月刊HiVi 2020年2月号を読んで、驚きの声を上げた方は多いはずだ。VSV16ページに、堀切さんがDVDの断捨離を決行すると書かれていたのだ。あの堀切さんがコレクションを手放す!? そんなことが起こりうるとは、想像だにしなかった。ここでは2020年1月27日に粛々と行なわれた断捨離・第一回と、貴重な映画資産を受け継ぐべく集まったシネフィルたちの様子を紹介する。(編集部)

「じっくり調べると、かなり貴重なディスクもあるんですが……」と堀切さん

 相次ぐ強烈な台風で列島が震撼した2019年、記録的な大雨は我がDVDコレクションを保管していたトランクルームにも被害をもたらした。

 管理会社から「冠水によってトランクルームを閉鎖するかもしれません」と連絡を受けたのが9月。トランクルームは自宅から徒歩5分ほどのマンションの地下1階にあり、エアコンが常時稼働している快適な環境にあった(夏場でも室温24度を超えない)。被害状況を確認しに行くと、フロアは水浸しとなっており、天井から壁面を伝わって水が流れ込んでいた。

 ようやく排水作業も終わった10月、台風による無情な大雨がとどめを刺すことに。退去には今年2月までの猶予を与えられたものの、もはや他所へ移る体力も気力もない。

とりあえず棚の手前にあるディスク(ずべての棚は手前と奥の2重にディスクがならんでいた)を廊下に並べてみた。写真に写っているのも全体の4分の1弱です

 このトランクルームを契約したのは平成17年9月。入居許可が下りたのが11月。その後、ルームスペースを厳密に計測(間口131cm、奥行280cm、天高230cm)。電動ドリル片手に発注していた間口90cm、奥行30cm、天高210cmのラック6台を組み立て、ルームの両サイドに厳重に固定(床から5cmほど立ち上げていたのが功を奏した)。

 DVDの搬入は大型ワゴン車を使用したが、何往復しただろうか。そしてアルファベット順に整理。仕事の合間を縫って行なった引っ越し作業が終了したのは、翌年1月初旬のことだった。この作業をもう一度? いやいや、無理ですって、もうコレは。

 思えば1980年代から買い続けた輸入盤LD。正確な枚数は把握していないが、間違いなく1万枚以上は購入(LDは別の場所に保管)。その後、1997年にアメリカでDVDが登場、当然のように購入比率も輸入盤DVDが上回っていった。LDの終焉から21世紀のブルーレイの登場まで、DVD購入枚数は4000枚を優に超えていた。以前、NHKから取材を受けた時には、LDとDVDの総数1万5000枚超、総額1億2500万円超(輸入盤を円換算)と見積もられた。

棚のひとつはエアチェックディスクのコーナー。手書きやプリンターで作ったラベルがほとんどすべてに貼り付けられており、内容がひとめで分かる。堀切さんってホントにマメなんですね

 実際のところ、いまDVDを鑑賞する機会はほとんどない。貴重なクライテリオン・タイトルもすべて配信で楽しめる時代だ。快適な部屋でただ眠るだけのDVD。今回の出来事は、天の、映画の神様の授けてくれた断捨離のきっかけなのかもしれない。きっと、そうなのだ。そう思うと気が晴れた。

 管理会社による回収・破棄の前に、シネフィルの面々に大切に鑑賞してもらいたい。きっとDVDもシアワセだろう。今回のシネフィル訪問のあとにも、幾人かの映画好きが訪れてDVDを抱えて家路についた。これでいいのだ。どの作品を持ち帰ったのか。コチラからそれを問うこともしない。問えばきっと、瞳が潤んでしまうだろうから。

 さらば、別れの時だ、我がDVDコレクションよ。ありがとう。

映画遺産の相続人たち。それぞれお気に入りディスクを発見しました

上と左は、2008年3月号の月刊HiViで取材させてもらった時のトランクルームの様子・発売元別にきちんと整理もされており、まさに映画愛を感じられる空間でした

あなたが集めたクライテリオン・コレクション確かに受け継ぎました。
堀切邸の断捨離に参加して …… 須賀 隆

堀切さんの、「クライテリオンDVDを受け継いでくれるのは須賀さんしかいない!」というひと言で、ほぼ棚ひとつ分のディスクを引き取ることに。それでも嬉しそうな須賀さんでした

 日本一のソフト・コレクターと言って過言でない堀切さんが、輸入盤DVDの処分を決めたのは並大抵の決断ではないと思う。

 もちろんブルーレイやUHDブルーレイへの移行により、旧作DVDを再見する時間がないという理由も大きいと思うが、コレクターにとってソフトの放出とは身内との決別に匹敵する喪失感があるもの。AVライフを送っている人なら誰もが了解できる事だと思う。堀切さんほどではなくとも、過去に泣く泣くVHSを処分したりレーザーディスクを放出した経験は、いまでも痛恨のトラウマとして誰もが抱えている問題だと思う。

 そこで目下、実家に戻ってスペースに余裕ができた自分が、堀切コレクションの要とも言っていいクライテリオン・コレクションを総て引き受ける決断をしたのだ。まだ整理途中だが、通しナンバーに合わせてまんべんなく集められたコレクションはゆうに500枚を越える分量で、日本未発売が大半だが、日本発売されたタイトルでも別原版だったりと、レアな作品が多い。

 この貴重な映画遺産に誰も見向きもしない時代が来たことを嘆きつつも、自己の映画史の欠片を埋める作業ができる喜びは何ものにも代え難い。堀切さん、あなたが集めたクライテリオン・コレクション確かに受け継ぎました。ありがとうございました。また、次の断捨離があれば、声をかけてください。

須賀さんが引き取ったDVDは、段ボール6箱を超えた。写真の分をコンビニから宅急便で送った後、箱に収まらなかったディスクは紙袋でハンドキャリーしていた

愛すべきソフトたちが、産業廃棄物になるなんて悲しすぎる。
微力ながら、映画資産のおこぼれをわが家にも

写真左と中央のD-Theaterを覚えている方はかなりのマニア。2000年頃にフォックスが北米で発売したハイビジョンビデオテープだ。こんなものまであるとは、さすが堀切コレクション。右は「T2」HD DVDのスチールケース!

 “2月いっぱいでトランクルームを引き払うんです。このままにしておくと、産業廃棄物として処分されてしまうので……”という堀切さんからの電話に、愕然としたまま声が出なかった。

 思えば堀切さんがトランクルームに5000枚のDVDや数百本のD-VHSテープを保存していると聞いて取材にお邪魔したのがHiVi 2008年3月号でのこと。愛するディスクたちに囲まれてシアワセそうな顔をしている堀切さんが印象的だった。

 それから12年、空調の効いた快適な空間で大切にされてきたディスクたちに旅立ちの時がやってきたのだろう。これだけ愛されたDVDたちが産業廃棄物になってしまう……それは映画ファンとして見逃すことはできない。ほんの少しでも、自分の手元にも残しておきたい。

 そんな気持ちに賛同して集まってくれたのは、須賀さんを始めとする3人の映画ファン。これから雪になるかもしれないという天候の中、気分はいつしかナチュラル・ハイ。トランクルームの隅々まで見逃すことなくタイトルを追うことしばしで、気がつけば3時間以上が経過していたのです。

 今回みんなでサルベージできたのは、おそらく1000タイトルちょっと。膨大なコレクションの一部に過ぎなかったけど、番長の映画資産は確かに受け継ぎました。大事にさせていただきます!(泉 哲也)

このタイトルのディスクが破棄されるのを見逃すわけにはいかない。と持ち帰ったはいいけれど、既に自宅には同じタイトルの国内版DVDがあるわけで……さてどうしたものでしょう