クリエイティブメディアから、独自のホログラフィック・オーディオ技術「Super X-Fi」を採用したワイヤレスヘッドホン「SXFI THEATER(SF-THTR-BK)」(直販価格 ¥22,546+税)が発売された。従来モデルでは、7.1chのサラウンド音声再生時は、USBケーブルで直接パソコンなどに接続する必要があったが、本機ではそれをワイヤレスで楽しめるようにしたのが特徴。ケーブル不要な気軽さで、映画や音楽、ゲームなどのさまざまな音源を、自然でリアルな音場で堪能できるのだ。

Super X-Fiを搭載した「ワイヤレスヘッドホン「SXFI THEATER」

ドングルタイプのワイヤレスユニットを使って、ワイヤレス伝送を実現

 この「Super X-Fi」は、昨年デビューした画期的なバーチャルサラウンド技術。スマホのカメラで顔の正面と左右の耳の写真を撮るだけで、精密な頭部形状データを生成して、頭部伝達関数を活用したリアルな音場(バーチャルサラウンド)を再現してくれるものだ。

関連記事
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17251708

 スマホ用アプリ「SXFI App」で撮影した写真はクラウドにアップロードされ、高精度な画像認識技術とクラウド上に用意された頭部形状データを元にして、個人に最適化したデータを生成してくれる、という仕組みだ。昨年の発売以来、世界中のユーザーのデータがクラウドに集積されているそうで、これを元に、頭部形状データの最適化のアルゴリズムに、より自然でリアルな音場となるような改善が行なわれ、現在では第2世代を示す「GEN2」にアップデートされている。

関連記事
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17331497

iPhone用の「SXFI App」。ユーザーの頭部形状データの測定は、このアプリとカメラ機能を使って行なわれる。iOS用のほか、Android用も無料提供されている

「SXFI App」で「パーソナライズをする」を選ぶと、ガイドの指示に従って、顔の正面と左右の耳の写真を撮影する。これだけでパーソナライズが完了する

これまでに測定したデータは、すべて最新の「GEN2」のアルゴリズムに沿って(=アップデートして)、パーソナライズ化される

 ちなみに、このアップデートされた「GEN2」のアルゴリズムは、これまでに発売された「SXFI AMP」(スティックサイズのポータブルアンプ型モデル)、「SXFI AIR C」(USBヘッドセット)、「SXFI AIR」(Bluetoothヘッドホン)でも利用できるので、SXFI Appを更新すれば、自動的に「GEN2」のアルゴリズムが使えるようになる。昨年これらのモデルを購入したユーザーのデータも、「GEN2」に引き継がれるようになっている。筆者も昨年、同アプリでパーソナライズ(測定)をしており、そのデータを活用することができた。

 まずは、そうして作成(更新)した「GEN2」によるパーソナライズデータを使って、同社の完全ワイヤレスイヤホン「Outlier Gold」で試してみた。すると、前の世代では、スピーカー再生のように前方に定位していた音場が、GEN2では少し小さく(狭く)なり、目の前の近い位置に音像が定位する感覚になった。従来は空間が広いぶん残響感も大きく、個々の音がややぼやけた雰囲気になっていたのが、GEN2では音像が大きくなりすぎず、不要な響きやぼやけた感じがなくなり、シャープになった印象。

 一般的なヘッドホンやイヤホンで聴くような、頭内定位だが個々の音がクリアーで細かな音まで鮮明に聴こえる感じと、目の前に音場が広がる頭外定位の自然な音場感が釣り合い、より自然な聴こえ方になったと感じた。この進歩はなかなかのもので、SXFI製品のユーザーはぜひとも試してみてほしい。

サラウンド音声もワイヤレスで伝送できるようになったSXFI THEATER

 本稿の主役・SXFI THEATRは、オーバーヘッドタイプの密閉型ヘッドホンと、ワイヤレス伝送のためのUSBドングル「SXFI TX」で構成される。ワイヤレス伝送は2.4GHz帯を使った独自の方式で、ステレオ音声だけでなく最大8ch(7.1ch)のサラウンド音声のワイヤレス伝送も可能だ。従来モデルは、ワイヤレス接続にBluetoothを使っていたため、ワイヤレスで使用するときはステレオ音声しか伝送できず、映画などのサラウンド音声をそのまま楽しむには、パソコンなどと有線接続(USBケーブル)する必要があった。映画鑑賞などでもワイヤレスのまま楽しみたい、というニーズに応えた製品というわけだ。

▲パソコンからのワイヤレス伝送に使う同梱のUSBドングル「SXFI TX」

 さっそく、実機を使ってみた。初めてのユーザーは、スマホアプリ「SXFI App」を使ってユーザー登録を行ない、パーソナライズのためのデータ作成をする必要がある。「SXFI App」で測定&パーソナライズしたデータの作成が完了したらヘッドホンの電源を入れ、アプリ(スマホ)とBluetoothで接続すると、データのダウンロードが行なわれる。

 この後は、Windows PCやMacを起動して、USB端子にUSBドングルの「SXFI TX」をセットし、ヘッドホンの電源を入れて、USBドングルと無線接続を行なう。これで準備完了だ。

 すでにパーソナライズしたデータを持っている人は、パソコン用アプリの「SXFI Control」を使えば、データのダウンロードは可能。つまり、パーソナライズデータの作成のために、スマホと「SXFI App」が必要になるわけだ。

 パソコン用アプリの「SXFI Control」は、従来モデルと同じように、設定や各種セットアップ、ファームウェアの更新などが行なえる。こちらも無料で提供されているので、ユーザーはダウンロードしておこう。

パソコン用アプリの「SXFI Control」の画面。ここで、Super X-Fiにサインインすると、接続したSXFI THEATERのデータが更新される

音質を好みで調整できるイコライザー設定。いくつかのプリセットから選ぶほか、好みにあわせて自由に調整することもできる

ヘッドホンのハウジングに内蔵されたLEDイルミネーションの発光色を選択できる。発光させないことも可能

「SXFI Control」のセットアップ画面。ステレオ、5.1ch、7.1chが選択できる。基本的には7.1chを選択しておけばOKだ

 一通りの準備が終わったので、さっそく音楽を聴いてみた。クラシックや女性ボーカルを再生してみたが、その音はフラットなバランスのクセのない音色で、細かな音の再現もしっかりしているし、力強い音もきちんと出しながら、弱音も埋もれずに聴こえてくる。落ち着いた感触で聴きやすい音になっている。

 なお、ヘッドホン部にはマイク入力端子があり、付属のマイクを装着すれば、ヘッドセットとして使うことができる。ゲームなどの音声をサラウンドで楽しめるうえに、ゲーム中のボイスチャットなどもそのままワイヤレスで行なえるのは便利だ。このほか、充電用のUSB端子、アナログ接続用の3.5mmステレオミニ端子(ステレオミニケーブルも同梱)も備える。さらに、視聴位置がパソコンと遠い場合用に、USB延長ケーブル付きの接続ドックまで付属する。このUSB延長ケーブルは、ホームシアターで使いたい人には便利だろう。

▲操作ボタン類は片方にまとめられている

 ヘッドホンのドライバーは、50mm径のネオジウム磁石を採用したものを使っている。比較的大口径なので、低音も力強い音で再現できる。量感も豊かだが、過度に膨らみ過ぎず、低音の解像度がしっかりしているのも好ましい。なお、ヘッドホン部のワイヤレスでの連続再生時間は最大約30時間。実用上まったく不満はないだろう。

 今度はいよいよ映画ソフトの再生だ。まずは、バットマンの敵役であるジョーカーの誕生を描いたBD「ジョーカー」から。本作はドルビーアトモス仕様だが、再生はリニアPCM7.1ch出力としている。このあたりは、BD再生ソフトやOSのオーディオ設定を確認しよう。なお、パソコン側からは、USBオーディオ機器として認識されている。

 さて、「ジョーカー」の再生では、スピーカーによる7.1chサラウンドと同等とまではいかないが、前方にあるスクリーンのあたりから音が出ている感じはある。左右の音の広がりは、自宅の視聴室の120インチスクリーンと同等で、しっかりとした低音が出ることもあり、スケール感もなかなかのもの。音質的にクセがないので、声も明瞭でニュアンスの違いがよく出る。ジョーカーの笑い声に秘められた感情の変化もよく分かる。

 このほか、爆音映画であるBD「GODZZILA:KING OF MONSTERS」も見てみたが、ゴジラやキング・ギドラの重量感たっぷりの足音が充分にパワフル。そして、それぞれの咆吼も鮮明に描く。空間の広さや音に包まれるような感覚が味わえるだけでなく、前後左右に移動する音もなかなかリアル。真横の音もヘッドホンからではなく、ヘッドホンの外から音が聴こえてくる感じになる。2万円台で手に入るサラウンドヘッドホンとしては、音質的にもサラウンドの再現力としても、かなりの実力だと思う。

 なによりありがたいのは、ワイヤレスの軽快さだ。途中で席を離れるときもヘッドホンを外す必要がなく、隣りの部屋くらいならば音も途切れない。座って見ていても、案外接続ケーブルは邪魔に感じるので、実に気軽だ。ヘッドホン自体も軽量だが、厚みのあるイヤーパッドは弾力も適度でよくフィットし、ソフトレザーの表皮は肌触りもよく、長時間装着していても不快さはほとんどない。

プライベートルーム用のホームシアター入門機として最適なモデル

 場所を取らず、大音量による迷惑もないヘッドホンは、身近なオーディオ機器として大人気だし、ヘッドホンで映画を見ている人も少なくないだろう。SXFI THEATERならば、高精度なバーチャルサラウンド機能で、映画やゲームのサラウンド音声も臨場感たっぷりに楽しめる。音楽再生を自然な音場感で楽しめるのも魅力だが、やはり個人用のホームシアターが欲しいという人に一番、おススメしたい製品だ。