オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。

以下の記事はHiVi2010年12月号に掲載されています

成熟したダイレクトエナジーHDアンプ。
確立された独自の個性を朗らかに主張する

 常識を覆す物量を投入し、デジタルアンプにアナログ的表現力をもたらしたSC-LX90で投入されたダイレクトエナジーHDアンプ。その基本はICEpowerモジュールであり、LX90以来、モジュール自体もその特徴であるアナログ帰還回路部などに改良が加えられてきたが、パイオニア側の使いこなしが進んできたことは言うまでもない。

 第4世代となったダイレクトエナジーHDアンプは、清楚で細やかな表現力とデジタルアンプらしい腰の据った低域の両方を備えているように感じられる。

 また、昨年の場合LX72は上位モデルであるLX82の廉価版然とした位置付けだったが、今年は違う。基本構成を同じくしつつも、ネットワークオーディオ再生機能などを削り、奥行感と細やかな表情を重視した音づくりのLX83に対し、LX73はパワフルで明瞭・明快なサウンドを志向している。

 その一方でiOS端末用アプリを介してのリモート操作などの最新機能は本機でも利用できる。もちろん、HDMI1.4にも対応しており、3D映像の扱いやARCの活用も可能だ。

 ソフィー・ミルマンのCD『Take Love Easy』を聴けばその違いは明確で、しっとりと鳴るLX83に対し、LX73は前へと音が出てエネルギッシュ。その分、やや荒っぽさを感じさせるものの、そこは善し悪しよりも好みの世界だろう。

 入力方法を比較検証してみると、HDMI入力(『HDMI1』の音質がもっとも良好だった)とアナログ入力が優秀で、しかも音の質感が揃っている。SPDIFでは、やや音像が太書きになるものの、やはり音調には統一感が得られ、明確な意図をもって、ていねいに音づくりが行なわれていることが感じ取れた。

 特にミッドバスの切れ味のよさは、ガツンとダイレクトに飛び込んでくるようなスピード感溢れる音が好きな読者にはたまらないはずだ。だからといって細部の描写が乱雑というわけではない。それは映画再生時に如実に感じられるだろう。

 BD『ブレイブハート』中、森の中で主人公ウォレスが恋人と密会するシーンでは、静まりかえった空気感を見事に描いてみせ、別のチャプターでは大群がぶつかり合う迫力にも力負けをしない。

 本機は、LX73という個性を評価し、ひとつのリファレンスとしたい中核モデル。同社のBDプレーヤーBDP-LX54と組み合せた際の、PQLSによるジッターレス音声再生も、本機を選ぶ上での重要なポイントであることをお忘れ無く。

AVセンター
PIONEER SC-LX73 ¥200,000 ※価格は発売当時のもの

●定格出力:140W×7
●HDMI入力6系統、HDMI出力2系統、色差コンポーネント入力3系統(3RCA)、色差コンポーネント出力1系統(3RCA)、AV入力4系統、AV出力1系統、デジタル音声入力5系統(同軸×2、光×3)、LAN系統、7.1chアナログ音声入力1系統、7.1chプリアウト1系統、他
●寸法/質量:W420×H200×D460㎜/18.5㎏●消費電力:330W