4K8K衛星放送がスタートして1年半が経過した。StereoSound ONLINE読者の中にも、既に4K8Kの視聴環境を整えて高品位コンテンツを楽しんでいる方も多いだろう。ただし現状はチューナー内蔵テレビ/レコーダーを使った視聴スタイルが中心で、4K8Kはリビングで楽しむといったケースがほとんどだ。だが、最新の通信技術を使えば家庭内ネットワークで4K8Kを配信できる。今回はデジオンが提供する、4K8K放送のホームネットワーク配信開発ツールの面白さについてインタビューした。(編集部)

取材はデジオン東京オフィスにお邪魔して、福岡本社とテレビ会議システムをつないで行った。山崎さんと迫田さんにリモートで対応してもらっている

--今日はデジオンさんにお邪魔して、4K8Kコンテンツのホームネットワーク配信を可能にする「DiXiM DMS Plus2」と「DiXiM Play」についてお話をうかがいたいと思っています。

迫田 マーケティング部の迫田です。今日はおいでいただきありがとうございます。今回はDiXiM DMS Plus2に関するお話が中心になると思いますので、私と開発部門 部門長の山崎、営業部門 営業部の蒲地の3名でご説明します。

麻倉 こちらこそよろしくお願いします。デジオンさんには以前、コンテンツ保護技術の「SeeQVault」に関するお話をうかがったことがあります。B to Bでホームネットワークやクラウドに関連した開発ツールを提供している専門会社という印象がありました。

山崎 弊社は2009年〜10年頃から著作権保護技術のDTCPに対応した開発ツールを家電メーカー向けに提供してきました。最初はNAS用のサーバー機能から始まり、その後はテレビやレコーダー用を、スマホが登場した2011年以降はスマホ向けのDTCP対応プレーヤー機能を用意して、家庭内でスマホを使ってテレビや録画コンテンツを見ていただくという提案を進めてきました。

 加えて、先ほどお話にあったSeeQVaultや、HDDに録画したDTCPコンテンツをSDカードに保存して持ち出すといったソリューションについても対応製品を出しています。エンドユーザーに色々な形で録画コンテンツを楽しんでいただくための技術、開発ツールを提供しています。

麻倉 その開発ツールの最新版がDiXiM DMS Plus2ということですね。

迫田 はい。DiXiM DMS Plus2は3月に発表した、「DTCP2」に対応しているサーバー機器向けの開発ツールです。同時発表したDiXiM Playは弊社が発売しているプレーヤーアプリで、これを使えば4Kレコーダーに録画した番組を2Kにダウンコンバートして、ネットワーク経由で観ることができます。

山崎 DTCP2は、4K8K衛星デジタル放送のコンテンツ保護に対応するためにA-PAB(放送サービス高度化推進協会)が規定したIPインターフェイスのコンテンツ保護方式で、4K8Kコンテンツのネットワーク配信はこのDTCP2に準じて行わなくてはなりません。

 DiXiM DMS Plus2はそのDTCP2に対応したトータルソリューションとして考えています。4K8Kの家庭内ネットワーク配信や再生、ムーブと呼ばれる録画コンテンツを移動する仕組みについても先駆けて開発し、実装しています。

 日本には放送を録画する文化があります。4K8K放送になればなおさら綺麗なまま保存したいというニーズが出てくると思います。それに対応し、DTCP2を使ってNASなどの大容量ストレージにアーカイブする機能をエンドユーザーに提供していきたいと考えています。

麻倉 今回の提案は世界初ですか?

山崎 いえ、パナソニックさんの2020年DIGA春モデルがDTCP2の配信機能を備えています。レコーダーで録画した4K放送をネットワークで配信し、対応DIGAで再生できるというものです。

麻倉 それはデジオンさんのシステムとは違うのですね?

山崎 残念ながら(笑)、パナソニックさんが独自で開発されたシステムです。

麻倉 DIGAの機能と、DiXiM DMS Plus2とでは違いがあるのでしょうか?

山崎 DiXiM DMS Plus2には先ほど申し上げたムーブ機能があり、4K8Kの録画コンテンツをネットワーク経由でNASなどに移せます。これはパナソニックさんには搭載されていません。

麻倉 ところで、DiXiM DMS Plus2という名称ですが、「Plus2」というからには、これまでもシリーズがあったのですね?

山崎 もともとは、「DiXiM DMS」というDTCP-IPに対応していないノンセキュアのコンテンツを扱うメディアサーバーとして開発していました。その後、DTCPのムーブや配信機能に対応したツールが欲しいという声をいただき、「DiXiM DMS Plus」を開発しました。今回はDTCP2への対応を含めた製品としてDiXiM DMS Plus2を発売しました。

麻倉 DiXiM DMS Plus2はメーカー向けの開発ツールとのことですが、われわれユーザーとしては、この技術を使った製品が出てくることで、4K8Kのどんな新しい楽しみ方できるのかが大いに気になります。デジオンさんとしてその辺りはどうお考えでしょうか?

山崎 4K8K放送をリビングに置いたレコーダーで内蔵HDDや外付けUSB HDDに記録した場合、現状はその機器でしか再生できません。しかし最近はリビング以外の部屋にもテレビがあり、そこでも録画した4K8K番組を見たいというニーズが増えています。

 そんな場合にレコーダーが4K放送をネットワーク配信できれば、高画質のまま別の部屋でも楽しめるようになりますね。DiXiM DMS Plus2はそれを可能にするツールなのです。

麻倉 家庭内ネットワークにつないだ機器なら、どこからでも録画した4K8K番組が見られるようになるとは確かに便利。その配信は、イーサネットやWiFiなどの既存のネットワークを使うのですか。

山崎 その通りです。さらにコンテンツを残しておきたいというニーズに向けては、ムーブ機能を使ってDTCP2対応のNASなどに番組を保存できます。NASに番組を残しておけば、レコーダーを買い替えることになってもディスクに焼くなどの手間はいりません。

DiXiM DMS Plus2を搭載した機器の使用イメージ。DiXiM DMS Plus2を使ってDTCP2に対応することで、リビングに置いたレコーダーで録画した4K/8Kコンテンツを、ネットワーク経由で他の部屋のテレビやタブレットで見られるようになる。対応NASへのムーブも可能という

麻倉 確かに。現段階で、DTCP2に対応した製品が発売される予定はありますか?

蒲地 先ほど申し上げた通り、現在市場に出ているDTCP2対応製品はDIGAだけです。弊社は、それ以外のメーカーに向けてDiXiM DMS Plus2を採用しませんかと提案しているところです。もちろんその中にはNASのメーカーも含まれています。

麻倉 DTCP2対応のNASとテレビがあったとして、このふたつをダイレクトにつないでNASに保存したコンテンツを見ることはできるのですか?

蒲地 NASがDTCP2のサーバー機能を備えていれば可能です。

山崎 ひとつ注意が必要なのが、DTCP-IPとDTCP2では互換性がないことです。そのため、DTCP2の環境で4K8K録画番組を見るためにはDTCP2対応プレーヤーアプリが必要なのです。弊社のシステムでは、4K放送を2Kにダウンコンバートして配信する機能も備える予定で、ダウンコンバートしたコンテンツについては既存のDTCP-IP対応ソフトでも再生できます。

麻倉 DiXiM DMS Plus2は、屋外からのネットワーク再生もサポートするのでしょうか。

山崎 2K変換を行うことで、屋外での4Kコンテンツ視聴ができるようになります。弊社ではリモートアクセスという再生アプリを出していますが、それと組み合わせることで、2K変換した4K録画番組を屋外でもご覧いただけるようになります。

麻倉 先ほどお話に出た「トータルソリューション」というのは、メーカーに“トータルな開発ツールを提供する”ことなのか、あるいはデジオンさんが“ハードウェアまで含めたトータルな4K8K再生環境を構築する”のか、どちらなのでしょう?

山崎 弊社がハードウェアを作ることはありません。DiXiM DMS Plus2を採用いただくことで、サーバー、プレーヤー、ムーブ機能まで含めた開発環境を提供したいと考えています。

 またこれは現在検討中の案件ですが、DTCP2に対応したエンドユーザー向けのプレーヤーアプリを開発していきたいと思っています。現在のDiXiM Playはダウンコンバートした2Kコンテンツしか再生できませんので、4Kも再生できるバージョンを考えていきます。

株式会社デジオン 開発部門 部門長の山崎 清さん

蒲地 今後5G環境が整ってくると、外で高品位なコンテンツを楽しみたいという声も高まってくると考えています。そのタイミングに合わせてDTCP2に対応した4Kプレーヤーアプリを出していきたいと思います。

麻倉 DTCP2対応の8Kレコーダーが出てきたら、録画した8K番組をNASにムーブしたり、ネットワーク経由で見ることはできるのですか?

山崎 はい。DTCP2での扱いは8Kも4Kも同じです。ただしコンテンツの容量が増えますので、ネットワークの帯域は必要になります。

麻倉 私は今後のレコーダーは8K対応が必須だと思っています。コンテンツのありがたみは8Kの方が上ですし、それを大容量のNASに残せるとなると喜ぶ人は多いでしょう。その意味ではDTCP2対応がレコーダーとしても急務ですね。質問を変えますが、DTCP2について、デジオンさんと同じような提案をしている会社はあるのでしょうか?

蒲地 現時点では弊社だけだと思います。もちろん、パナソニックさんのように自社で開発されているメーカーはあります。

麻倉 DiXiM DMS Plus2の開発時の苦労やポイントはどこだったのでしょう?

山崎 DTCP2はハードウェアに依存した実装という側面があり、ハードウェアのセキュリティを担保する必要がありました。ですので、DiXiM DMS Plus2だけではまかなえない点もあり、そこが難しかったですね。

 開発時の苦労点としては、世の中にない機能ですから自社製品同士での相互検証しかできないという難しさがありました。その部分はこれから各社と調整していく必要があると考えています。

麻倉 DiXiM DMS Plus2はチップセットとして提供されるのですか?

山崎 その点については、メーカーによってシステム構成が異なりますので、それぞれのご要望に応じて最適な形で提供しております。

麻倉 互換性についてうかがいます。同じDTCP2対応製品があったとして、メーカー同士の動作確認はどこが行うのでしょう?

蒲地 エンドユーザー向けの再生アプリ等については、自社製品の場合は弊社が行います。レコーダーの互換性テストなどは販売するメーカーが担当することになります。

株式会社デジオン 営業部門 営業部 ゼネラル・マネージャーの蒲地 寛さん

麻倉 レコーダーとしては放送波をそのまま残すと考えていいのでしょうか?4Kレコーダーではトランスポート方式をMMTからTSに変換して録画する製品もあり、そのために4K放送を保存したブルーレイの再生互換性がないといった問題もありました。

山崎 そこはDTCP2の課題点でもあって、現状の規約ではコンテナやビデオフォーマット、オーディオフォーマットはいくつかの方式から選択できます。そのため、放送波をそのまま保存するメーカーもあるでしょうし、MMTをTSに変換するメーカーも出てくるかもしれません。

 弊社の場合はどの方式でも配信、ムーブが可能なようになっていますが、互換性を考えると、業界として統一していかなくてはならないでしょう。

麻倉 ホームシアターユーザーの場合、レコーダーのHDMI出力から絵と音を別々に出して欲しいという要望もあります。そういった使い方も可能ですか?

山崎 ARIB(一般社団法人 電波産業会)が承認した出力方式であれば対応できますので、レコーダーの仕様次第でしょう。

麻倉 NASからのムーブイン/アウトもできますよね?

山崎 DiXiM DMS Plus2ではどちらも可能です。最終的なハードウェアでどこまで採用されるかは各社さん次第になります。

麻倉 NASに保存したコンテンツをPCのアプリで編集することも可能になるのですか?

山崎 現状のDTCP2の規約では、ネットワーク経由で直接編集はできません。PC側がDTCP2のサーバー機能を備えていれば、一端PCのHDDなどにムーブしてそこで編集するのは可能です。

 4K8K放送でも、番組の気に入ったところだけ残したい、コンピレーションを作りたいといったニーズはあるでしょうから、考えていきたいと思います。

麻倉 YouTubeなどのネットコンテンツへのDTCP2の応用は可能ですか? ネットコンテンツはいつなくなってしまうかわかりませんから、気に入ったものをNASに残しておけるといいのですが。

山崎 DTCP2技術に限りませんが、ネットコンテンツをDiXiMと組み合わせて利用する事もまさに考えており、関係各社と話を始めたところです。

麻倉 DTCP2の対応製品が出た場合、デジオンさんのシステムを使っているといったことは表記されるのでしょうか?

蒲地 基本的には「Powered by DiXiM」のような表示がされると思います。

麻倉 マークが付いている製品同士で再生互換が保証されるのであれば、ユーザーも安心です。そういったユーザーに対する配慮もぜひお願いしたいところです。今日はありがとうございました。

株式会社デジオン マーケティング部 マーケターの迫田鈴菜さん