4K8K放送がスタートして2年弱が過ぎ、視聴可能な機器も充実してきている。このうち8K機器は現時点ではチューナー内蔵テレビが中心だが、今後は8Kプロジェクターや8Kレコーダーの登場も期待される。そこで必要になるのが8K信号を1本で伝送できるHDMI2.1規格に対応したケーブルだ。しかしHDMI2.1の詳細はこれまでいまひとつ明確ではない。HDMI2.1とは、いったい何なのか。そこで今回は高品位なHDMIケーブルを多く手がけるエイム電子に、HDMI2.1ケーブルの詳細についてインタビューした。対応いただいたのは同社代表取締役社長 中山栄志さんと、開発技術部の向 真喜男さんだ。(編集部)

インタビューはStereoSound ONLINE視聴室で、実際に8Kテレビに映像を再生しながら行った。写真右から2番目がエイム電子株式会社 代表取締役社長 中山栄志さんで、右端が同社 開発技術部の向 真喜男さん

——今日はエイム電子さんにHDMI2.1ケーブルの最新事情についてお話をうかがいます。同社では今年3月にHDMI2.1に対応した光変換(レーザー)ケーブルの新製品「LS3」シリーズを発売しています。今日は実際に15m長のLS3を使って8K伝送のデモもしていただきました。

麻倉 とても興味深いデモでした。業務用プレーヤーで再生した8K/60p/4:2:0のHDR(HLG)信号を、LS3を使ってシャープの8Kテレビ「8T-C60CX1」に伝送しましたが、ひじょうに安定した8K映像が再現されました。これでLS3が8K伝送のスペックを備えていることが目視確認できました。

中山 無事8Kを伝送できて、私もほっとしました。

麻倉 LS3は発売から3ヵ月ほど経っていますが、予想以上に売れているそうですね。

中山 おかげさまでご好評いただいています。ユーザーは既に8Kテレビをお持ちの方が中心で、どうせ買うのならケーブルも8K伝送に対応したいいものにしておきたという方も多いです。

 今のタイミングで従来からの18GbpsのHDMIケーブルを買うかというと、悩ましいですよね。製品として48Gbpsの伝送ができるケーブルがあるのならそちらを選ぼうということのようです。

麻倉 規格として確定していて、既に対応製品もリリースされているのに、敢えて古いスペックを買うことはない。せっかくなら先々まで使える製品を選ぼうという発想ですね。

中山 まず1本お買い上げいただき、その後さらに追加購入してくれる方も多くいらっしゃいます。

麻倉 使ってみたら予想以上によかったので、追加したということでしょう。値段は金属製ケーブルより高いけれど、それだけの価値があると判断してくれたのですね。

中山 ありがたいことです。またLS3は、ホームシアターユーザーだけでなく、放送に携わっている映像プロダクションとかメーカーさんにもお買い上げいただいています。既に8K機器を導入されているテレビ局などにも弊社の製品を使っていただいております。

麻倉 LS3はHDMI2.1対応ケーブルとして、世界初なのですね?

中山 はい。ただし、弊社としてはパッケージやリリースにはHDMI2.1対応といった表記はしていません。HDMIフォーラムとしては、HDMI1.4の頃からバージョンの表記をしないで欲しいという方針なのです。弊社もHDMI2.1という言い方はせず、規格の最大速度である48Gbpsが出せることを訴求しています。

世界初! 48Gbpsの伝送に対応したHDMIケーブル「LS3」シリーズ

AIM LS3
●最大解像度:10k/120p、8K/30p/30ビット(4:4:4)
●コネクター:24金コーティング
●コネクターサイズ:W20.6×H10.8×D40.3mm
●ケーブル外径:50φ
●ケーブル導体:FRL信号線は光ファイバー、その他の信号線は銅線
●シールド:二重アルミシールド
●曲げ半径:20mm
●絶縁体:PVC
●ケーブル構造:石英ファイバー+銅線ハイブリッド
●外部電力供給:送受信側HDMIコネクターに電源供給ジャック搭載

※ラインナップ
LS3-015(1.5m) ¥160,000(税別)、LS3-03(3m) ¥170,000(税別)
LS3-10(10m) ¥190,000(税別)、LS3-12(12m) ¥200,000(税別)
LS3-15(15m) ¥210,000(税別)、LS3-20(20m) ¥230,000(税別)
LS3-30(30m) ¥260,000(税別)

麻倉 HDMI2.1規格に対応することは、イコール、最大速度が48Gbpsになるということなのでしょうか。

中山 厳密に言うと伝送方式も変わっています。HDMI2.0まではTMDS(Transition Minimized Differential Signaling)という方式で3本の導線で信号を、残りの1本でクロックを送っていました。これに対しHDMI2.1ではFRL(Fixed Rate Link)方式で導線を4本使っています。その意味では根本的な伝送の仕方が違います。

麻倉 ということは、HDMI2.1対応ケーブルは48GbpsのスピードとFRL方式に対応していないといけないわけですね。

中山 おっしゃる通りです。この2点がケーブルとして一番異なるポイントといえるでしょう。

 私どもは、HDMI1.4a規格の10.2Gbps伝送の時代から光ケーブルを発売していました。2009年頃の話です。その後伝送スピードが18Gbpsと速くなりましたが、この時は当初から予測していたこともあり、比較的スムーズに開発が進みました。

 しかし今回は、規格の詳細がなかなか分からなかったので、HDMIフォーラムで規格が固まるのを待って、基本設計を転用できるのかなどの技術的な検証に着手しました。

 その結果、光変換技術自体はどんな伝送方式でも基本的には変えなくてもいいことが分かりました。それを元にTMDSとFRLというふたつの伝送方式に対応できるように設計をしなおしたということになります。

麻倉 従来のHDMI2.0の信号も送らないといけないから、FRLだけ対応すればいいというわけではない。

中山 はい。それもあって、なかり検証にも気を遣いながら設計を進めてきました。

麻倉 HDMIフィーラムでは規格の発表時に、従来同様の金属線で48Gbpsを伝送できると説明していました。しかし実際にはCESなどで展示品を見たHDMI2.1対応ケーブルはほとんど光ケーブルです。金属線で対応するのは難しいのですか?

中山 金属線は伝送速度が上がるほど信号が減衰しやすくなるので、長尺ケーブルが難しいのです。弊社は金属線のHDMIケーブルも作っていますので、金属線での限界も分かっています。HDMI2.1の規格が発表された時点で、金属線での限界がどこにあるか、光ケーブルならどのあたりをターゲットに作っていけばいいのかを踏まえ、最終的に光ケーブルを選択しました。

麻倉 LS3は1.5m〜30mまでをラインナップしています。金属線ではどれくらいの長さが可能なのでしょうか?

中山 難しい質問ですが、銅の品質、製造品質、設計品質を高いレベルで維持した上で作れるのは3mくらいが限界だと思います。

麻倉 3mでは天吊設置したプロジェクターまでは届かないですね。その意味では光ケーブルの方が実用性が高いわけですね。となると次は、TMDSとFRLのふたつにどうやって対応していくかになります。そもそもこのふたつはどう違うのでしょう?

 HDMIのコネクターには19の接点が設けられており、それぞれ図のような配列になっている。HDMI2.0までの世代では①〜⑨で映像信号を、⑩〜⑫で制御用のクロック信号を送っていた。これに対しHDMI2.1では①〜⑫のすべて映像信号を伝送する方式に変更されている。なお今回取材したLS3では①〜⑫の信号伝送用に4本の光ファイバー(図の緑色で囲っている部分)を使い、それ以外の制御信号などは金属線(銅線)で送っている

 TMDSは、データとクロックを別々の導線で送っていました。FRLはデータの中にクロックを埋め込むことで高速化を図っています。そういう意味ではクロックのずれもなくなります。

 また高速化のもうひとつの選択肢として、信号のカップリング方法としてAC結合とDC結合のどちらを使うかがあります。TMDSではDC結合を使っていましたが、この方法では負荷が大きく、信号を高速化できませんでした。そこでFRLではAC結合を採用して、高速のデータだけを通すようにしています。

麻倉 HDMI2.1ではピュアに信号だけを送っているということですね。

 そういったイメージです。FRL伝送方式は、PCで使われているディスプレイポートで採用されていました。今回HDMIでもそれを使うことで高速化を実現しようと言う狙いです。

中山 FRLはまったく新しい伝送方式ではありません。私どもは広範囲なデジタル伝送技術を持っており、2年ほど前に、世界初の8K対応ディスプレイポート用ケーブルも発売しています。この時の長さは100mでした。

 その意味では、TMDSとFRLのどちらについても経験があったので、それを活かして、かつHDMI2.1で両方が動作するように設計できたのです。

麻倉 なるほど。まったく新しい技術ではなく、これまで経験のある要素を組み合わせて対応していったと。それはエイムさんの強みですね。

中山 ケーブルメーカーとしてデジタル伝送技術をずっと研究してきたからこそ、HDMI2.1についても開発時間が短くて済みました。

麻倉 要求の高い業務用ケーブルを作ってきたエイムさんならではの、ハード、技術両面での経験の賜ですね。ところで、HDMI2.1として規格を満足させるのは当然として、実際の製品では品質へのこだわりも重要だと思います。そこについては、どうお考えなのでしょう?

中山 弊社にはバックボーンとして持っている通信系の技術、例えば400Gbpsのスピードを流すデータセンターなどで使われている超高速通信の光変換技術もありますので、こういったものをベースに製品を開発しています。

麻倉 エイム電子さんは、もともと業務用の超高速通信で使われる製品を作っているわけですから、そういった面では問題なかった。

中山 はい。ですので、設計品質という意味では48Gbpsという伝送速度であってもかなり余裕があります。また光ファイバーについても、もっと大容量まで伝送できる素材を使っています。光ファイバーも品質が悪くなると48Gbpsが伝送できないものもありますので、部品を選別しています。

麻倉 光ファイバーにもグレードがあるのですね。それは材料とか作り方で違ってくるのですか?

中山 おっしゃる通りです。ファイバーの素材にも規格があり、グレードが上がるごとに性能もよくなります。それを見極めながら、LS3でどの素材を使うかを選びました。

8Kデモ映像出力用として、エイム電子さんがソシオネクストの8Kメディアプレーヤー「s8」(写真左)を持参してくれた。このプレーヤーからはHDMI2.0×4本出力で8K信号を再生する仕組みなので、さらにコンバーター(写真右)を使ってHDMI2.1規格に変換、1本のケーブルでテレビにつないでいる。試聴風景の写真で麻倉さんがチェックしている映像もソシオネクストの評価用画像で8K/60p/4:2:0/HLGというフォーマットで制作されている

麻倉 LS3で使っているファイバーはどれくらいのグレードなのでしょう?

中山 品質という意味では、ほぼ最高レベルの性能を備えています。前モデルのLS2で使っていた光ファイバーよりも品質は上がっています。

麻倉 48Gbps伝送のためには光ファイバーもいいものでなくてはいけなかったわけですね。ちなみに18Gbps用と48Gbps用ではファイバーとしてどこが違うのでしょう?

中山 光ファイバーの中を光が屈折しながら進んでいきますが、その直進性などによって伝送時の性能が変わってきます。

麻倉 電気から光への変換機自体は、10.2Gbpsの時に開発したものから大きく変わってはいないのですか?

 基本的にはそうですが、設計時には色々な試行錯誤を行っています。ICだけではなく基板も必要ですから、基板上の信号配線なども見直しました。処理内容が増えることに伴うスピード向上や、変換精度のアップ、ノイズを抑えるための基板の高速信号設計なども大胆に見直しています。

 そもそもHDMI2.0では3本の導線で18Gbpsを伝送していましたから、1本あたりは6Gbpsの信号処理で済んでいました。しかしHDMI2.1では4本で48Gbpsなので、1本あたり12Gbpsを伝送しなくてはなりません。ディスプレイポートは1本あたり8.1Gbpsでしたので、これをベースに高速伝送の設計を試し、光ファイバーの品質を試して進めてきました。

 HDMI2.0が出てからHDMI2.1の規格が発表されるまでに時間がありましたので、その間にいろいろ試すことができました。

麻倉 確認ですが、LS3では導線として4本の光ファイバーを使っているのですか? それとも1本の光ファイバー線の中に4つの信号を通しているのか、どちらなのでしょう?

中山 4本のファイバー線を使っています。技術的には1本のファイバーの中に4つの信号を通すこともできなくはないのですが、現状では4本のファイバーを使った方が安定します。ファイバーの芯線はひじょうに細いので、LS3も直径は5mmしかありません。

麻倉 過去のケーブルの中には、光ファイバーだけどクロック用は金属線というハイブリッドモデルもあったと思います。それに対し4本ともファイバーになるということは、クロックの精度も上がりそうですし、4K伝送時の画質改善も期待できそうですね。

中山 その可能性はあります。現在LS3をご購入いただくメリットは、今後も長く使える点だと思いますが、4K伝送時でも画質向上などのメリットがあるといいと思います。

麻倉 ちなみにLS2もクロック線に光ファイバーをつかっていたのでしょうか?

中山 はい。弊社ではLS2の頃から光ファイバーを4本使っていました。

シャープ8T-C60CX1は5系統のHDMI入力を搭載しているが、このうち8K入力ができるのは「入力6」のみ。本体にも「8K対応」と明記されているので間違えることはないだろう。今回はここに8Kのテスト信号を入力したが、スペック通りにしっかり再現されていた

麻倉 設計品質は最高を狙っていることがわかりました。となると次は製造時の品質ですね。ここまでくると製品作りでも相当注意をしないといけませんよね。

中山 設計品質と製造品質は同じくらい重要です。基板、ファイバーだけでなく、ファイバーを融着する技術などは手作業になりますから、そこでも品質にはたいへん注意しています。

 そうした上で、最終チェックにも時間をかけています。もちろん測定器も使いますが、それはデータが基準値に入っているかを調べるものです。それをクリアーした上で、映像がきちんと映ることを人の目で確認しています。これは出荷前の最後の工程で行っています。

麻倉 チェックは、具体的にどんな項目で行っているのでしょう。

中山 8Kのテスト映像をつないだ場合に、テレビ側できちんと8K/60p信号で伝送できているかを確認します。また映像が一瞬でも消えるようなことはないか、ノイズがないかを目視します。ノイズと言ってもスノーノイズとかブロックノイズなど色々な種類がありますので、それらがないことを確認しています。

麻倉 全数をチェックしているのですね?

中山 はい。海外の製造工場で製品が完成した時と、日本に持ってきて弊社の工場から出荷する時の2回チェックしています。これはLS3だけでなくすべての製品で行っています。

麻倉 それは凄いです。では、実際のテレビとの接続テストはどうでしょう?

中山 初代モデルのLS1の頃から市販のテレビを購入して動作を確認していますが、それだけでは追いつけません。そこで家電量販店さんにご協力をいただいて、お店にあるテレビすべてで動作するかを確認するなどの検証を行っています。また弊社は国内テレビメーカーさんとお付き合いがありますので、メーカーにお邪魔して接続テストをさせていただくこともあります。

麻倉 国内メーカーとフィールドテストできるというのは強みですね。

中山 たとえばテレビとレコーダーをつないで絵が映らないようなことがあると、最初にクレームが行くのはテレビメーカーで、普通はケーブルは疑われない。でもデジタルの場合ケーブルが原因で絵が映らないケースもありますので、テレビメーカーとしてはこのケーブルなら大丈夫ということが言えるのは大いに助かるそうです。

 またプロジェクターの場合はつなぐケーブルが長いので、テレビ以上に問題になりやすいようです。それもあって、プロジェクターメーカーさんも快く接続テストにご協力いただけています。

LS3シリーズは1.5〜30mまで7種類の長さを準備している。業務用としては100mまでラインナップしているので、どうしても30m以上が欲しい場合はエイム電子に問い合わせてみるといいだろう。なおコネクター部には電源供給用の端子も準備されており、電源を外部供給するかしないかで絵や音が変わる可能性もあるので、気になる方は試してみていただきたい。給電用のUSBケーブルは付属している。写真は取材で使った15mケーブル

麻倉 先ほどLS3を使ってUHDブルーレイの4K/HDRを伝送した映像もチェックしましたが、前モデルのLS2よりも綺麗な絵が再現できていました。これはなぜなのでしょう?

中山 エンジニア的な表現ではありませんが、ケーブルの設計に余裕があると言いますか、高速信号をノイズを載せずに伝送できるよう基板設計やパーツに配慮していますので、そういった意味で画質向上が実現できた可能性が高いと思います。

 LS3では光伝送自体のS/Nが上っていますので、そこが大きいのではないでしょうか。

麻倉 それが質感や透明感の違いに現れているのですね。この絵を体験すると、4KプロジェクターのユーザーもLS3が欲しくなるでしょう。もともとの狙いとして4Kもよくしようと考えていたのか、それとも結果的によくなったのか、どちらなのでしょう?

中山 作ってみたら全体の底上げができていました(笑)。高い山の頂を目指した結果、裾野も広がったというか。

麻倉 デジタル伝送なのに、アナログ的な変化があるというのも面白いですね。

中山 ケーブルですので、金属線であれ光ファイバーであれ、減衰は避けられません。その意味ではアナログ的な変化は避けられないのかもしれません。

麻倉 伝送できる信号としては、8K/60pまでと考えていいですね?

 圧縮なしで伝送できる帯域としては、8K/60p/4:2:0、もしくは8K/30p/4:4:4が最大になります。放送は8K/60p/4:2:0ですから、そこは対応できています。

麻倉 ところでHDMI2.1というと、ダイナミックHDRなどの色々な機能も実装されています。LS3はどの機能にまで対応していると考えればいいのでしょうか。

中山 ケーブルとしては、それらの機能がどうこうということはありません。たとえばHDRは表示・再生機器が対応していれば、48Gbpsの速度内で伝送できます。その意味では、LS3はケーブルとしては各機能に対応済みということになります。

 それ以外でケーブルに依存する機能はeARCくらいですが、こちらもLS3は12mまでは対応しております。

麻倉 今回48Gbps伝送をクリアーするためにもっとも難しかったのはどこだったのでしょう?

中山 再生できる機器が少ないので、検証できないのがたいへんでした。たとえば8Kの測定器が出たとして、それがとっても高価だったとしても、他になければ買うしかない。そこは苦労しました(笑)。

麻倉 8Kテレビも去年モデルは数百万円しましたからね。

中山 しかもみんな大型だから、テストして映ったとしても、次はそれをどこにしまっておくかもたいへんでした。最終的にはテレビメーカーさんのお力も借りて、現在世の中に出ている8Kテレビはすべてテストできたと思います。

4Kからのアップコンバートもひじょうに高品質だった。
シャープの8K液晶テレビ「8T-C60CX1」は、きわめてお買い得な注目機

シャープ 8T-C60CX1 市場想定価格45万円前後(税別)
●画素数:水平7,680×垂直4,320画素
●視野角:上下左右176度
●バックライト:LED(直下型、部分駆動対応)
●接続端子:HDMI入力5系統(入力2:ARC対応、入力6:8K対応)、デジタル音声出力1系統(光)、ヘッドホン出力/アナログ音声出力端子1系統(兼用)、USB3系統(USBハードディスク用、USBメモリー用)、LAN端子1系統、他
●スピーカー:トゥイーター2個、ミッドレンジ2個、サブウーファー2個
●消費電力:約550W(待機時1.0W)
●寸法/質量:W1356×H871×D290mm/約37.5kg(スタンド込み)

 8T-C60CX1は、4月末に発売された2020年シャープ8K液晶テレビのフラッグシップシリーズだ(70インチの8T-C70CX1もあり)。BS8Kチューナーの内蔵は当然として、新開発の「8KPureColorパネル」や、8K画像処理エンジンの「Medalist Z1」を搭載することで、クリアーで自然な8K映像を実現している。

 8K Pure Colorパネルは、緑と赤の光の中から純度の低い波長部分を取り除くことでRGB3原色の純度を高め、結果として色域を同社の4Kテレビ比で約16%拡大するもの。さらに透過率の高いUV2A液晶パネルと直下型LED部分駆動バックライトを組み合わせてクリアーで高コントラストの映像を獲得している。麻倉さんのコメントにある通り、視野角が同社の従来の8Kテレビより広くなっているのも特徴だ。

麻倉 長さは30mが限界なのですか?

中山 そういうことではありません。産業用では同じテクノロジーを使って100mまでラインナップしています。ただ家庭用では30m以上の需要がほぼありませんので、ラインナップを見送りました。どうしてもという場合は、弊社までお問い合わせいただきたいと思います。

麻倉 もうひとつ気になっていたのですが、LS3は外部から電源供給をしなくても大丈夫なのですか?

中山 供給なしでも30mなら大丈夫です。

 100mクラスになると、LS3に限らず制御信号が減衰してしまいますので、外部から電源を供給しないと伝送できなくなってしまいます。

麻倉 これまでの経験では、AVセンターのメーカーによって長いケーブルだと絵が映らなくなってしまうこともあったのですが?

中山 再生機器側の電源供給能力については、規格上はそれほど高い電力を出す必要はありません。

 HDMI規格の供給電力は光ケーブルの登場以前から規定されているのですが、未だに変更されていないのです。ですので、光ケーブル側が規格以上の電力供給を求めた場合に再生機が対応できない可能性はあります。LS3はHDMI規格に則った電力で動作できるように設計していますので、機器側に無理をさせることはありません。

麻倉 ケーブルに外部電源を供給した場合としない場合で、絵や音は違うのでしょうか?

中山 電力を供給してもらった方が確実に安定します。これは間違いありません。

麻倉 ということは、LS3の使いこなしとしては、電源供給はマストですね。

中山 そうですね。供給しなくても動きますので無理にとは申し上げませんが、可能な場合は電力を供給していただいた方がいいでしょう。

麻倉 先日発表されたプレイステーション5が8K出力に対応するという噂もありますし、将来的にさらに進んでnasneのような8Kレコーダー機能が出てきたら、HDMI2.1の需要は格段に伸びるでしょう。そうでなくても、オーディオビジュアルファンにとってHDMI2.1対応ケーブルは8K時代には必須アイテムといって間違いありません。

 またケーブルとして、8Kだけではなく、4K用としても画質改善効果があることはとても重要です。LS3はこれからのHDMI2.1対応ケーブルのスタンダードになるのではないでしょうか。

中山 弊社ではケーブルとして確実に伝送できることを最優先で設計・開発しており、コストを抑えて何とか規格をクリアーしようという発想では作っていません。世界初の製品であり、かつ最後まで最高レベルの品質を保てるよう心がけています。先ほど“スタンダード”といっていただきましたが、今後も基準となる伝送品質を持ったケーブルを作っていきたいと思っています。

次世代フォーマットを狙って作ったケーブルが今の素材もステップアップしてくれる。
LS3の持つ可能性を大いに実感した視聴だった (麻倉怜士)

 今回は60インチ8Kテレビのシャープ8T-C60CX1とエイム電子の光ケーブルLS3を使って、8K/60p信号の伝送を検証しました。業務用のレコーダーからの信号をLS3で8T-C60CX1に入力したのですが、つないだだけであっさり映像が表示され、呆気にとられたほどです。

 8T-C60CX1は蛍光体も新しくなって色再現範囲も広くなっているし、画質的にもよくなっています。表面の偏光膜も改善されていて、視野角も横方向、縦方向とも広がっています。

 また市場想定価格も同社の65インチ4K有機ELテレビ「4T-C65CQ1」よりちょっと高いくらいの値付けで、シャープとしての戦略モデル的な位置づけだと思います。4Kチューナーもダブルで内蔵しているし、これはお買い得です。

 まずはソシオネクストの検証用信号でチェックしました。映像は4K/60p/4:2:0のHLGというフォーマットで、プレーヤーから4本のHDMIケーブルで出力された信号をアダプターでHDMI2.1に変換、15mのLS3ケーブル1本でテレビにつないでいます。

 8T-C60CX1の「映画」モードで視聴しましたが、動きの安定感、階調的な安定感がありました。暗い中にホテルの看板や街路樹のLEDイルミネーションがあって、さらにバックで観覧車がカラフルなライトアップをしているという難しいコンテンツでしたが、8Kらしい細やかな情報性と色の豊かさを持った映像として再現されていました。

 観覧車のネオンサインも綺麗です。細かい色もよくでているし、街頭もしっかり描写されています。LEDの細かい色の描き分けなどのディテイル感と安定感、クリアーさは8Kのコンテンツが持っている情報をストレートに再現しているのだと思います。

 8Kならではの透明感、色の鮮やかさ、階調感、ディテイルなど次元の違う絵ですね。今後の8Kもこのクォリティで伝送できるなら安心です。

 さて、HDMI2.1対応ケーブルとして元々の8K情報をきちんと伝送できるのは当たり前ですが、それを備えた上で、現行の4Kコンテンツにはどんな変化があるかも試してみました。

 再生システムは、UHDブルーレイプレーヤーのパナソニック「DP-UB9000」を8T-C60CX1に直結しています。UHDブルーレイ『世界自然遺産 小笠原〜ボニンブルーの海〜』のチャプター8「南島」は、8Kカメラで撮影した素材を4K UHDブルーレイ化したもので、それを8T-C60CX1に入力してアップコンバートして再生しました。

 LS3でつないだ時、絵の透明感に感動しました。オリジナルの8Kにひじょうに近い質感で、伸びがある映像でした。透明度が高く、細かい部分まで再現されていますが、それが強調されているわけではなく、8Kカメラで撮影した景色がそのまま目の前で再現されているかのようです。

 小笠原の海ってこんなに綺麗なのかと驚きます。微粒子感があって、輪郭を強調しないのにディテイルがあるという8Kらしさが感じ取れます。これはいいですね。遠くまで自然に見えるし、階調感もある。60インチですが、もっと大きい画面で見ても落ち着いて楽しめるでしょう。

 ケーブルで充分な情報を送り、それが8T-C60CX1の細線化処理と相まってリッチな情報が再現できたのだと思います。4Kからのアップコンバートでこれほどのクォリティに驚きました。

 続いて前モデルのLS2に交換してみました。こちらも充分綺麗ですが、ややフラットで薄味美人風、突き抜け感はLS3の方が上でした。ヌケ感、クリアーさ、色の再現性などがふわっとした感じで、抑揚がきいてダイナミックな感じが薄れたように思います。

 もうひとつ海外製の光変換ケーブルも確認しましたが、こちらは明らかに絵づくりをしています。わかりやすくシャキッとさせて、岩肌もごつごつ感を出し、色も載せ気味でパワー感をつけています。人工的でした。

 3種類を観比べた感想は、LS3は8Kコンテンツも、4Kコンテンツも最高のクォリティで楽しめるケーブルであり、将来的にも長く使えて安心だということです。次世代フォーマットを狙って作ったケーブルが今のコンテンツもステップアップしてくれるのだから、ユーザーにとってもたいへん嬉しいことです。

 次にLS3を音声用に使ったらどうなるかも試してみましたが、こちらも映像と同じ印象でした。

 LS2はバランスがよく、雰囲気感もあって優しい音ですが、情報はもうちょっと欲しい。具体的には私がプロデュースした情家みえさんのCD『エトレーヌ』の1曲目「チーク・トゥ・チーク」の歌い出しで、最初の “ヘブン〜” はちょっと苦みをいれて歪んだニュアンスを、二回目では優しく聴こえるように収録しています。

 この部分がLS2ではどちらも優しいニュアンスでしたが、これは制作者の意図からすると綺麗すぎるところもあります。ベースの量感もあるし、ピアノも気持ちいいのですが、聴きやすく綺麗な方向に寄っています。

 ところが、驚いたことにはLS3では苦みまで再現されていたのです。ちょっと歪みがありつつも、全体に透明感があり、音の切れも明瞭です。人工的な演出のまったくない、その場で歌っているような音場が展開されました。解像度の高さも持ちつつ、ナチュラルさもある。

 私のクリエイターズインテンションをここまでしっかり出してくれたことは、作り手として感動しました。LS3は、素材がもともと持っているものをそのままフラットに伝送してくれるということを、絵でも音でも感じました。

 ケーブルによる伝送品質は最終的な絵や音に必ず反映されますから、オーディオビジュアルではとても重要です。LS3はその意味でも、高度に忠実伝送するケーブルだと判断しました。