オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。

以下の記事はHiVi2010年12月号に掲載されています

PMCコンシューマーモデル10周年。創業者自らのスペシャル・チューン

 ユニットの選定とチューニングに秀でた製品づくりで、ヒット作を送り続ける英国のPMCが、コンシューマー製品の10周年を記念したスペシャル・モデルをリリースする。

 これらのモデルの元となった、TB2は発売当時、きりっとした音の表現力を持つスピーカーとして、ホームユースだけでなくポストプロダクション用としても注目を集めた。FB1はTB2のエンクロージャーを延伸し、内容積を増やしたフロアスタンディング型の製品だ。

 今回発売されるTB2iシグネチャー(以下TB2iS)とFB1iシグネチャー(以下FB1iS)には、ともにノルウェーのシアーズ社との共同開発による170mm口径のウーファーと、ボイスコイルに磁性流体を封入し冷却効率を高めた27mm口径のソフトドーム型トゥイーターが採用されている。

 エンクロージャーにはPMC独自のトランスミッションラインと呼ぶバックロードホーンの変形型を採用。いずれも吸音素材や内部構造を見直し、TB2iSでは1.5m、FB1iSでは3mの音道を持つATL=アドバンスド・トランスミッションラインへと進化していることも特徴だ。

 試聴はFB1iSから行なった。ヒラリー・コールのアルバム、『魅せられし心』をかけると、比較的すっきりとしたヴォーカルを聴かせ、ピアノの音色ははっきりと、ペダルの音もなかなかにリアルに再現する。同社の初期モデルではいくぶん中高域にキャラクターがあったが、このモデルではそうした感じは見当たらない。定位もしっかりしているし、全体に癖がなくスムーズな印象である。

 スタジオライヴのCD『レジェンズ・オブ・ジャズ』も声の表情が豊かで、バランスのよいサウンドに思わず聴き入ってしまう。クラシックソフトでもコントラバスの表現に曖昧さがなくアンサンブルが心地よい。ワイドレンジではないが、つぼを押さえた音づくりにPMCの創設者でありエンジニアでもあるピーター・トーマスが自ら最終チューニングを施したという製品資料の文言に納得した。

 BDソフトを2チャンネルで再生してみた。映画タイトルではSEが優しく感じられることもあったがダイアローグの描写は満足のゆくものだと思う。

 TB2iSは、FB1iSと比較すれば低域の再現能力は薄まるが、こちらも初期モデルよりバランスのとれたサウンドを聴かせ、FB1iSより空間の表現力に優れている点に独得の魅力を感じる。いずれもスタンダード・モデルと同じ価格設定ということを考えれば、記念モデルという以上に価値のある製品である。

スピーカーシステム
PMC FB1iSignature ¥477,750(ぺア) ※価格は発売当時のもの。以下同

●2ウェイ2スピーカー・トランスミッションライン型
●使用ユニット:170㎜コーン型ウーファー、27㎜ドーム型トゥイーター
●クロスオーバー周波数:2k㎐
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●寸法/質量:W200×H1000×D300㎜/18㎏

FB1iSの端子部(左)とTB2iS(右)

TB2iSignature ¥257,250(ぺア)
●2ウェイ2スピーカー・トランスミッションライン型
●使用ユニット:170㎜コーン型ウーファー、27㎜ドーム型トゥイーター
●クロスオーバー周波数:2k㎐
●出力音圧レベル:90dB/2.83V/m
●寸法/質量:W200×H400×D300/8.5㎏