映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第39回をお送りします。今回取り上げるのは、N・ポートマンが渾身の芝居を見せる『ポップスター』。栄光からの挫折…。その出口を求めるかのような鬼気迫るステージを再現。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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『ポップスター』
6月5日(金)より、全国順次ロードショー

 その昔は人気作『レオン』の、膝を抱えた孤独な少女。そして『スター・ウォーズ』エピソード1~3のアミダラ女王。母親やライバル、演出家からのプレッシャーで壊れてゆくバレエ・ダンサーを演じた心理スリラー『ブラック・スワン』ではアカデミー主演女優賞に輝いた。ナタリー・ポートマン主演の歌姫ショウビジネス映画!

 送られてきた脚本に興味を持ち、出演を快諾。彼女が挑むのだから、まあ、ふつうに華やかな作品ではない。ミドルスクール(中学校)時代に校内で強烈な体験をして、それが耳鳴りのようにつづいている女の物語。

 彼女セレステはその経験をバネにしてポップ・ミュージック界の新星になるが、30代を迎えるころにはアルコールとドラッグに溺れ周囲と衝突をくり返している。トンネルの出口、未来が見えず苛立つ女。そんな彼女が人生のすべてを賭けたステージの幕が上がる――。

 ポートマンは映画の終盤で、オーストラリア出身の歌手シーアが書き下ろした新曲5つをメドレーのように歌い、激しく踊る。シーアの代表曲「シャンデリア」のPVはYouTubeで22億回再生を記録したバケモノ・ナンバー。恋人の事故死で酒や麻薬に逃げ込んだ過去を告白し、人前で顔を出したくないとブロンドの巨大ウィッグをかぶっていた彼女は、この『ポップスター』の母親のような存在だ。ポートマンと一緒に映画の製作総指揮を担当。グラマラスでトゲトゲがついた、いかにもシーアな楽曲がライヴ・シーンに映えてすばらしい。

 もうひとり、前半部で少女時代のセレステを演じる今年18歳になる新人女優ラフィー・キャシディに注目。ヨルゴス・ランティモス監督の賛否ぶつかるヘンテコ難解映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』で、一家の長女を演じていた子だ。

 この子が後半にはセレステ(ポートマン)の娘役として、ひとり二役で登場。つまり出ずっぱり。芯が強いが幸は薄い少女という顔立ちなので、一昔前ならダリオ・アルジェントあたりが目をつけるはず。ホラー映画でさらに頭角を現しそう。誰かこの子をイヂめてくれー!

 演出はこれが長篇2作目のブラディ・コーベット。俳優出身で、セレブの邸宅に侵入して胸糞悪い騒ぎを起こすサスペンス『ファニーゲームU.S.A.』で犯人の片割れを演じていた。

 オープニングからデザイン・センスを爆発させてこれは、と思わせる。こういう仕掛けは見たことがなかったな。ポートマンもシーアもこの冒険心を買ったのだろう。

『ポップスター』

6月5日(金)より、全国順次ロードショー
監督:ブラディ・コーベット
原題:VOX LUX
配給:ギャガ
2018年/アメリカ/1時間55分/シネマスコープ

Motion Picture (C)2018 Vox Lux Film Holdings, LLC. All Rights Reserved

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