世間から隔絶された山奥で生活する男子禁制の女人だけの集落。村長たる鬼熊<オニクマ>は、自分の娘と孫を守るため、住人らには厳しい掟を課していた……。大学在学中から早くも才能を発露した速水萌巴監督の長編デビュー作となる『クシナ』が、完成から2年、ようやく国内での公開が決定した。彼女たちはなぜ、山奥で隠遁した生活をおくるのか? タイトルロール“クシナ”を演じ、本作が女優デビューとなった郁美カデールにインタビューした。

――公開を目前に控えて、演じられたクシナと同じ14歳を迎えていかがですか?
 ありがとうございます。撮影当時は9歳でしたから、もう4年も経ちます。その頃は、クシナのことを明るくて楽しそうな子だなって思っていましたけど、クシナと同じ14歳になった今、改めて彼女のことを考えてみると、鬼熊<オニクマ>に守られているとは言え、人里離れた山奥での生活はたいへんそうだし、少し悲しい子なのかなって感じるようになりました。

――とはいえ、自然は豊かでした。
 そうなんです、実際現地に行ってみて「ここに住みたい」って思うぐらい素晴らしいところでした。けど、撮影を進めていく内に、虫が多くて「もう無理!」ってなりました(笑)。

――映像の中では、そうした自然の中で楽しそうに遊んでいる姿が収録されています。
 当時は9歳でしたから、仕事(お芝居)をしているというよりは、素で遊んでいた感覚でしたね。とにかく、楽しかったという思い出ばかりです。中でも、泥団子を作って「これがオニクマ」って説明するシーンが、一番面白くて、一番記憶に残っています。

――自然の中での一人遊びは?
 私も一人っ子なので、一人で遊んだり、一人で何かをするということには慣れていたので、当時は、遊ぶ場所や遊ぶ物が変わった程度で、特に違和感はなかったですね。石を運んだり、川で遊んだり、泥だんごを作ったりして、とても新鮮でした。

――本作で女優デビューを果たしました。
 当時はお芝居をしているという意識は薄くて(笑)、台本を読みながら遊んでいた、っていう感覚なんです。難しいとかたいへんだったという記憶はなくて、ただただ楽しかったという思い出しかありません。

――劇中では、大先輩でもある小野みゆきさん(鬼熊<オニクマ>役)と共演されていました。
 小野さんはとにかくかっこいいし、綺麗だし、目力もあって、そんな姿を近くて拝見して、私も小野さんみたいになりたいって、感動していました。初めての映画で共演させていただけて、とてもうれしかったです。

――さて、映画本編に話を戻しますが、当時台本を読んで、内容は理解できましたか?
 いやぁ、ほとんど理解していなかったと思います。この部分は怒ってそうだから怒ろうとか、楽しそうだから遊ぼうとか、悲しんでいるから泣かなくちゃとか、そういう感じでした。

 そうそう、壺を持っているシーンは結構記憶に残っているんですけど、監督からハイって壺を渡されたので、望遠鏡みたいに中を覗き込んだりして、ほぼ素の状態で遊んでいました。

――本作には監督の体験も反映されているそうですが、クシナと鹿宮<カグウ>、鬼熊<オニクマ>たちの関係性の中で気づいたことはありますか?
 当時は分かりませんでしたけど、最近観なおした時に感じたのは、鹿宮<カグウ>は28にもなるのに、まだ外(文明社会)に行くのは早いって鬼熊<オニクマ>に止められているのは、守られ過ぎ(過保護)じゃないかなとは感じました。

 クシナについても、外の世界のことは全く知りませんけど、人類学者の風野蒼子(稲本弥生)さんと出会うことで、いろいろな話を聞いて、もっともっと外の世界のことを知りたくなったんだろうなって、共感する部分はありました。

――監督のコメントに、クライマックスにおける川中シーンでの役者の演技に感動したというものがあります。覚えていますか?
 はいっ! すごく覚えています。ただ、正直に話すと、この映画の中ではすごく重要なシーンになりますけど、当時は、みんなが川の中で遊んでいるように見えて、「楽しそうだから私も混ぜて」という感覚が強かったです。よく見ると、私はニコッて笑っていたりするんです。おかげで、何回か撮り直した記憶はあります。当時はみんなと川遊びをしている感覚だったので、撮影が終わった後も一人でパチャパチャしていました(笑)。

――ところで、クシナと風野蒼子さんが仲良くなるシーンで、一瞬キスをしているように見えるカットがありました。
 あの薄いシートみたいなものをかぶっているところですよね。現場では、稲本さんとゲームをしながら遊んでいて、ふと監督から、抱き着いてみてという指示が来たので、温かいねーなんて言いながら抱き着いて、じゃれ合っていたんです。その後、11歳ぐらいになって観なおした時に、こういう風になっていたんだって、すごく驚きました。

――ところで、郁美さんご自身はクシナのような生活に憧れますか?
 (撮影)当時はそこに住みたいなって思うぐらい気に入っていて、山奥に家を建てて、みんなでワチャワチャ過ごすのに憧れていました。けど、やはり撮影が終わって都会に戻ってくると、近所にコンビニぐらいは欲しいなって思いました(笑)。ただ、劇中のような場所で、ゆったりと暮らすことにも憧れますから、おばあちゃんになったら引っ越そうかなって考えています。

――女優活動の今後は?
 いまは受験を再来年に控えていますので、勉強を中心に頑張っていますけど、高校に受かったら、モデルと女優をメインに芸能活動を再開したいです。そして、少しずつでいいので、いろいろな映画に出演できるように頑張りたいです。やっていて楽しいので、一生続けたいなって思います。

――憧れや目標は?
 やはり女優さんの中では、本作で共演させていただいた小野みゆきさんに憧れます。当時の「すごくカッコいい」という記憶が、とても強く残っていますから。あの目力を身に付けたいです。

<郁美カデール プロフィール>
2012年、6歳の時に小学館よりモデルデビュー。その後TVCM、MV、カタログ、ファッションショーなどに出演。2018年には映画『クシナ』で主演として女優デビュー。2019年にはモデル・女優の土屋アンナより直接スカウトを受けるも、現在は学業に専念している。
郁美カデール https://twitter.com/ikumikader

ヘアメイク:岡田美砂子

映画『クシナ』

7月24日よりアップリンク渋谷ほか、全国順次公開
<キャスト>
郁美カデール
廣田朋菜 稲本弥生 小沼傑
小野みゆき
<スタッフ>
監督・脚本・編集・衣装・美術:速水萌巴
配給宣伝:アルミード
2018 / 日本 / カラー / 70分 / アメリカンビスタ / stereo
(C)ATELIER KUSHINA

公式HP:https://kushinawhatwillyoube.com/
Twitter:https://twitter.com/kushina_cinema
facebook:https://www.facebook.com/kushina.cinema/
Instagram:https://www.instagram.com/kushina_after_4years/

<あらすじ>
深い山奥に人知れず存在する、女だけの“男子禁制”の村。村長である鬼熊<オニクマ>(小野みゆき)のみが、山を下りて、収穫した大麻を売り、村の女達が必要な品々を買って来ることで、28歳となった娘の鹿宮<カグウ>(廣田朋菜)と14歳のその娘・奇稲<クシナ>(郁美カデール)ら女達を守っていた。

閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録することで人間が美しいと証明したいと何度も山を探索してきた人類学者の風野蒼子(稲本弥生)と後輩・原田恵太(小沼傑)が、ある日、村を探し当てる。

鬼熊<オニクマ>が、下山するための食糧の準備が整うまで2人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていく。