映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第40回をお送りします。今回取り上げるのは、由緒正しき(?)ゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』。ハリウッドの名優たちが繰り広げるコメディタッチに仕上げられた一作。歩き回るゾンビにも注目でしょう。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
【PICK UP MOVIE】
『デッド・ドント・ダイ』
6月5日(金)より全国公開
うわ。すごいメンツだな、これ。『ゴーストバスターズ』のビル・マーレイ、『マリッジ・ストーリー』のアダム・ドライヴァー、ポン・ジュノ監督のSF『スノーピアサー』で大怪演を披露したティルダ・スウィントン。ほかにもイギー・ポップや『バートン・フィンク』のスティーヴ・ブシェミ、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』のロージー・ペレス、ヒップホップ・グループ、ウータン・クランを率いるRZAやトム・ウェイツなど。
ジム・ジャームッシュ作品の常連でもある個性派俳優たちが勢揃い。小さな田舎町で「8時だョ!全員集合」状態になっているゾンビ映画。
オフビート映画の才人、ジャームッシュ監督が挑む初のゾンビ映画だからどんなヒネリが加えられているのかと思ったら、これがオールド・スタイルの由緒正しきゾンビ映画。ジャンルの先人、ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と『ゾンビ』の定型を踏まえた筋書きで、蘇った連中もヨロヨロするだけで走らない。これがいいんよ。イキのいいゾンビはゾンビじゃない。ゾンビはちゃんと死んでいないと駄目!
思った以上に正統だけど、生者・死者双方を演じるのが上記の脇道俳優たちなので、ふつうに進んでもニヤニヤ笑いがこみ上げてくる。墓場で見つけた穴ぼこに落ちたり、森の中で世捨て人になって世界の終わりを眺めていたり。サムライ・ソードを握ってゾンビ討伐に乗り出すやつ、アメリカをもういちど白人の国に! のスローガンが刺繍された野球帽をかぶる、トランプ大統領の集会から帰ってきたようなおっさんもいる。
ジョニー・デップ主演の『デッドマン』出演や、ライヴ・ドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』でジャームッシュ監督と仲のいいイギー・ポップが出し惜しみなしの大快演! さて、どんな役柄でしょう? ファンはこれだけでも観る価値あり。
テーマ曲歌唱は、Netflixで4枚目のアルバム「SOUND&FURY」と並走する同名のSFジャパニメーションを配信して話題を呼んだスタージル・シンプソン。監督直々の指名。今回はスティールギターとフィドル(ヴァイオリン)がお供。本業のいなたいカントリー・ソングだけれど、ちっぽけな町での地球最後の日には似合っている。
コロナ禍でまだまだ気の抜けない毎日ですが、ジャームッシュ印のこんなコメディはいかがでしょう? アダム・ドライヴァー扮するバスの運ちゃんがすごく良かった前作『パターソン』につづいて、監督が組むバンド・スクワールが劇伴を手がけています。
『デッド・ドント・ダイ』
6月5日(金)より全国ロードショー
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
原題:THE DEAD DON'T DIE
配給:ロングライド
2019年/スウェーデン、アメリカ/1時間44分/ビスタサイズ
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