像+ドルビーアトモス音声のコンテンツ『ブレードランナー2049』、『フォードvsフェラーリ』、などを再生している

DELA S100光LAN
接続パターン③

DELA S100光LAN
接続パターン④

Apple TV 4Kは、ⒶLAN接続した状態(ルーター→S100→Apple TV 4K)と、ⒷルーターとS100の間をOP-S100で光接続した状態(ルーター→光アダプター→光ケーブル→S100→Apple TV 4K/接続図3)、ⒸApple TV 4Kの直前にOP-S100を介した状態(ルーター→S100→光ケーブル→光アダプター→Apple TV 4K/接続図4)とを比較している

 

 

 気になる結果だが、これが予想以上の画質変化をもたらした。画質のよい順に列挙すると Ⓒ→Ⓑ→Ⓐ となった。光メディアコンバーターの使用は画質を向上させる。そして端末直前への使用により高い効果が感じられたのだ。

 Apple TV 4Kの『ブレードランナー2049』はチャプター1の冒頭から圧倒的な映像を見せつける。Ⓒでは、冒頭の大写しになる瞳のアップでのピント面が薄く先鋭になり、ピントの山から徐々にアウトフォーカスされるボケ表現の階調がシームレスに見えるほどだ。広角レンズを使い俯瞰で捉えたソーラーパネル(?)がシャープに描かれ、少しキラッとした質感もよりリアルになる。主人公がサッパー・モートン宅に降り立つ屋外の場面では霧の粒子や浮遊感の見通しがよくなり、背景の表現さえ変わってくる、薄暗い室内のシーンでは暗部の明瞭度が上がる。

 『フォードvsフェラーリ』も好印象だ。チャプター21のケン・マイルズと息子がマジックアワーで佇むシーンでの階調表現が上がり、風景の見通しのよさ、飛行場のカラフルな誘導灯の彩度も高まって見えるようになる。ピント面の精細感向上は輪郭を強調したようなチープなものではなく、今までノイズにスポイルされていた情報が見えてくるような本質的な画質変化だと感じた。また、音質向上も印象的だ。低域のリアリティが増し、本作の魅力であるエキゾーストノートは押し出しと迫力がさらに高まる。微小レベルの音の分解能が上がるためか、サラウンドの音の移動感もより強調されることに驚く。

 光接続による画質向上効果は、精細感、見通しのよさ、暗部の表現力、輝度の表現力、色彩の表現力という多岐にわたっていた。オーディオ環境で聞き取れたノイズフロアーの低さが、文字通り「目に見える」形で画質を上げてくれた格好だ。また、特に映像のストリーミングサービスでは、LAN配線を使って機器間を伝わるノイズが大きな影響をおよぼしていることがあるのだろう。

 今回の取材では、光LAN接続のオーディオ用途における有用性を改めて実感したとともに、AV用途での有用性がわかったことも大きな成果だった。一定以上の品質を持つネットワーク環境下においては光LAN接続でも通常のLANでもデータ自体の欠損はあり得ないが、ノイズの影響で再生品位への影響があったであろうか、これは予想以上の品質向上であった。筆者は近い将来、AV環境での光LAN接続導入を決断した。これを見たらやらない手はない。

 

光LAN接続使用時のコツは接続箇所と給電方法にあり

 最後に光LAN接続のコツについて2点ほど記したい。1点は、光メディアコンバーターは可能な限り端末の直前に用いること。2点は光メディアコンバーターには可能ならば再生機器とは別の電源タップ等から供電し、電源アダプターからのノイズの影響を再生機器と切り離すことである。

 DELAの光接続用オプションセットと光接続対応スイッチングハブは、導入がスムーズで効果は抜群。オーディオ、そしてAVの両方で要注目アイテムだ。

 

視聴したコンテンツ

●ストリーミングミュージック:
『John Williams in Vienna』から「Imperial March」(TIDAL/MQA96kHz/24bit、FLAC44.1kHz/16ビット)、「Blinding Lights/The Weekend」(TIDAL/FLAC44.1kHz/16ビット)

●ストリーミングビデオ:
『ブレードランナー2049』、『フォードvsフェラーリ』(以上、Apple TV。4K&HDR映像+ドルビーアトモス音声)

リファレンス機器

オーディオ再生時
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300II
●プリメインアンプ:デノンPMA-SX1 Limited

AV再生時
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
●AVセンター:デノンAVC-X8500H
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300II、PLC350II、PL200II、PL100II、イクリプスTD508MK3、TD725SWMK2