『新世紀エヴァンゲリオン』を庵野秀明監督自らが再構築した『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』。完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開を前にして、公式アプリ「EVA-EXTRA」(4月18日(土)12:00~4月30日(木)23:59)、カラー公式YouTubeチャンネルにて、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序、:破、:Q』の無料開放が行なわれている。さらに、NHK BS4Kでは、4月18日23:00から4K版の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が放送された。ここでは、4K化された新劇場版はどんな映像に仕上がっているかをレポートしよう。

 1995年にTVシリーズが放映された「新世紀エヴァンゲリオン」は、とある少年が世界を救う使命を課せられて、巨大な人型兵器のパイロットとして正体不明の敵“使徒”と戦う物語。正統派の少年向けロボットアニメとしての完成度の高さと、使徒と戦う組織である“NERV”が秘密裏に進める「人類補間計画」など、謎の多い設定が視聴者の話題となり、放送当初から大きなブームとなった。そして大ブームの中で公開された1997年の「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」で物語は完結。“ヤマト”や“ガンダム”に続くエポックメイキングな作品として、多くの人の記憶に残っているはずだ。

 そして、2007年には、『新世紀エヴァンゲリオン』を新たに再構築した『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が公開。2009年には『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、2012年には『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』が公開され、完結作となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は今年の2020年6月に公開予定だったが、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため公開延期となっている。新たな公開日は未定だが、完結が目の前に迫っていることは間違いない。そんな今、新劇場版の3作を再び見られる機会があるのは実にうれしいことだ。

 しかも、NHK BS4Kは4K映像と5.1chサラウンド音声で放送が行なわれる。4月18日の『:序』放送に続き、4月25日(土)には『:破』、5月2日(土)には『:Q』が放送される。果たして4K化されることで、映像はどのように変わっているのだろうか。正直に言うと、観る前はそれほど大きな差はないかもと思っていた。

 『:序』が制作された当時の2007年は、アニメ制作のデジタル化はかなり進んでいたし、解像度はHDが一般的だった。当然新劇場版はデジタル制作であり、つまり4K放送といってもHDからの4Kアップコンバートとなる。アナログ制作された作品のように、フィルムから4Kスキャンした4K版とは異なるのだ。ただし、もともと『新劇場版』のクォリティは極めて高く、現代の作品と比べても何ら遜色がないと言っていいほどなので、4K化に伴ってHDR化もされるならば、大きく変わってくる可能性もあると思うが、放送された4K版はSDR。もともと所有するBD版は今見ても充分に優れた映像であり、そこからさらに驚くような差が出るとは考えにくかったのだ。

 ところが、4K版はかなりクォリティがアップしていたのが分かった! まず印象的だったのは、暗部の再現性が飛躍的に上がり、夜の場面やNERV本部内などの暗い室内が見通しのよい映像になっていたこと。第四の使徒との戦いでは、夜間のせいもあって、エヴァ初号機は暗いシルエットに緑のラインが浮かぶような感じで見えていたが、暗く沈んでいた紫のボディがよく見える。もちろん、暗部の見通しが良くなったことで戦いの舞台であるビル街の様子もよく分かるし、アクションの動きも鮮明だ。だから、作品のクライマックスである第六の使徒との戦い“ヤシマ作戦”で、日本中の電力を試作陽電子砲に送るために奮闘する様子も確認でき、実にドラマティックな映像になっていた。

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 解像度が4Kにアップコンバートされているだけかと思っていたが、よく確認してみると、色域は4K放送に合わせてBT.2020(BD版はBT.709)の広色域になっていた。これが暗部の見通しの良さの理由だろう。表現できる色の範囲が広くなったことで、特に再現の難しい暗色がしっかりと描写でき、暗いシーンがより色鮮やかに見えるようになったと思われる。

 これは思った以上にクォリティの高い仕上がりになっていると思い、BD版と比較してみたら、かなり多くの差が確認できた。まずは、4K化によって描線がすっきりとし、アップコンバートで目立ちやすい描線のギザギザ(ジャギー)が大幅に減っていた。このため、思った以上に古さを感じない。元々の質の高い映像なので初見ならば最新作だと言われても疑わないはず。しかし、BD版だとジャギーが目立ち、描写も滲んだような太い感じで、「そういえば、『新劇場版:序』は旧アニメ版の原画なども再利用し、デジタル上で色の調整や変更などを加えて新たにリビルドした作品だったな」と思い出すくらい、アナログ制作だった旧TVシリーズの感触が残っていると感じた。このあたりは、どちらが本物であるかという意味で、好みの差はあるかもしれない。しかし、4K化にあたって大きな色調の変化や新たな加工などはないため、違和感はない。筆者の印象としては、描線の甘さ、ジャギー感がなくなったことで、新劇場版は本来このクォリティで制作され、劇場やテレビの画面に映るべきだったものと感じた。

 BD版では輪郭が滲んだり、ジャギーが生じていたほか、特に赤い色が膨張しがちだった。デジタルで新たに作画されたNERV本部内のグラフィック表示やエヴァをモニターするディスプレイの映像で強い赤が使われると、途端に甘くなってしまう。これらが解消されることで、BDでは一時停止してじっくり確認しないと視認できなかったディスプレイの細かな文字がそのまま再生していても視認できるくらい鮮明になっている。ミサトさんの家にある日本酒やビールのラベルが、本物そっくりであることなどにも改めて驚く。

 そして、動きも鮮明だ。CG新作の武装された建築物なども輪郭の甘さがなくなり、細かく描き込まれたディテイルもきちんと再現されている。しかも、動きによって描線がぶれたりせず、くっきりとしているので動いている様子自体が鮮明になっている。こうしたことで、今まで以上に映像の情報量が豊かになったと感じた。第六の使徒は正八面体のような形状から、CG作画になったことでさまざまな形状に変化していくが、その表面には周囲の森やビル群が映り込んでいる。それらも実に鮮明で、特に第3新東京市の直上から自らの身体をドリル状に伸ばして地下にあるNERV本部に侵攻していくときの迫力が倍増している。

 5.1chの音声もBD版の6.1ch音声に比べて、大きな差を感じないものだった。冒頭で第四の使徒が姿を現したときの爆風の感じをはじめ、NERV本部内でさまざまな声が真横や後方から聴こえる様子などもきちんと再現できている。完結編の公開の後で、4K版の発売も期待したいところだが(その場合はHDR化もお願いしたい)、放送された4K版も充分以上に永久保存版と言える出来だ。

 4Kで放送された『新劇場版:序』は、作り手が本来表現したかったものにかなり近づいたと感じた。そのため、王道的な少年が主人公のロボットアニメとしての面白さが、より伝わってくる。作品に夢中になれることで、「人類補間計画」などの作品に秘められた謎に迫る楽しさも深まっているし、何より碇シンジや綾波レイなどの少年少女の心の動きにより迫っていけると思う。そうなってくると、エヴァに乗り込む少年少女たちがさらに増え、その関係性が濃厚に描かれる『新劇場版:破』、さらにまったく新しい展開となり、物語のスケールも、アクションの迫力もさらに増大する『新劇場版:Q』がますます楽しみになってくる。これを見ないのは本当にもったいない。そこで描かれる物語や作り手の表現したかったものにより深く迫ることで、きっと新しいヱヴァンゲリヲンを感じることができるはずだ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
4月25日(土) 23:00~ NHK BS4K

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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
5月2日(土) 23:00~ NHK BS4K

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『発表! 全エヴァンゲリオン:大投票』
5月16日(土) 22:30~ NHK BSP
投票期間 ~4月29日(水・祝)
特設サイト:https://www.nhk.or.jp/anime/eva-all/

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