4月24日に発売となる『AKIRA 4Kリマスターセット』。オリジナルのマスターポジから4Kスキャンで蘇った映像に加え、音響も新たにリミックスした192kHz/24bit・5.1ch(ドルビーTrue HD)となる。既発のBD版も、スペック上では同じ192kHz/24bit・5.1ch(ドルビーTrue HD)だが、IMAX上映で聴いたその音響は、BD版よりもさらに進化したものだと感じた。そこでその秘密に迫るべく、作品の音楽を担当し、音響監修も行なっている芸能山城組の山城祥二氏に話を聞いた。取材は新型コロナウイルスの影響に配慮し、対面してのインタビューではなく、メールによる質問のやりとりをインタビュー風にまとめている。

脳の働きを活性化し、音質の向上や快感を高める“ハイパーソニック・エフェクト”

 山城祥二氏は、音楽家であると同時に、科学者としての顔も持つ。その研究のひとつが“ハイパーソニック・エフェクト”だ。人間の耳の可聴帯域を超える20kHz以上の超高周波の音が脳や身体に与える影響などの研究を行ない、これに関する数々の論文も発表している。

 かいつまんで紹介すれば、耳に聞こえない超高周波を豊富に含んだ音は、脳の働きを活性化して音楽を聴くことによる快感を高め、音質的にも向上したと感じる現象を科学的に検証した。それは、心身の健康に大きく関わる自立神経系・内分泌系・免疫系、そして脳の報酬系と呼ばれる器官が活性化したことによる効果だという。

 あまり大雑把に言い切ってしまうと、オカルト的な健康法か何かのように感じられるかもしれないが、よく言われる「音楽を聴くと心と身体のリラクゼーションに効果がある」ということを科学的に裏付けるものと考えていい。

 そんな“ハイパーソニック・エフェクト”を音楽の分野で応用したのが『AKIRA』の音楽だ。サウンドトラックである『交響組曲AKIRA』は、DSD11.2MHz音声のハイレゾ版が制作されており、BD版も192kHz/24bit・5.1chで収録されている。これは“ハイパーソニック・エフェクト”の効果を得るために欠かせない100kHzに及ぶ超高周波成分まで記録するためだ。BD版の音声の段階では、音楽をはじめとした映画の音に、密林などで収録した自然の音の超高周波成分だけを抽出し、実際の音に相関させる形で付加するといった手法を行なっている。

 BD版『AKIRA』の発売当時も、音質の良さで大きな話題となったことを覚えている人も多いはず。今回のUHD BD版ではスペックこそ同じ192kHz/24bit・5.1chのドルビーTrue HDだが、改めて音声のリマスターを全面的に行ない、“ハイパーソニック・エフェクト”についても新たな手法を採用したという。

今回の『AKIRA』の音声のリマスターはどのように行われたのか?

――AKIRAの音響では、密林などで収録した音の超高周波成分を、映画の音に相関する形で付加しているとのことですが、これは音楽だけなく、効果音、セリフなども同様でしょうか?

山城 その通りです。今回はまず、音響エンジニアの名倉靖さんが可聴帯域の音声を改めてリミックスしています。具体的にDVD版での5.1ch音声の制作時点に立ち戻り、セリフや効果音などすべての素材を磨き直して、音の解像度を向上させる丹念な作業が行なわれています。音楽についても一部、私自身がミキシングし直しています。名倉靖さんがそれぞれぞれの音に込められた意図・狙いをよく汲んでくださったおかげで、AKIRA本来の音世界に大きく近づくことができたと思います。

 そうしてリミックスされた48kHz/24bitの音に、ボルネオの熱帯雨林で録音した、とっておきの自然環境音から、耳に聴こえない超高周波成分だけを抽出し、今回初めて使う“ハイパーソニック・ペガサス”プロセスによって付加し、192kHz/24bitで記録したのが、今回の『AKIRA 4Kリマスターセット』のサウンドトラックです。

――“ハイパーソニック・ペガサス”プロセスについて詳しくお教えください。TOKYO MXで放送された特番「AKIRA SOUND MAKING 2019」(注:『AKIRA 4Kリマスターセット』にフルバージョンが特典として収録される)では、「超高周波成分からある帯域を抜くと音質が良くなる」といった説明がありましたが、そのことでしょうか。

『AKIRA 4Kリマスターセット』には、山城祥二本人が“AKIRA 4Kリマスター”の音について語るインタビュー映像も収録されている

山城 そこが“ハイパーソニック・ペガサス”プロセスのポイントです。正確には“抜く”のではなく“制限する”です。制限する帯域は狙う音空間によって異なりますが、詳細は秘密です。可聴帯域の上限を超える高周波ならばどの帯域でも同じように基幹脳活性化効果があるかというと、実はそうではありません。周波数帯域によってその効果に違いがあることが研究で分かってきました。例えば、16~32kHzまでの高調波は基幹脳活性を低下させる可能性があり、これを“ハイパーソニック・ネガティブエフェクト”と名付けています。基幹脳活性を高める超高調波は40kHz以上、もっとも効果的なのは80~88kHzという、とても高い周波数帯域であることが分かったのです。

 これに気付いたのはアーティストとしての感覚からでした。さまざまな超高周波成分を豊富に含む音を聴いていると、なかにはあまり良いと感じないものもあると気付いたのです。そこで調べていくと、ある帯域の音の成分が多いと効果が低いことが分かったのです。

 ただし、そんなネガティブ帯域をすべて取り除くことは自然音ではありえない事象です。また、この帯域が音の印象に対して一種のスパイスのように働くことも経験的に分かっていたので、それらの帯域を注意深く制限することで、“ハイパーソニック・エフェクト”の効果をさらに高めたのです。

――IMAX版の試写では、個々の音の定位が明瞭になっており、空間にひとつひとつの音が浮かんでいるかのような音響だと感じました。これが“パイパーソニック・ペガサス”プロセスの効果でしょうか。

山城 音の明瞭度や・定位の向上は、名倉靖さんによるリミックスの成果も大きいと思います。BD版と違って可聴帯域の音質がひじょうに良く、解像度が大幅に向上しています。その後で“パイパーソニック・ペガサス”プロセスを施すわけですが、“ハイパーソニック”化処理による音の感じがそれまでとまるで変わり、音がナチュラルになるとともにマイルドになってしまいました。これでは激しいアクションシーンも多い『AKIRA』の音響としては物足りません。そこで、“ハイパーソニック”処理でのさまざまなパラメーターの調整や、音楽周波数上限と超高周波がクロスオーバーする領域のイコライゼーションなどを組み合わせた複雑な処理を開発したのです。これが“ハイパーソニック・ペガサス”です。

 これにより、音のリアリティーが爆発的に高まり、音の定位感、特に立体感が増します。ですから、ご質問にあったような音の印象は、リミックス作業と“ハイパーソニック・ペガサス”の相乗効果によって生まれたものではないかと思います。

――作品のタイトルバックで聴こえる大太鼓のような音は、印象は同じでも太鼓の皮がビリビリと響くような細かい音まで豊富に含まれており、すっかり新録したものだと勘違いしたほどです。音楽のリミックスはどのように行なわれたのでしょうか。

山城 冒頭の太鼓の音の連打は、名倉靖さんと一緒にかなり時間をかけて徹底的な音作りを行ないました。見違えるようなものに仕上がったと思います。また、テーマ音楽である「金田」という曲は、私自身がミックスをやり直しています。そのほかにも、セリフ・効果音と音楽とのバランスについて、セリフと音楽とが対等にせめぎ合うようなバランスに作りかえた箇所があります。これらによって、それまでのAKIRAの音響で私が納得いかなかった点が大幅に解消されました。

より質の高いシステムにグレードアップして、生まれ変わった『AKIRA』の音を楽しみたい

 ステレオサウンドONLINEの読者には、質の高いホームシアターシステムで『AKIRA 4Kリマスターセット』を楽しもうという方が多いと思うが、山城祥二氏にシステム面でのアドバイスもいただいた。UHD BDの音声に含まれる音は、スペック上限の96kHzまでの超高周波成分が充分に含まれているという。その音の真髄を堪能するには、やはり再生するスピーカーが96kHzまでの再生能力を持っていることが理想。愛用しているスピーカーの買い換えはなかなか難しいが、その場合は最低でもフロントの2チャンネルに超高周波まで再生できるスーパートゥイーターを追加するのがおすすめだそうだ。それだけでも『AKIRA』の音世界がまったく変わったと感じられるという。

 また、それだけ丹念に制作されたまったく新しい『AKIRA』の音を、音楽として楽しみたいという人もいるだろう。すなわち、“ハイパーソニック・ペガサス”プロセスで生まれ変わったサウンドトラックの発売にも期待したいところ。こちらについても検討中ということなので、楽しみに待ちたい。

 筆者自身もまだ、執筆時点では自宅のシステムで『AKIRA 4Kリマスターセット』の映像と音は体験していないが、どのような映像と音に出会えるかとワクワクしている。「IMAX版の試写で感じた音に及ばないかもしれない」という不安もあるが、その時はその時でシステムの音をさらにグレードアップするモチベーションになると思っている。それだけの価値が『AKIRA 4Kリマスターセット』にはある。ぜひとも、2020年の今、生まれ変わった『AKIRA』に再び向き合ってみたい。

「AKIRA 4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc)」

2020年4月24日発売
特装限定版
品番:BCQA-0009
価格:¥9,800(税抜)
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会 

【特典】
■特典ディスク(Blu-ray) [収録内容]・AKIRA SOUND MAKING 2019 ※追加収録・AKIRA SOUND CLIP BY芸能山城組・エンドクレジット (1988年公開版)・絵コンテ集 (静止画)・劇場特報・予告集
■特製ブックレット(※岩田光央×佐々木望×小山茉美 ×草尾毅×明田川進によるスペシャル座談会などを収録)
【仕様】
■特製スリーブ
※特装限定版予告なく生産を終了する場合がございます。
※特典・仕様等は予告なく変更する場合がございます。

<4K ULTRA HD Blu-ray>
124分/ドルビーTrueHD(5.1ch 192kHz 24bit)・ドルビーデジタル(5.1ch)・リニア PCM(ドルビーサラウンド)/英語・ドルビーTrueHD(5.1ch)/HEVC/100G/16:9<2160p UltraHigh Definition>/日英幕(ON・OFF 可能) ※日英音声

<BD>
124 分/ドルビーTrueHD(5.1ch 192kHz 24bit)・ドルビーデジタル(5.1ch)・リニア PCM(ドルビーサラウンド)/英語・ドルビーTrueHD(5.1ch)/AVC/50G/16:9<1080p High Definition>/日英幕(ON・OFF 可能) ※日英音声

<特典BD>
67分/リニアPCM(ステレオ・一部モノラル)/AVC/25G/16:9<1080p High Definition>・一部 4:3 <1080i High Definition>

『AKIRA』4Kリマスターセット公式サイト
https://v-storage.bnarts.jp/sp-site/akira/

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