フィル・ジョーンズ氏によるハイレゾ対応アクティヴスピーカー、A80が登場した。彼の名前とブランドで、ピンとくる本誌読者も多いのではないだろうか? そう、伝説的なアコースティックエナジーAE1の設計者にしてステレオサウンドの表紙を飾った巨大なホーン型スピーカー、Air Pulse 3.1を造りあげた、サウンドデザイナーのフィル・ジョーンズ氏だ。ベース奏者としても知られる彼は、PJB(フィル・ジョーンズ・ベース)というベースアンプ群を展開して楽器業界でも成功を収めている。もちろん、オーディオの世界を忘れたわけではなく、自身が得意とする小型モニタースピーカー中心に開発を続けてきた。
ここで紹介するA80は、デスクトップ用のコンパクトなアクティヴ機。エアパルスのブランドでユキムが取り扱う新しいスピーカーシステムだ。オープン価格ということだが、実勢はペア7万7千円(税別)くらいとリーズナブル。ホーンロードをかけたリボン型トゥイーターと11.5センチ口径のメタルコーン・ウーファーによる2ウェイ構成である。
エアパルス
A80
オープン価格(実勢¥77,000前後・ペア)
● 型式:D/Aコンバーター/パワーアンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
● 使用ユニット:ウーファー・11.5cmコーン型、トゥイーター・リボン型
● パワーアンプ出力:ウーファー部・40W+40W、トゥイーター部・10W+10W
● デジタル入力:光1系統(TOS)、USB 1系統(Bタイプ・~192kHz)
● アナログ入力:アンバランス2系統(RCA)
● サブウーファー出力:アンバランス1系統(RCA)
● 寸法/重量:W140×H255×D240㎜/4.8kg
● 備考:Bluetooth対応。ウレタン製ベース付属
● 問合せ先:(株)ユキム ☎️ 03(5743)6202
あのAE1でデビューした伝説的スピーカー設計者がオーディオ界に再登場
ずいぶん前のことだが、私はアコースティックエナジーのAE1を自宅のリファレンスとして使っていた時期がある。当時はアルミニウム振動板のウーファーがまだ珍しく、同じくアルミニウム製のドームトゥイーターと組み合せたAE1の音は衝撃的だった。ハイスピードで先鋭的なAE1の音は、情報量も豊かで締まった音を聴かせてくれたのだ。A80のウーファーは、そのルーツがAE1であることを暗示している。
彼のオーディオ人生は、現在でいうところのプロオーディオから始まっている。映画館や劇場用スピーカーで有名だった英国ヴァイタボックスに就職したのだ。そこで習得したのは、コンプレッションドライバーや能率を稼ぐことの重要性。AE1に結びつくアイデアも、このころに確立してきたようである。そして、スピーカーデザイナーとして造りあげたAE1とツイン・ウーファーのAE2が世界的に大ヒット。AE1は小型スピーカーシステムの概念を変えてしまうほどの傑作だった。
アコースティックエナジーを離れたフィル・ジョーンズ氏は、米国に渡ってボストン・アコースティック社のサウンドデザイナーに就任している。そこではAE1のコンセプトを発展させた、リンフィールド・シリーズを開発。その後、プラチナム・オーディオを設立した彼は、小型機を中心にプロデュースを続けた。そして、蓄積してきたスピーカー設計のノウハウを結集することで、伝説的なオールホーン型の超弩級機エアーパルス3.1を製作。プロオーディオの経験を生かした高能率コンプレッションドライバーを搭載するなど、エアーパルス3.1は多くのファクターで画期的なスピーカーシステムだった。
フィル・ジョーンズ氏はそれからAAD(アメリカン・アコースティック・デヴェロップメント)のブランドでスピーカーを開発しながら、エレクトリックベース奏者として理想のベース・サウンドを追い求めたPJBを立ち上げたのである。その特徴的なコンセプトは、パワフルな小口径ドライバーの採用。反応に優れた高剛性ユニットを使う手法は、AE1から貫いているコダワリなのだろう。
右チャンネルのリアパネルには、各種入出力端子、電源スイッチに加え、音量調整ツマミと低域/高域のトーンコントローラー(±3dB)を装備する。左チャンネルへの信号伝送は、右下の5ピン端子に接続する専用ケーブルで行なう。
付属するウレタン製ベースを下に敷いた状態。ほどよい傾斜角度となるので、ニアフィールドでのデスクトップ使用時には好適だ。
タイトでリズミカルなグルーヴ感は、ジョーンズ氏らしい
エアパルスA80は、ホーンロードを与えたリボン型ドライバーが浸透力に優れたシャープな高音域を奏でる。そして、11.5センチ口径のアルミニウム振動板のウーファーが明瞭な低音域を担当。エンクロージュアはコンパクト機としては異例といえる18ミリ厚のMDF製によるリジッド志向。外装フィニッシュも美しい仕上がりだ。
A80はアクティヴ型なのでパワーアンプを内蔵するわけだが、ここではTI製のフルデジタルアンプICを左右チャンネル合計で2基使っている。トゥイーターとウーファーは、強力なブリッジ接続動作で駆動されているのだ。しかも、内部配線材にはハイエンドオーディオで有名なトランスペアレント製を採用するなど、音質面の配慮も忘れていない。
入力環境も豊富だ。アナログ入力(RCA端子)は2系統あり、光デジタル入力も装備。USB入力は192kHzサンプリングまで対応する。ブルートゥースはAPT−Xもサポートしているクァルコム製チップを採用しているという。±3dBのトーンコントロール(高域/低域)も装備しており、背面で操作できる。サブウーファー出力用のRCA端子も備えているのは親切といえよう。
本誌試聴室でA80の音を聴いてみたが、ニアフィールドでは想像以上にリボントゥイーターの音ヌケの良さが体感できる。ホーン型なので高音域に勢いが感じられるし、メタルコーンのウーファーともスムーズに音がつながっている。意外なほど便利だったのは、付属しているスラント設置用の柔らかいウレタンベース。パワフルな低音の振動が不用意にデスク面に伝わるのを防いでくれるし、スピーカーがちょうど耳の位置を向いてくれるので、音の定位感も好ましい。
エアパルスA80は、メリハリの効いたワイドレンジな音を魅力にしている。タイトでリズミカルなグルーヴ感は、フィル・ジョーンズ氏らしい仕上がりといえよう。ピュアオーディオの用途としても注目していただきたい新製品だ。