作家で俳優でもある木下半太が、自身の自伝的小説を自ら映画化した『ロックンロール・ストリップ』が、8月14日(金)より公開となる。映画監督を夢見る売れない劇団の座長が起こすさまざまなハプニング(?)を、コミカルに映像化した青春群像劇だ。

 ここでは、主役・木村勇太(後藤淳平)の妹で、人気ロックバンド・マチルダのボーカル木村朋美を演じた三戸なつめにインタビューした。

――映画に出演する前から、『ロックンロール・ストリップ』の原作が大好きだったそうですね。
 オーディションの前に『ロックンロール・ストリップ』の小説を読んでいたんです。“絶対、朋美役をやりたい”という気持ちになって、オーディションで監督の木下半太さんに会ってその想いが一層強くなりました。すごい熱量の方で、“自分だからこそこの映画で伝えられるものがあるかも”“この人と一緒に仕事をしたい”という気持ちが高まったので、オーディションに受かったときはすごく嬉しかった。クスッと笑えるところがあると思ったら、めっちゃ核心をついてくるところがセリフの中にすごくあって、それって(木下監督が)いろんなことを体験されているからなんだろうなって思いました。

――朋美はどんなキャラクターの持ち主ですか?
 はっきりなんでも言うタイプで、やりたくないことはやりたくない。自分の芯がまっすぐな子だなって思います。そしてお兄が大好きなんですよ。朋美はすでに歌手デビューしていて、お兄はこれから映画監督になる夢を叶えていく。つまり芸能界では朋美が先輩にあたるんです。なので、“自分が経験したことをこれからお兄も経験していくんだろうな”と心配して、だからお説教もするんですけど、そこにはお兄を助けたい気持ちがある。自分も、ただ怒るんじゃなくて根本的にお兄が好きという気持ちをちゃんと持ちながら演じようと思いました。

――朋美に関しては、「ここが自分に似ている」という感じですか? それとも「全然違う」という感じですか?
 実際の私は、そんなはっきり言えないだろうなというのはあります。そこは私の朋美に対する憧れです。演じる時は、まくしたてるように、早くしゃべるように心がけました。オーディションのときには木下監督が勇太役をしてくれたんです。

――原作・脚本も手がけた監督みずから、若いころの自分自身を三戸さんの目の前で演じたんですね。
 そうです。監督は演技のキャッチボールがすごく速いんです。これは自分が思っていたよりも相当テンポを速くしてしゃべらなきゃって思ったんですが、私がテンポを気にしすぎて、演じることよりも速くしゃべることばかりに気持ちが行ってしまった。そこを直していただいたことが印象に残っています。“私の演技を見てくださっているんだな”と。

――映画で勇太役を演じている後藤淳平さん(ジャルジャル)の印象は?
 テレビのまんまの優しい方です。今回、タバコを吸ってセリフを言うシーンがあったんですが、慣れていないのでタバコを口から離したあと、セリフに移るタイミングがなかなかつかめない。セリフが飛んじゃうみたいになったんですよ、“なんだったっけ?”って(笑)。そうしたら後藤さんが“俺もダンスをやると次の振りを覚えたら前の振りを忘れることがあるんだよ”って話をしてくださって。優しいなって思いました。

――“踊れない芸人”とされている後藤さんが踊りまくるのも見どころです。そして朋美の所属する人気バンド「マチルダ」がテレビ番組に出ているシーンも映画の中に登場しますね。実際に音を出しているのは、三戸さんと人気ジャズ・バンドのCalmeraです。
 フルコーラス収録したので、どこかで流れたらいいなって思います(曲名は「ストリッパー」)。でも、撮影では、自分との葛藤もありました。

――50年代の「アメリカン・グラフィティ」風の衣装もすごく良いと思ったんですが、このシーンのどこに葛藤があったのでしょうか。
 私は“かわいい衣装だな”って思うんですけど、朋美はもっとかっこいいロックな感じが好きなんです。もともとマチルダの路線も彼女のやりたいコンセプトじゃなくて、事務所が“これだろう”ってやらせているもので、朋美の理想ではないんです。だけど三戸なつめとしては、衣装はかわいいし、カルメラさんとの共演だし、どうしても撮影中楽しくなってくる(笑)。不服そうな朋美を演じていても、どうしても地の自分の喜んでいる表情が出てしまう。幸いにもNGにはなりませんでしたが、やっぱり楽しいんですよ……。

――役になりきるのは大変ですか。
 イメージってあるじゃないですか。木下監督としゃべっていても、「あれ、三戸なつめってそんな感じなんだ。イメージとけっこう違うね」と言われたことありますよ。それが逆に、オーディションに合格するためには良かったのかもしれない。テレビとかで求められる私ってなぜか元気なキャラクターなんですよ。前髪が短くて個性的で元気でっていうイメージを長く求められてきたので、それに応じていたんですけど、暗い部分もあったりするので、今後の演技ではそこも出していきたいし、今回の朋美役も決して明るいだけじゃない。それが自分の中で若干救いとなっています。

――映画を見ていると、朋美も、ストリッパーの旭川ローズ(智順)も、本当に力強い。最後には、それまでちょっと弱気だった勇太の恋人、千春(徳永えり)も爆裂します。
 私の周りの女性も強い人が多いですよ。腹をくくるのが男性より早い気がする(笑)。実はストリップについて考えるのが、人生の中で今回が初めてで、エリーさんが“私たちだって、好きで客の前で股開いてるわけじゃねーよ”っていう言葉が出てくるんですが、そういう生き方をしてきた人たちのことを今回、初めて深く考えたという感じです。この人たちにはいろんな事情があってここにいて、お客さんの前で裸になっている。でもそんな背景を舞台では一切見せることなく、ローズさんにしてもすごくかっこいい演技をするわけじゃないですか。本当にすごいプロだな、と思いますね。

――控室いっぱいに積まれたローズさんの衣装用ダンボールからも、強烈なプロ意識を感じました。では最後に、改めて『ロックンロール・ストリップ』についてメッセージをお願いします。
 登場人物に“なんだよ、お前”と言いたくなったり、うまくいってない勇太たちをすごく応援したくなったりすると思います。この作品を見て“不器用かもしれないけど、こんな奴らでも、こんなに輝いているんだ”みたいなものを見ていただけたら嬉しいです。とろサーモンの村田秀亮さんなどお笑いの方もいっぱい出ていらっしゃるし、いろんな話の展開があって面白いので、この悲しい時代にぜひこの映画を見て笑ってほしいですね。

映画『ロックンロール・ストリップ』

8月14日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開

<キャスト>
後藤淳平(ジャルジャル)
徳永えり 智順 三戸なつめ 坂口涼太郎 ぎぃ子 町田悠宇ほか 品川祐(品川庄司) 村田秀亮(とろサーモン) 堤下敦(インパルス) 佐田正樹(バッドボーイズ) 宇野祥平 深沢敦 Calmera やべきょうすけ / 木下ほうか ほか

<スタッフ>
原作:木下半太「ロックンロール・ストリップ」(小学館文庫刊)
監督・脚本:木下半太
エグゼクティブプロデューサー:石田誠 プロデューサー:皆川拓也 三好保洋 音楽:Calmera 撮影:曽根剛 照明:本間光平 美術:秋元博 録音:山本タカアキ 装飾:寺尾淳 衣装:鈴木まさあき ヘアメイク:田鍋知佳 キャステイング:森川祐介 出版プロデュース:新里健太郎(小学館)  配給:ベストブレーン 企画:株式会社タッチアップエンターテインメント 製作:「ロックンロール・ストリップ」製作委員会
(C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント

公式HP http:www.rocknroll-strip.com
三戸なつめ https://mito.asobisystem.com/

ヘアメイク:中安優香
スタイリスト:藥澤真澄
<着用衣装のクレジット>
ドレス:64,000円/パーミニット(パーミニット perminute.net/)
ピアス:6,500円/ジェンマ アルス(ジェンマ アルス gemmaalus.com)
シューズ:13,500円/ダイアナ(ダイアナ 銀座本店 03-3573-4005)

テキスト:原田和典