F1解説者、モータースポーツジャーナリストの川井一仁さんが新居を手に入れたのは約1年前。外観から内装まで、ご自身の意向を反映した素敵な空間を実現している。その中で一番手間取ったのはリビング兼シアタールームで、なんと完成したのは今年5月に入ってからだった。というのも、川井さんと古くからのお友達で、ホームシアターのアドバイザーでもある潮晴男さんからハードウェア以外の部分でもチェックが入ったから(あくまで一因ですが)。ということで、StereoSound ONLINEではその詳細を前後編にわけてお届けします。(編集部)

予想していなかった天井の変化を発見し、一瞬我を忘れたという潮さん。隣で川井さんも困惑気味

 縁は異なものとはよく言ったもので、川井一仁さんとお付き合いをするようになって20年近い歳月が流れた。共通する友人の紹介でワインを飲みながら始まったオーディオ談義とF1のレクチャーから、もうこんなに時間が経ったのかと、感慨もひとしおである。

 F1を初めとするモータースポーツの解説者としてシーズンが開幕すると八面六臂の活躍をする川井さんだが、その合間をぬってホームシアターでの映画鑑賞も忘れない趣味人だけに、今でも会えば、音楽、映画、車のことなど、話題が尽きることはない。

 最近は電気自動車によるカーレース、フォーミュラEもおこなわれているが、ぼくにとってあの競技はどうにもノリが悪い。スピード感だけなら断然電気自動車だが、いかんせん音がしないことに我慢がならないのである。正確にはモーター音とタイヤの軋む音はするが、肝心のエキゾーストノートがない。いずれ化石燃料で動く車はなくなるだろうが、音なくして何の車かなんて言ってるぼくはそのうち過去の人になるんだろうな……。ご本人から聞いたことはないものの、オーディオの好きな川井さんも音については同じことを感じているのだろと、勝手に想像している。

気がつけばもう20年? 趣味人ふたりのおつきあいは長いのです

 共通の友達の紹介で出会ったという川井さんと潮さん。映画やお酒などの共通の趣味で意気投合し、以来20年近いおつきあいなのだとか。その縁で、月刊HiViでも川井さんの初代ホームシアターづくりを紹介させていただきました。それから17年、今度の川井シアターは4K/120インチ&ドルビーアトモスという夢のような進歩を遂げたのです。

月刊HiVI 2003年11月号から2004年6月号まで、不定期ながら3回に渡って連載を展開

2003年11月号より。当時は潮さんが50代、川井さんは40代とのことで、どちらも若い!

 その川井さんにホームシアターを炊きつけたのは僕ではあるが、思いを加速させたのは、他ならぬ彼自身だ。それまでの下地があったからこその進化だが、機種選びに二人で随分と頭を悩ませたことを覚えている(編集部注:その詳細は2003〜2004年の月刊HiViで紹介しています)。

 当時川井さんはマンション住まいだった。リビングには厳重な防音は施されてはいなかったが、結構なボリュウムで映画や音楽ソフトが楽しめる恵まれた環境が、ホームシアター構築を後押しした。もっとも階下への気配りを忘れることはなかったので、騒音騒ぎは一度もなかったが、集合住宅における気兼ねがなかったのかと言えば嘘になる。

 しばらく経ってから引っ越しをしたいという話が出るようになり、念願かなって2018年の暮れ、最適な広さの土地が見つかったことから、同じ目黒区内での移転が決まったのである。家屋の設計は自身のプランを中心に設計士と図面を起こしたようだが、急だったこともあり、僕が現場を拝見したのは、80%程度内装が完成した後だった。3階建ての瀟洒な住宅は、1階が仕事部屋とカーポート、2階がリビングとキッチン、3階が居住スペースという彼の思いが具現化された羨ましい造りである。

施工中の川井邸2Fリビング。通常は52インチ液晶テレビで放送番組を視聴し、UHDブルーレイなどを楽しむ場合はその手前にスクリーンが降りてくる、2ウェイシアター仕様だ。ラックは作り付けの頑丈なもの

リビングルームという環境を考え、AV機器などが極力目に入らないようにしている。左はスクリーンボックスを収納する天井の切り込みで、スピーカーケーブルは右のように壁内通線している

 2階のリビングはシアター兼用の多目的ルームとして拵えたものだが、奥様の意向を汲み、特別な防音や遮光は施さず、出来るだけ自然なトーンに仕上げて、リビングとしての活用を第一に考えた設計がなされている。

 壁面に養生シートが施されたままのリビングを眺めながら、最新ホームシアターシアターに相応しい機材選定のプランを話しているとき、ふと目に入ったのが、天井中央部に設けられた大きな梁である。「あれっ、これどうしたの?」と問うと、「潮さんが推薦したJVCのプロジェクターの収納スペースだよ」との返事。

 これにはいささか面食らった。確かに見えない収納は大切だけど、「これってかなり邪魔、と言うかプロジェクター以外の部分は一体どうなってるの?」とのぼくの突込みに当の川井さんも困惑気味。奥様に「この梁、鬱陶しくないですか」と話すと、「はい」と即答。リビングをすっきりさせたいという川井さんの思いやりを、設計士が大掛かりな梁へと変身させてしまったようなのである。

 もう少し早めに下見に行っとけばよかったかな、と内心では思ったが、後の祭り。さてこの後どんな展開になったのか、乞うご期待!

部屋の天井中央に大きな梁が! 確かにプロジェクターは見えないけれど、せっかくの開放的な空間が台無しに

2020年のホームシアターには120インチ/4K大画面とドルビーアトモスは必須!
潮さんが選んだお勧め機器はコレ

川井邸の主なホームシアターシステム
●プロジェクター:JVC DLA-V7
●スクリーン:キクチSE-120HD/ホワイトマット・アドバンス(120インチ/16:9)
●ディスプレイ:シャープLC-52LV3
●BD/HDDレコーダー:パナソニックDMR-UBZ2020、DMR-BRG2030
●ケーブルテレビチューナー:パナソニックTZ-DCH520
●DVD/LDプレーヤー:パイオニアDVL-919
●CDプレーヤー:フィリップスCDR-670
●AVセンター:デノンAVC-X8500H
●スピーカーシステム:エラックFS207.2(フロント)、CC200.2(センター)、BS203.2(トップ、サラウンド)
●サブウーファー:KEF Kube8b

 川井さんは今回のホームシアターリニューアルに際して、今まで愛用していた機器はできるだけ活用したいと考えたそうだ。その旨を潮さんに伝えて協議した結果、最新ホームシアターで必須のアイテムとして4K大画面とドルビーアトモス再生の2つだけは譲れないということになり、プロジェクターとAVセンターを入れ替えている(リストの赤文字が新規に導入した製品)。なにゆえこのセレクションに落ち着いたのかは、次回潮さんにご説明いただく。(編集部)