オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。(編集部)

以下の記事はHiVi2010年12月号に掲載されています

史上最強のテレビCELL REGZAの進化版。
大人のテイストを手に入れて、魅せる絵を実現

昨年のHiViグランプリで見事[ゴールド・アゥオード]に輝いたCELLレグザ「55X1」がさらなる進化を遂げた。「55X2」というモデル名はその資質を受け継いだことを伝えるが、その再現力には変化が見て取れる。初号機は正直、その能力をもてあまし気味の印象もなくはなかったが、第二世代機の55X2ではテクノロジーの収斂によって映像の表現にさらなる深みが加わっている。頼もしいディスプレイへの誕生である。

 55X2で感心させられるのは、やはり画質である。55X1は、どちらかというと積極的果敢な姿勢によって、艶やかな絵づくりがなされていた。それに対し55X2を初めて視聴した印象は、ていねいだがおとなしい絵、というものだった。しかしこうした画質設計は、いい意味で肩の力が抜けてきたことを示す。

 スペックを確認するとバックライトの輝度表示が1000カンデラ/平方メートルであり、55X1の1250カンデラ/平方メートルより下っている。直下型LEDバックライトを512分割するエリアコントロールの数は同じだが、バックライトの数が55X1の4000個から3000個に減っているためにピーク輝度が変ったようだ。とはいえ、ダイナミックなコントラストは900万対1にアップしており、その組み合わせで、オーバースペック気味だった輝度再現の能力のバランスをとり直すことで絵に深みが生れている。

 また55X2は3D対応を果しているが、東芝独自の超解像技術で、横方向の解像度がフルHDに満たないサイドバイサイドの放送でも、画素を復元して精細な表現力を与える工夫がなされている。さらに2D映像を3Dに変換して立体感を創出するモードにもCELLプロセッサーの演算能力を活用し、動き検出と構図の推定、さらには顔の位置を基準に奥行データを割り当てて自然な立体映像を実現していることも特徴だ。

 55X1で注目を集めた外付スピーカーにも変更が加えられた。ユニットの数を減らし、エンクロージャーがアルミの押し出し材から樹脂製に改められているほか、容積が約半分になっている。こうした変更に合せて、前作にはなかったサブウーファー出力が用意された。

地デジ、BD放送とも、落ち着きのある大人の絵だ

 それでは55X2の画質を地上デジタル放送からチェックしてみよう。約100ルクスの環境下で、映像モードは「おまかせ」で視聴した。

 この状態では、いくぶんソフトだが過渡な演出もなくスムーズ。色温度は若干高めの印象を受けるが、そうした設定がピーク輝度の不足も感じさせない。番組によって色味はやや浅くなるものの、スタジオライブでは出演者のお化粧ののり具合がはっきり分かるほどディテイルを描き出す。チューナーの性能が高いことも作用しているのだろう。落ち着きのあるしっかりとした映像を再現する。

 BSデジタル放送も基本的には同様の傾向だが、「標準」モードに切り替えると明るさが加わり、メリハリのはっきりした映像になる。ノイズも少し浮いてくるが、元気があるので昼間のリビング視聴には適しているだろう。「テレビプロ」を選択すると、柔らかい表現にはなるが、階調性がアップした立体的な絵を観せてくれるので、環境さえ整えばドラマやライブ番組に積極的に使いたい。

 ここでチューナーとモニターをつなぐHDMIケーブルを付属品からスープラ製に替えてみたところ、画質がぐんと向上した。コントラスト、解像感、色再現、そしてサウンドもぬけがよくなるので、たとえ1mであっても、55X2の能力を引き出すなら、しっかりしたHDMIケーブルを使って欲しい。

 55X1と55X2を並べてみると、パネルの表面はいずれも光沢仕上だが、フィルターが異なるせいか55X2の方がわずかに写りこみが多い。しかし同じ「テレビプロ」で比較すると55X1の方がくっきりしていて、肌色の赤みを強く演出していた様子がうかがえる。R、G、Bの各色ともにしっかりと描き出すため色味も全体に濃い。55X2も「テレビプロ」ではメリハリ感を残しているが、それでも落ち着きを感じるのは、暗部の階調性をよりきちんと再現しているからだろう。前述した画質設計における余裕をこうした部分で感じる。

映画、ライヴとも高品位。2D/3D変換も優秀だ

 BDソフトの視聴には『パブリック・エネミー』を使った。暗部の表現力に優れているが、ノイズがいくぶん目につく。そこで映像メニューを呼び出し、少しだけ調整を加えてみた。NRを「オート」から「切」にし、色の濃さを「−10」から「0」にすると、日の差した感じが高まり、温かみのある映像に変化する。フェイストーンも少しだけ赤みを帯びるが、この方が個人的には好感が持てる。

 また、輝度差のあるシーンで輪郭に赤みが残ったため、レゾリューション・プラスの「オート」を「切」にした。レゾリューション・プラスを使った方が解像感が高まりフィルムの粒状性も出てくるが、意図的な感じがしなくもない。BDのような高品位な信号の再生では「切」の方がスムーズである。輸入盤BD『ロビン・フッド』でも暗部の色味をていねいに描き出す。色の濃さ「−10」という初期値は、少しストイックかも。BD再生時に、色彩感が不足気味だと感じたら色の濃さを調整するといいだろう。外付スピーカーは、ダイアローグが甲高くなることもなく、ナチュラル。ボリュウムを上げてもうるさく聴こえることはなかった。

 マドンナのライヴBDでも、画質・音質を確認した。「テレビプロ」の方が「シネマ」より黒が締まるが、ハイライトがおとなしいのでダイナミックガンマを「5」に変更。この項目は大きく動かしても破綻しないので、積極的に使いこなしたい。音のレンジはそれほど広くないが、ヴォーカルも楽器の描写も悪くない。

 最後に3D映像をチェックした。『モンスターvsエイリアン』でメリハリのある映像を再現。立体感も過渡に強調することなくバランスが取れた表現だった。次に2D/3D変換機能を使ってU2のライヴBDを再生したが、驚くほど3D的な映像を観せた。55X2の2D/3D変換機能は優秀である。4倍速表示によるフレーム補間も3D映像に効果的だが、スポーツ番組などの2D映像にもクリアーな表現力をもたらしてくれるようだ。

 55X1に比べると尖った部分がなくなったように思えるが、実際にはきめの細やかな物づくりを施すことで、55X2はより映像の本質に迫ろうとしている。CELLレグザはこの先も進化を続けることを、本機ははっきり指し示している。

LCD DISPLAY TOSHIBA CELL REGZA 55X2
オープン価格(実勢価格100万円前後) ※価格は発売時のもの

●寸法:W1292×H916×D355mm(モニター部、スタンド込)、W436×H109×D399mm(チューナー部)

X2/XE2シリーズに搭載されたCELLレグザエンジンは基板構成から一新されている。バックライトエリアコントロールや超解像処理はもちろん、動き、構図、人の顔といった情報から奥行感を演出する独自の2D3D変換も新搭載。変換画像だと言われなければ気がつかないほどの3D再生を目指したという