カナダのスピーカーメーカーであるパラダイムから、ハイエンドのペルソナシリーズに加えて、ミッドレンジクラスとなるプレミアシリーズが発売された。見た目の美しさや色づけのない澄み切った音で絶賛されたペルソナシリーズを印象強く覚えている人は多いと思うが、今回発表されたプレミアシリーズは、その数多くの技術を継承。最大の特徴であるベリリウム製振動板の採用こそないが、手頃な価格を実現したコストパフォーマンスを訴求するシリーズだ。

 

※スパイク受けは付属しません

SPEAKER SYSTEM
Paradigm

Premier 800F
¥320,000(ペア)+税
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型 ●使用ユニット:165mmコーン型ウーファー×2、165mmコーン型ミッドレンジ、25mmドーム型トゥイーター ●クロスオーバー周波数:700Hz、2.5kHz ●出力音圧レベル:92dB/2.83V/m ●インピーダンス:8Ω ●寸法/質量:W230×H1,053×D350mm/24.2kg

 

Premier 200B
¥150,000(ペア)+税
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型 ●使用ユニット:165mmコーン型ウーファー、25mmドーム型トゥイーター ●クロスオーバー周波数: 2kHz ●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m ●インピーダンス:8Ω ●寸法/質量:W198×H335×D321mm/8.17kg ●備考:専用スタンド J-29 V2は別売でペア¥40,000+税

 

Premier 600C
¥160,000+税
●型式:3ウェイ4スピーカー・パッシブラジエーター型 ●使用ユニット:165mmコーン型ウーファー×2、102mmコーン型ミッドレンジ、25mmドーム型トゥイーター、165mmパッシブラジエーター×2 ●クロスオーバー周波数:700Hz、2.5kHz ●出力音圧レベル:94dB/2.83V/m ●インピーダンス:8Ω ●寸法/質量:W908×H197×D342mm/19.5kg ●備考:専用スタンド J-18C V2は別売で¥40,000+税

●カラリングはいずれのモデルもグロス・ブラック、グロス・ホワイト、エスプレッソ・グレインの3色
●問合せ先:(株)PDN ☎︎045(340)5565
※サブウーファーV12は近日発売予定(価格未定)

 

 

「新興」メーカーと思うことなかれ、実は「メジャー」なパラダイム

 パラダイム社は1982年に設立されたブランドだが、これまではカナダおよび北米市場を中心に販売されていた。現地では幅広いラインナップを持ったメジャーブランドだが、アジアやヨーロッパでは無名に近い存在だったのだ。最近になってようやくグローバル市場に打って出る戦略を選び、日本での発売も決定した経緯がある。

 歴史があるというだけでなく、カナダ国立研究機関(NRC)と提携することで技術力を高めており、ユニットの設計・開発から組み立てまで一貫して自社で行なえる規模を持った数少ないスピーカーメーカーなのだ。

 プレミアシリーズは、トールボーイ型モデル2機種、ブックシェルフ型モデル2機種、そしてセンタースピーカーも2機種揃え、サラウンドシステムまで対応するラインナップとなっている。今回はトールボーイ型の800Fとブックシェルフ型の200B、センタースピーカーの600Cによるサラウンドシステムの音を聴いた。この選択のポイントは、中核となるウーファー/ミッドレンジユニットの口径が165mmで統一されていること。同様に700B、100B、500Cの組合せでは中核ユニットの口径は140mmで揃っている。

 このほか、パラダイムではサブウーファーも幅広くラインナップしており、国内にも新たに3モデルが近日導入される予定。ホームシアターへの対応でも抜かりなしの万全の展開だ。そのうちの2モデルはスマホやパソコンで部屋の音響と低音域の特性を最適化する機能を持つなど、なかなか高機能。発売後、本誌でもじっくりと紹介する記事が掲載されるだろう。今回は正式な導入に先立ってミドルクラスとなるディファイアンスV12を借用することができた。これを組み合わせてプレミアのレビューをしていこう。

 

サブウーファーシリーズ「Defiance」は近日発売

Defiance V12

 試聴に使ったのは、305mmユニットを搭載するバスレフ型サブウーファーDefiance(ディファイアンス)V12。独自技術「ARC」(Anthem Room Correction)による音響補正機能を備えたハイテクモデル。ローパスフィルターのバイパスなど、AV用サブウーファーに必須となる機能も当然に搭載する。価格は未定。
 このほか、兄機のX15(ARC対応、専用マイク付き)、弟機のV8(ARC非対応のシンプルモデル)計3機種が投入される見込みだ。

サブウーファーの基本操作は専用アプリ「Paradigm Subwoofer Control」で行なう。音量調整やモード、補正機能のオン/オフのほか、ローパスフィルターの調整などに対応する

 

音響補正機能「ARC」を有効にするために使うのが「Anthem ARC Mobile」。iPhoneのマイクか、専用マイク(X15には付属。単売も予定)で計測を行ない、最適化を図る仕組みだ。このテストでは「ARC」を使っていない

 

 

 プレミアシリーズの外観を見てみると、ペルソナシリーズと同じ穴あきレンズ「PPA(パーフォレイテッド・フェーズ・アライニング)」を備えていることがわかる。トゥイーターにもパターンの異なる穴あきレンズを備え、トゥイーター周辺にはホーン状の加工がある。そして、ウーファー/ミッドレンジにはART(アクティブ・リッジ・テクノロジー)エッジを採用する。これは、振動板に直接オーバーモールドされたエッジで、ロングストローク化を果たしながらも音圧の向上と歪みの半減という相反する性能を実現するという技術。振動板素材自体はごく一般的なものだが、同社の高い技術力がしっかりと継承されている部分だ。

 エンクロージャーは一見するとオーソドックスな直方体だが、天板は緩いカーブを描き、側板は後方を絞った形状としている。内部定在波の低減や不要な共振を抑えるための設計と思われるが、手頃な価格のモデルとしては、しっかりとしたつくりになっている。

 試聴したモデルはエスプレッソ・グレインという黒に近い色調の木目で、ブラックアッシュのようだが近づくと木目であることがわかる。ホームシアター向きの配色だし、簡素なブラックよりも見た目の質感に優れる。このほか、グロス・ブラックとグロス・ホワイトもあるが、色が変わるのは側板だけで、バッフル面と天面はどれも共通の黒色だ。

 

惚れ惚れするような透明感。この音は絶品と言える

 最初に軽く、800Fと200Bのそれぞれの音をデノンのプリメインアンプPMA-SX1リミテッドを使ったステレオ再生で聴いてみたが、ペルソナシリーズで感激した色付けのない鮮明な音を楽しめたことをまずお伝えしたい。価格の差はかなり大きいが、惚れ惚れするような透明感のある音のエッセンスはそのままなのだ。

 YMOの『テクノドン(リマスタード2020)』のハイレゾ版(96kHz/24ビット/FLAC)には、シンセサイザーをはじめとした音が巧みなスタジオワークで収録されている。スピーカーの外側まで音が定位するような広々とした音場の曲が多いが、個々の音が宙に浮かんでいるような、音楽に包まれているような音場を実に鮮明に描いた。音場の広がりと奥行はとても大きく深い。音として無色透明な忠実感があるだけでなく、位相特性や指向性までよく整えられた音だと感じた。

 200Bでも低音の伸びは充分。しかも小型スピーカーにありがちな低音の不自然な膨らみはなく、ベースの音階もしっかり聴き分けられる正確さと反応のよさがある。これが800Fとなると、最低音域はさらに伸び、シンセベースの強烈な低音も力強く鳴らす。しかもパワフルでも歪んだ感じがなく、軽やかと言っていいほどあっけなく凄い低音が出てくる。

 モニター的な性格の音でありながら、鮮やかな色彩感と濁りのないきめの細かな音は表情も豊かで、価格を考えたら絶品と言えるほどの出来。

 気をよくしたところで、5.1chでのUHDブルーレイ再生に移った。システムはAVセンターがデノンのAVC-X8500H、プレーヤーはパナソニックのDP-UB9000、プロジェクターはJVCのDLA-V9RというHiVi視聴室のリファレンス機器を使っている。

 

振動板の素材は関係ない。技術力の高さを確信した!

 まずは、4Kスキャンで蘇った映像が魅力の『AKIRA 4Kリマスターセット』を観た。このソフトの音質のよさには驚いたものだが、いろいろなシステムで聴いていると、スピーカーの実力で音場感や定位感の違いが如実に現れる怖いソフトだとも思っている。プレミアシリーズによる5.1ch再生では、実体感のある音と定位のよさは満点と言える出来。冒頭の大太鼓の連打での低音の伸びと部屋全体を震わせるような響きも素晴らしい。ここで使ったサブウーファーV12の実力もかなりのものと思われる。

 サラウンド空間のシームレスな再現は見事なもの。センタースピーカーとフロントL/Rスピーカーでは設置の都合上トゥイーターの高さに違いがあったのだが、それによる違和感はほとんどない。センタースピーカーの600Cには別売の専用スタンドJ18C V2を使っているが、斜め上を向く配置も絶妙だし、なにより位相管理の正確さがこのつながりのよさを生んでいると思う。同様に800Fと200Bによる前後の音の繋がりも低音の伸びによる差異を別にすればほぼ不満なし。

 サラウンド空間は広く、それでいて緻密。実体感豊かなダイアローグは力強く、そして瑞々しくキャラクターに命を吹き込む。正確で鮮明、しかも清潔な音場再現だ。強いていえば、派手な爆発音やバイクの走行音など、もともとが歪んだ音や荒れた音を少しだけきれいな音にしてしまう傾向もあるが、迫力が不足するとか、パワフルさが薄れるといったことにはならない。ここぞという時の音のエネルギー感や力強さは、一聴して感じた可憐な美少女のような音の印象からは想像できないレベルだ。

 続いては、レース作品が大好きな人ならば必見の作品『フォードvsフェラーリ』。クライマックスのル・マン24時間レースのほか、デイトナ24時間レースなどの場面を観ると、V8エンジンの荒々しい鼓動を身体が震えるような迫力で鳴らした。車が目の前を通り過ぎる場面では、軽い音が移動するのではなく、重低音の塊が自由自在に動き回るような強烈な音場を味わえる。重低音派は前後とも800Fで揃えるのがおすすめだ。ル・マンのストレートでトップを競うフォードとフェラーリがサイド・バイ・サイドで走る場面では、2つのエンジン音のデュエットを美しく響かせる。

 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』では、数々のバトルシーンの迫力も文句はないし、音楽を壮大かつ雄壮に鳴らす。そして、クライマックスで大勢のジェダイが主人公のレイに声を掛ける場面では、誰の声かがはっきりわかり、その場所まで正確に言い当てられるほどの忠実な描写をしてくれた。スター・ウォーズファンなら感極まるような体験だ。

 ペルソナシリーズと聴き比べれば当然価格差なりの違いもあるプレミアシリーズだが、その能力は間違いなく高い。重低音派には800F4台をおすすめしたが、200Bを4台とするシステムもポテンシャルは高いだろう。家庭の一般的な音量では大きな差を感じないと思うし、多少スケール感は小さくなるが、根本的な再生能力では負けないはず。精緻な音の再現や定位のよさを求める人には最適だ。

 ベリリウム振動板を搭載せず、お手頃な価格でここまでの実力を発揮したことから、パラダイムの技術力の高さは間違いなしと確信できる取材だった。プレミアシリーズは、今ホームシアターを構築するならば、一番の有力候補だ。

 

設計から製造まで、自社でまかなえるのがパラダイムの強み

 パラダイムのスピーカーづくりで特筆すべきは、「Crafted in Canada」つまり自社工場での製造を行なえること。フラッグシップモデルであるPersona(ペルソナ)シリーズはもちろん、Premier(プレミア)シリーズもカナダの本社工場で設計、製造されている。
 自社設計と自社製造によって生み出されているのがPPA(Perforated Phase-Aligning=パーフォレイテッド・フェーズ・アライニング)レンズ・テクノロジーや、ART(Active Ridge Technology=アクティブ・リッジ・テクノロジー)エッジといった特許取得済みの独自技術というわけだ。

PPA (Perforated Phase-Aligning)

ART (Active Ridge Technology)