モノーラル用フォノカートリッジには2種類がある。ひとつはモノーラル装置で聴く1回路出力の製品だ。現行機ではデノンDL102がそれにあたる。もうひとつは、ステレオ装置で再生する2回路の独立出力を備えた製品。ここで紹介するオルトフォンのMC A Monoは後者の新製品である。
情報量の豊かさが印象的な、新鮮で現代的な音を聴かせる製品だ。無垢ダイア針は独自の「レプリカント100」。標準的な丸針とは対照的な、攻めている設計といえよう。カンチレバー素材はボロンで、配線材は6N高純度銅線に金メッキを施したオーキュラム(Aucur-um)である。筐体は精密な3D金属プリンターでチタニウム粉末から成型(SLM製法)しており、製造完了になった同社A95をモノーラル仕様にアレンジした内容ということができる。
試聴では新しい昇圧トランスのST-70を併用した。スウェーデンのルンダール社に特注した専用ユニットを左右独立で内蔵したもので、基板上のジャンパー切替えで昇圧比をオルトフォン推奨の30㏈か一般的な24㏈かを選択できる。
本誌試聴室で聴いた音は、奥行きを感じさせる明確な音像構築が素晴らしかった。持参した「ニーナ・シモン」と「キース・ジャレット」のモノーラル盤から、これまでに聴いたことのない音情報が得られたのは大きな収穫。針先形状の効果だと思うが、力感を失うことなく先鋭的な音を聴かせてくれたのだ。
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