オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。

以下の記事はHiVi2012年1月号に掲載されています

AVワールドのあらゆる12㎝コンテンツを一台で存分に楽しめる頼もしい製品

BD/HDDレコーダーに押され気味のブルーレイの世界に、ディスク文化を牽引してきたパイオニアが送り出すBD “プレーヤー” の新製品である。ユニバーサルメディアに対応するこのモデルは、BDのほか、DVD、CDそしてSACDとDVDオーディオの再生を可能にするほか、これまでの設計ノウハウと技術資産を活かし、映像、音声の再現力をクラス随一にまで高めている。パッケージソフト再生が中心となるユーザーにとっては、チェックに値する要注目モデルだ。

 BDプレーヤーやBDレコーダーを使っていて一番気になるのは、その使い勝手だ。もちろん充分な画質、音質が備わっていての話だが、映画BDの場合、本編に辿りつくまでの時間はもう少し何とかならないものか、と思うのは私だけではないだろう。BDP-LX55はアクセスの速さも改善されている点をまず評価したい。中堅機という範疇に甘えることなく、そうした部分にまで目配せする……パイオニアのエンジニアの気構えがよく現れていると言ってもいいだろう。

 筺体はコンパクトにまとめられているが、剛性に優れたシャーシを採用し、メカ部分をリジッドに支えることで不要な共振を排除しているほか、アナログ音声出力用に192kHz/32ビットのD/Aコンバーターを採用した。またHDMI出力に音声専用の端子を用意しているし、映像信号処理回路にはフラッグシップ機にも導入実績のあるマーベル社製の高画質プロセッサーQDEOを用いて、映像のクォリティにこだわっていることもファンには朗報だろう。

 最初にCDを使った2chのアナログ音声から試聴開始。ソフトはSHANTIの『サニー・アンド・ブルー』を使った。アナログ2chの出力は、すっきりとした感覚で彼女の歌声をよく捉えるし、中低域がこもらないので歌に込められた情感をていねいに描き出す。

 次に光デジタル音声出力を聴いてみると、細身な印象ながら、全体にシャキッとした感じで声が前に出てくる。同軸出力は装備していないので、続いてHDMI出力での音を確認した。表現力はいくぶんスリムですっきりとしているが、粒が細かく音場も豊かに再現する。中堅機のHDMI出力としてはなかなかのレベルにあるように思った。

 また、このモデルにはパイオニアが推進する、HDMI信号伝送時に発生するジッターを低減するためのPQLSという回路が組み込まれている。オン/オフして、その違いをチェックしてみた。オンにするといくぶん高域にキャラクターは残るものの、鮮烈なサウンドに変身。さらにピュアオーディオ・モードを選択するとタイトでシャープ、引き締ったサウンドを再現する。どちらがいいと言うのではなく、ここは好みで使い分けたい。

 次にSACDソフトをHDMIピュアオーディオ・モード+PQLSオンで試聴する。イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』では、クリアーで抜けるようなすっきりしたサウンドを聴くことが出来た。ドン・ヘンリーのヴォーカルも明晰で表情も豊かである。DVDオーディオはビートルズの『LOVE』を聴いてみたが、音が細かくよく拡がる。マルチチャンネル再生ではHDMI接続が必須となるが、2chで再生する場合、D/Aコンバーターの能力に鑑みるとアナログ出力での再生が一番のお薦めである。

 DVDは、『プレイ・ザ・ブルース』を視聴したが、1080p変換で出力された映像は艶やかでなかなかに綺麗だ。480p出力に切り替えると、甘くふんわりした再現性になる。このモデルではDVDの解像度も1080p出力を選んだほうがよさそうだ。

HDMI2系統装備の効果は、間違いなく現れている

 そしていよいよ映画BDソフトの再生だが、その前にこのモデルに装備されているHDMI出力に関して触れておこう。出力は2系統用意され、①シングル、②セパレート、③ピュアオーディオの3つのモードに分かれるが、2系統ともAV信号を出力するモードはなく、あくまでオーディオ信号のための専用出力がプラスされていると考えたほうがよさそうだ。

 したがってシングルでは一方のみの出力となり、セパレートは絵と音を分離、ピュアオーディオは映像信号に黒味を乗せてオーディオ専用とするモードである。BDの視聴では、①シングル出力に比べ②セパレート出力の方が絶対的に有利だったので、以後の視聴記はすべて②セパレート出力によるものである。

 最初に、サメに片腕を食いちぎられた少女がサーフィン大会で復活を果たすという実話を元に製作した『ソウル・サーファー』から日中のハワイの抜けるような青空と波頭の白さが際立つch(チャプター)2を視聴。ハイライトがしっかりと伸びるし、色ののりも充分なのでサーフボードや水着の色彩も鮮やかに描き出す。サウンドはキレがよく比較的落ち着きのあるダイアローグを再現した。

 次に『ツーリスト』からch6のエリーズとフランクが川辺のレストランで食事をするシーンを観る。暗部の階調性が重要な鍵を握る場面だが、S/Nが高いこともあって好印象。解像感はそれほど欲張ってはいないが、色味はここでもやや濃い口に描き出す印象だった。サウンドは背景に付けられた細やかな効果音までをていねいに聴かせてくれた。

 音楽BDはワシントンDCのリバティ・オブ・コングレスで行なわれた、ポール・サイモン&フレンズのライヴと、昨年の12月にノルウェイの首都オスロのスペクトラム・アリーナにおけるa-haのファイナルコンサートを視聴した。

 ポール・サイモン&フレンズは、明るさがあるもののやや優しい語り口の映像ながら、サウンドは魅力的でヴォーカルをていねいに捉えて見せる。

 最後にUSBとDLNAによるネットワークオーディオの音源を聴いてみた。USBは96kHz/24ビットの音源らしいレンジ感の高いサウンドを再現する。またネットワークオーディオでは心に響く豊かさを感じ取ることが出来た。

 オーディオ・ビジュアルのプログラムを一台に集約したいと願うユーザーにとってはなかなかに頼もしい新製品である。

UNIVERSAL BD PLAYER
PIONEER BDP-LX55 ¥94,000 ※価格は発売当時のもの

●寸法/質量:W435×H93×D252㎜/3.5㎏