漫画の神様「手塚治虫」の新作を、AI技術を駆使して作り出す「TEZUKA2020」プロジェクトが2月26日、講談社で会見を開き、新作漫画をお披露目した。これは、AIに手塚作品を学習させて、新キャラクター、および新ストーリー(プロット)を創出させ、それを元に人間=クリエイターが新作漫画として制作するというプロジェクト。

会見に出席したメンバー。左から迎山、矢部、栗原、百冨(キオクシア 執行役員)、手塚、ちば、三浦(モーニング編集長)、松原

 「もし、手塚治虫が存命だったら、どんな漫画を描いているのだろうか?」という疑問からスタートしたプロジェクトで、会見では創作された新キャラクター「ぱいどん」と、そのキャラを主役にした漫画が披露された。これは、明日2月27日発売の雑誌「モーニング13号」に前編が掲載される。後編については、いつどのような形で発表されるかは未定で、3/19に専用サイトで明らかにするとしている。

掲載される漫画「ぱいどん」の扉絵(C)「TEZUKA2020」プロジェクト/(C)Tezuka Productions

 さて、今回制作された漫画「ぱいどん」は、2030年の東京・日比谷が舞台で、記憶をなくしてホームレス生活をおくるぱいどんが、小鳥ロボット・アポロとともにとある事件を解決するべく立ち向かう、というストーリー。

 本プロジェクトは、東芝メモリ(株)が、キオクシア(株)への社名変更(昨年10月)をきっかけに始めたもので、同社が扱う「メモリー」、つまり「記憶」の可能性を追求していく中で、考案されたという。そこで使われたのが、同社の専業分野である高速・大容量メモリーとAI技術であり、700作を超えるという手塚作品の中から、長編65作、短編131作をピックアップ。その物語の構造やキャラクターをデータ化してAIに分析させ、それを元に、作品のプロットや新キャラクターを創出させたという。

 詳しくは、明日発売の「モーニング」の巻頭に特集記事が掲載されるが、ここでそれを大まかに紹介すると、いわゆる物語の構造については起承転結ならぬ、「発端」「展開」「結末」という3幕構成とし、さらにそれぞれの幕を、全部で13のフェーズ(日常・事件・決意……)で分類して、データ化していったのだという。

手塚作品のストーリー分析の手法

 作品の選定については、手塚の息子でもある手塚眞氏によれば、「連載が一番多かった1970年代の作品をメイン」に行なったそう。また、初めて本プロジェクトについては、「手塚が亡くなったことで新作が読めなくなり、ずっとそれを残念に思っていたが、新しい技術によってそれが可能になる。まるで手塚漫画の中にいるのかのようで、今回の世界初の挑戦に、とても意義を感じている」とコメントしていた。

 一方、キャラクターについては先述の作品中に描かれたキャラクター画像をおよそ6000カット抽出し、AIに学習させたが、当初は失敗の連続だったという。つまり線で描かれた絵を学習させても、それを顔と認識できなかったそうで、そこで転移学習という手法=これはAIによって送出された顔(実在の人物ではなく、AIが作った顔という)を認識させることで、ようやく手塚キャラの特徴を持った“顔・キャラ”が出来上がったそう。

AIが創造した初期段階のキャラクタービジュアル

 主人公ぱいどんについては、AIによる創造のNo81の作品だったそうで、手塚眞氏は、「見た瞬間に惹かれるものがあった」そうで、「目つきに憂いがあるところ」、さらに「片方の目が見えないところ」に強い興味を持ったという。加えて「(手塚治虫)らしい雰囲気も感じた」ことで、選択したという。

AIが生成した主人公「ぱいどん」のベースビジュアル(C)「TEZUKA2020」プロジェクト

 ちなみに、AIが作ったプロットの中から、時代は現代、場所は日比谷、主人公は哲学者・ホームレス、テーマはギリシアといった項目を選んだそうで、主人公の名称は、ギリシア・哲学者から、プラトンの弟子のパイドンの名前をピックアップしたという。「~どん」というのが、らしいでしょ、とのことだ。

AIが生成したビジュアルを元に、クリエイターの手によるキャラクター決定稿 (C)「TEZUKA2020」プロジェクト

 会見には、ゲストとして、手塚治虫に所縁のある、ちばてつや氏(公益社団法人日本漫画家協会会長)、カラテカ矢部太郎氏(2018年手塚治虫文化賞受賞)も登壇。今回の新作漫画を見て、「懐かしく、(手塚氏の)血が入っているキャラクターに感じた」(ちば)、「とってもワクワクしたし、とにかくキャラが魅力的。天馬博士がアトムを創った感覚を体験しているよう」と絶賛していた。

 なお、今回AIの監修を行なった栗原聡教授(慶應義塾大学理工学部教授)によれば、今回は世界初の挑戦でもあり苦労も多かったそうだが、もう数年すれば「もっと洗練されていくだろう」と語り、今後はAIと人間の協力・共生が進み、「人間はもっと発想に時間を使えるようになるだろう」と予測していた。