オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。

以下の記事はHiVi2011年8月号に掲載されています

女性ヴォーカルが何とも気持ちいい。
音楽、映画ともに見事に鳴らし切る

<PROFILE>
 「CM7」の生産終了を受け、B&Wはその後継機として「CM8」を発売した。16cm径のウーファーユニット一基から、13cm径ユニット二基に構成を変えたことが最大の変更点だ。トゥイーターとミッドレンジのユニットや、ネットワーク回路のクロスオーバー周波数、スロープ特性などの仕様はほぼ変えていないが、音のつながりを向上させるために、コンデンサーには組成の異なるものを使用している。

 CM8の持ち味は何と言っても女性ヴォーカルの表現力だ。設計者は上位機の「800ダイヤモンド」と同一人物で、このモデルをまとめ上げるために使用したソフトの約70%が女性ヴォーカルだったという。800ダイヤモンドと同様のスケール感を求めるのは難しいが、試聴では一本筋の通った音が聴かれた。

<IMPRESSION>
 クレア・エミリー・バーロウのCD「ビート・ゴーズ・オン」から『にくい貴方』を再生。ジャズ・ドラマーを父に持つ彼女は、その資質を存分に受け継ぎ、大人の味わいで歌い上げるヴォーカルが魅力だ。CM8は安定感のある表現力でその雰囲気を充分に伝える。もう少し華やかさがあってもいいのでは、と思えるほど落ち着いたサウンドだが、スムーズなヴォーカルは歪感も少ない。ベースラインがいまひとつ伸び切らない印象だったので、バスレフポートに装填されていたウレタン製のダンプ材を外してみた。すると、ベースラインの音階がはっきりして、ヴォーカルもより明快になり、窮屈さが減った。環境にもよるので、ダンプ材の使用は比較試聴して決めたい。

 続いてバレンボイム指揮ウィーンフィルによる「ニューイヤー・コンサート2009」のCDから『美しく青きドナウ』を聴いた。CM7では、いくぶん高域にキャラクターを感じさせる部分があったが、そうした癖が減り、弦楽器の音色がスムーズに再現される。もう少し分解能があってもいいが、聴き易く、大らかに歌い上げてくれる感じが心地よい。

 映画BD「ソルト」では、ダイアローグをていねいに再現し、SE(効果音)もがっちりとしていて爆発音も腰砕けにならない。「アンストッパブル」を観ても、ダイアローグの扱いのよさは印象的。特に、スピーカーの存在を感じさせず、映像に音がぴったり寄り添う定位感には驚かされた。ジェフ・ベックの輸入盤ライヴBD「ロックンロール・パーティ」でも、画面に没頭できるし、ヴォーカルの表情が豊かに描き出される。

 音楽再生だけでなく、映像ソースにもきわめて好適なスピーカーである。

SPEAKER SYSTEM
Bowers&Wilkins CM8
¥240,000(ペア)※価格は当時のもの
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:130mmコーン型ウーファー×2、130mmコーン型ミッドレンジ、25mmドーム型トゥイーター
●インピーダンス:8Ω
●クロスオーバー周波数:350Hz、4kHz
●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●寸法/質量:W252×H960×D298mm/19.5kg