世界的なヘッドホン・ブームは、そのファッション性も相まって主にアウトドアでのニーズが高く、インドアではやはりスピーカーで音楽に接するケースがまだ大多数だろう。しかし中には、住環境やスペースなど、さまざまな条件や制約から屋内でのヘッドホンリスニングに注力している人も少なくない。とりわけオープンエア型の愛好家には、そうしたこだわり派が多いようだ。

 ここに紹介するZMFヘッドホンは、熱狂的な支持者が多いメーカー。しかも今回組み合わせたヘッドホンアンプは、相性がよいとメーカーが推すFeliksオーディオの管球式アンプである。このひじょうにマニアックなペアリングでの音の印象を報告しよう。

ヘッドホンアンプ
Feliks Audio Euforia ¥300,000(税別、Goldプスバン仕様、写真右)
●入力インピーンダンス:100kΩ
●再生周波数帯域:8Hz〜75kHz(+/- 3dB、300Ω)
●出力:250mW
●THD:0.4%(300Ω、20mW)
●使用真空管:プレミアム・プスバンCV-181 Mk2「ゴールド」×2、6SN7ドライバーチューブ×2
●接続端子:アナログ入力1系統(RCA)、アナログ出力1系統(RCA)、ヘッドホン出力1系統(6.3mm)
●寸法/質量:W310×H205×D175mm/6kg

オープンエア型ヘッドホン
ZMF Auteur ¥230,000(税別、チーク、写真左)
●使用ドライバー:50mmダイナミック型
●振動板:バイオセルロース
●感度:97dB/m/W
●最大入力電力:250mW
●定格インピーダンス:300Ω
●再生周波数帯域:10Hz〜30kHz
●質量:450〜500g(木材により異なる)
●付属品:ストックOFCケーブル2本(6.35mm、XLR)、S3 6500 Case、オーナーカード、Eikonイヤーパッド
※写真のヘッドホンスタンドは、オーディオテクニカのAT-HPS700(オープン価格)です

 ZMFヘッドホンの創業者ザック・メアファー氏は、かつてフォステクス製ヘッドホンT50RPのカスタムチューンで名を馳せたが、ソニーMDR-R10に出会い、その木製ハウジングからインスピレーションを得て新しいヘッドホンの開発に着手した。

 彼は木工の専門知識を活かしながら独自のチューニング・メソッドを研究し、まったく新しい成形複合曲線を完成させた。やがてその成果をベースにふたつの高級ヘッドホンをリリース。ここで紹介する「Auteur」(オーテール)は、そのテクノロジー/ノウハウを継承したもので、バイオセルロース振動板を用いたオープンエア型モデルである。コンセプトは、弦楽器に通じる“生涯使えるヘッドホン”だ。

管球式ヘッドホンアンプの「Euforia」。接続端子はアナログ入力1系統とヘッドホン端子が1系統、さらにアナログアウトも備えており、プリアンプとしても使用可能。クロスフェード機能の切り替えは背面(右の写真)向かって左端のボタンで行う

 このAuteurに組み合わせたFeliksオーディオのヘッドホンアンプは、ポーランドにて20年以上ハンドメイドの真空管アンプを受注で手掛けてきたヘンリック・フェリクス氏の手によるもの。ここで使用した「Euforia」(ユーフォリア)は、プスバン製の6SN7(ゴールド)をドライバー段に、6AS7Gをシングル仕様としたOTL(Output Transformer Less)アンプだ。内部抵抗が低い6AS7はOTLには打ってつけで、6SN7との構成はまさしく教科書通りといってよいオーソドックスな回路。“メイド・イン・ポーランド”にもこだわる。

 シックなコスメティックデザインが印象的なEuforiaは、ムンドルフのコンデンサーやデールの抵抗など、随所に高品位パーツを用いている点も見逃せない。機能面でユニークなのは、左右チャンネルの低域をコントロールする「クロスフェード」機能で、背面パネルにオン/オフ切替えのスイッチを備える。入力はアナログ1系統で、ハイブリッド式プリアンプとしての性格も有している。

ヘッドホンの「Auteur」は、頑丈なキャリングケースに入っている。通常のイヤーパッドの他に、同社「Eikon」用も付属しているので、好みの方を選ぶこともできる。今回の試聴ではEikon用イヤーパッドを使った

 試聴はアキュフェーズのSACD/CDトランスポート「DP-950」とD/Aコンバーター「DC-950」等を使用して実施した。ジェニファー・ウォーンズの最新SACD『アナザータイム、アナザープレイス』の「Tomorrow Night」では、瑞々しい声の質感にすぐに魅了された。冒頭のウッドベースの響きがひじょうにナチュラルだ。音の佇まいが実に自然なのである。硬さや冷たさが微塵もなく、実に柔らかくて滑らかなサウンド・タッチといってよい。

 私が監修したJVCフュージョンのオムニバス盤SACD『クロスオーバー黄金時代』から、渡辺貞夫の「マイ・ディア・ライフ」を再生すると、録音スタジオの空気をそのまま切り取ったかのような生々しいプレゼンス感が浮かび上がった。

 オープンエア型ヘッドホンは立体的な広がりを感じさせるモデルが多いが、Auteurがそれらと一線を画すのは、楽器のニュアンスをしっかり描写しながら、アンサンブルを形成する楽器の遠近感がきっちりと再現される点だ。ソロが手前に居て、リズムセクションがそれよりも少し遠くに感じられるところが好ましい。

SACDやハイレゾ音源をじっくり試聴する小原さん

 細部の描写力が高いのは、Euforiaの恩恵もありそうだ。ハイレゾ音源の、アンネ・ゾフィー・ムターが映画作曲家ジョン・ウィリアムスと組んだ『アクロス・ザ・スターズ』から「シンドラーのリストのテーマ」を聴いたが、慈愛に満ちたムターのヴァイオリンの旋律がたいそうデリカシーに溢れて再現された。スケール感が豊かでリッチなオーケストラの響きもいい。ヴァイオリンの独奏が左右チャンネルを揺れながら定位しているのもよくわかる。

 ここでEuforiaのクロスフェード機能を試してみた。低域が少し膨らみ気味で厚めに出る点は、クラシックでは効果的に感じられたが、エネルギーバランスがやや重くなる傾向もある。これは好みに応じて使い分けるといいだろう。

 今回のAuteurとEuforiaの組み合わせは、50万円を超えるハイエンド・ヘッドホンシステムとなるが、それに見合うクォリティ感と満足度があり、まさしくプライベートにリスニング・プレジャーを味わわせてくれる希有なペアリングと実感した次第である。

今回の取材では、StereoSound試聴室のリファレンス機器を使っている。SACD/CDトランスポートはアキュフェーズの「DP-950」(写真左上)、D/Aコンバーターは「DC-950」(写真左下)で、ハイレゾ音源はデラのオーディオ用NAS「N1」(写真中央下)から再生している