吉祥寺においしいイタリアンのお店があると聞いて休日ランチに出かけた帰り、なんだかいい音がしていたのでオーディオユニオンをのぞいてみたら、見たことのあるスピーカーが……。なんてわけじゃないけれど、久々にダイヤトーン「DS-4NB70」の音をじっくり体験できるということで、本日午後にオーディオユニオン吉祥寺店で開催された試聴会に参加してきた。

 会場には10席ほどが準備されていたが、開始10分ほど前には既に満席。さらにイベントが進むにつれてお客さんは増え続け、最終的には大勢の立ち見がでるほどの盛況ぶり。DS-4NB70がいかに多くのオーディオファンから注目されているかがよくわかった。

 再生システムはフィダータのNASとCDプレーヤーのラックスマン「D-08u」をコードのUSB DAC「DAVE」につなぎ、そのアナログ出力をプリアンプの「L-509X」に入力してDS-4NB70をドライブしている。

 解説はお馴染み三菱電機ライフネットワークの佐藤 岳さんで、まずはダイヤトーンスピーカーの歴史が紹介された。その中では、戦後まもなく同社が製作したラジオ用スピーカーユニット「P-62F」が、高い評価を受けたことと、このP-62Fが後の「P-610」の原型になったことも語られた。これらはいわゆるロクハン(16cm)ユニットで、DS-4NB70のウーファーにもそのサイズが継承されている。

 そして一曲目に再生されたのは、Hadouk Trio(ハドゥークor アドゥーク)の民族楽器を使った演奏だ。フルートとオーボエの中間のような管楽器の美しい音色と、弦楽器の響きや低音が立体感を伴なって再現された。ディテイルの再現性や定位感は素晴らしい。

ブックシェルフスピーカー「DS-4NB70」
¥1,200,000(ペア、税別)※スタンド別売

 そしてここから、佐藤さんによるDS-4NB70のポイント紹介が行なわれた。

 第一はユニットの振動板に独自のNCV-Rを使っていること。NCV-Rはカーボンナノチューブと数種類の樹脂を配合・成形して作られたもので、樹脂素材ながら金属を凌ぐ高い伝搬速度と、適度な内部損失を併せ持っている。これにより、低音域から高音域までハイスピードでレスポンスに優れた音楽再生が可能になるそうだ。

 磁気回路にはネオジウムマグネットを使い、さらに背面のプレートに切り込みを入れる(この作業を行なうワイヤーカッターも三菱製とか)ことで渦電流をなくし、S/Nの改善を実現している。

 またDS-4NB70はブックシェルフ型だが、充分な低域を再現すべくバスレフポートにも細かな工夫を施こしている。バスレフポートは風切音をどう処理するかがポイントで、海外メーカー製品でも様々な試みがなされている。

 DS-4NB70の場合は、ポートを重みのある金属製にして共振を抑え、さらにポートの入り口と内部の2ヵ所に小さな出っ張りを設けて気流を制御することで低域の抜けを改良している。

写真で黄色く見える出っ張りが、ポート内の気流を調整しているパーツ。なお実際の製品では色は黒に変更されている

 実はこれは同社のノウハウのため公開していなかったそうだが、イベント会場でこの出っ張りは何なのかという質問が出ることもあったので、説明することにしたそうだ。佐藤さんによると、他社のバスレフポート搭載スピーカーでも効果があることも多いので、試してみてくださいとのことだった。

 なおDS-4NB70では、クロスオーバーネットワークも試聴を繰り返して仕上げたそうだ。中でもウーファー用のコイルにはファインメット芯を使い、ダイヤトーンの研究所が80年代に開発した音のいいワニスで覆うことで微細な振動まで抑制している。

 またここに使われているコンデンサーはエージングで音が変わるそうで、200時間ほど鳴らすと低音がいっそう豊かに感じられるという。試聴会の後にDS-4NB70の購入を検討しているというお客さんは、“200時間エージングしたものを売ってもらえませんか”と佐藤さんに相談していたほどだ。

 それらの効果を確認してもらうために再生されたのは、ビル・エヴァンスのヴィレッジヴァンガードでのライブや、コープランド『市民のためのファンファーレ』など。ビル・エヴァンスでは地下鉄の(といわれる)41Hzくらいの低音が聴こえるか、コープランドではディンパニの響きと制動した様子がどう聴こえるのかに来場者は耳をそばだてていたが、どちらも充分感じ取れるサウンドが再現されていた。

DS-4NB70のパーツ(一部試作時の検討部品などもあり)。iPadの横、懐中電灯の右にあるのがトゥイーターユニットを固定するための金具とのこと

 ちなみに30〜40Hzの低域を再現するには20リットルのキャビネット容量が必要だったとかで、DS-4NB70のブックシェルフの中ではやや大きめのサイズはそれも勘案して決められたそうだ。

 高域の再現性についても工夫が満載だ。そもそもトゥイーターは、音を鳴らす際に大きなエネルギーを出しており、その振動がバッフル面を共振させている。そのためトゥイーターユニットをバッフルと分離できれば、より澄んだ高音が楽しめることになる。

 そこでDS-4NB70では、トゥイーターの取り付け方法も工夫している。L字型の金具を使い、その先端にトゥイーターユニットをチタンネジ1本で固定、反対側は天板に取り付けている。こうすることでユニットをバッフル面から分離できるわけで、結果として高域のS/Nも改善されたそうだ。

 その効果はノエリア・ロディレスのピアノ曲で確認できた。力強い連打の後の余韻の再現、さらにその音がホールに広がっていく消え際までしっかり描き出していた。

三菱電機ライフネットワークの佐藤 岳さん。名人芸の語りで来場者を釘付けにしていた

 ここまではすべてCDからのリッピング(44.1kHz/16ビット)だったが、次は96kHz/24ビットの玉置浩二『メロディ』と、弊社が発売しているDSD 11,2MHz音源から『ロイヤル・バレエ・ガラ』が再生された。

 どちらもハイレゾらしい自然な高域の伸びがあり、CDクォリティと比べて、音場全体が緻密でひとまわり大きくなったような印象を受ける。ソースの情報が豊かになったことを、DS-4NB70が素直に反映してみせたのだろう。

 もうひとつ、1973年のFM放送をエアチェックしたオープンリールテープからDSD 5.6MHzに変換した貴重な素材も再生された。テープヒスはわずかにあるが、とても40年近く前のラジオ放送とは思えない。指揮者(カラヤン)がタクトを上げた瞬間に、会場全体に静かな緊張が走る、そんな雰囲気まで感じ取ることができた。

 その後は、ライブの演奏中に救急車や蝉の声などの予想外の音が入り込んでしまった音がどのように聴こえるか、あるいはヴァイオリンの名演奏、そして日本の名曲などを堪能して試聴会は終了となった。

会場となったオーディオユニオン吉祥寺店
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-24 電話番号0422-23-3521

 DS-4NB70は発売から既に2年が経過しているが、先述のようにエージングが進んだことで登場時以上のパフォーマンスを楽しめるようになっている。さらに再生ソースの進化を忠実に再現する力を備えていることもあり、今ハイレゾを楽しむのに最適といっても過言ではない。

 個人的には大画面8Kテレビの両脇にDS-4NB70を置いて、絵と音の共演を楽しんでみたいと思った。きっと抜群の没入感体験ができることだろう。(取材・文:泉 哲也)