ハイレゾ音楽制作レーベルのUNAMAS Labelから、HOA(High Order Ambisonics)によるアルバム『PIANO Pieces』(UNAHQ 2016)が2月1日 にリリースされる。e-onkyoなどのダウンロードサイトでの販売で、まずは96kHz/24ビットのリニアPCM /2chで登場し、その後順次MQAやDSAD11.2MHz、Ambisonics(アンビソニック)のフォーマットでリリースされる予定だ。

『PIANO Pieces』(UNAHQ 2016)
96kHz/24ビット/2ch版 ¥3,000(税別、2月1日発売)
MQA版 ¥3,000(税別、3月21日発売)
DSD11.2MHz版 ¥4,500(税別、3月21日発売)
Ambisonics 7th Order 64ch版 (3月21日以降を予定)
※Ambisonics版には無料再生用ソフトを準備(マック、ウィンドウズ)

 HOAはイマーシブ立体音響のひとつで、従来のチャンネルベースのミックスとは異なり、シーンベースという再現方式で最大64chのサラウンド空間を作成、リスナーの再生環境に応じてヘッドフォンから2chステレオ、5.1ch、11.1chなど多様な環境でサラウンドを楽しめるのが特徴となっている。

 そのアンビソニックでは、4軸の方向情報を持った1st Order(4ch)に始まり、2nd(9ch)、3rd(16ch)と細分化され、最近は7th Order(64ch)という高次(ハイオーダー)アンビソニックが登場しているそうだ。

 ちなみにch(チャンネル)とは再生するスピーカーの数ではなく、様々な音源位置を再現する場合に基準となる空間のポイントのようなイメージで、7th Order(64ch)になるときわめてリアルなイマーシブ音場が再現できるのだという。

アンビソニックの再生では、チャンネルという概念で空間を埋めていく。その数が多い方がより緻密でリアルな立体音響を再現できることになる

 今回リリースされる『PIANO Pieces』は、音楽家、作曲家、そしてmarimoRECORDSの代表でもある江夏正晃氏が長年温めてきたピアノ小品22曲をアンビソニックでミックスしたアルバムで、しかもすべての楽曲が96kHz/24ビットのハイレゾで制作されている点も世界初となる。

 アンビソニックでの制作、再生についてはフリーソフトもあり、ハイレゾにも対応可能なので、その意味では取り組みやすい方式になっているようだ。またUNAMAS Labelの代表Mick Sawaguchi氏によると、これまでのチャンネルベースの作品に必要なマイキング録音には経験が必要なのに比べ、イマーシブでのミックスは自分のアイデアで360度に展開できるので、製作側も取り組みやすいという。

UNAMAS Labelの代表Mick Sawaguchi氏と、音楽家・作曲家の江夏正晃氏

 なお江夏氏によると、今回はコンピューターでシミュレートしたピアノの演奏やバイオリンの生録など様々な音素材を、空間に直感的に配置していくイメージでミックスを進めたと話していた。その際は、空間に音を配置するために、ヘッドトラッカーと呼ばれるツールを使って音の軌跡を指示したという。

 発表会でそのサウンドを聴かせてもらった。再生プレーヤーはMacBook Proで動作し、それをRMEのD/Aコンバーターを通した後、ジェネレックの「The Ones」スピーカーによる7.2.4で鳴らすというものだ。

発表会では、ジェネレックの7.2.4システムでイマーシブサウンドを再生していた

 2chエンコード素材と64chのアンビソニックコンテンツが再生されたが、音の広がり、包囲感がまったく違うのは当然として、同じ音源でも音色まで変わって聴こえたのに驚いた。さらにピアノでもスタンウェイ、ベーゼンドルファー、ヤマハの音色の違いもアンビソニックできちんと描き分けられていた。

 江夏氏は、「アンビソニックはまだ入り口に過ぎないですが、最初の一歩を踏み出せたのは光栄です」と話していたが、確かにこの方式でのイマーシブ再生はシステムの自由度も高く、家庭で気軽に音楽を体験する方式として今後大きな期待ができそうだ。

アンビソニックでエンコードされた音源を、どんなシステムで再生するかはプレーヤー/デコーダー側で指定できる。写真は7.1.4を選んだ状態とのこと

空間のどの位置に音が配置されているかを視覚的に表示したもの。グラフの楕円は地球儀のように360度空間を展開したものと考えていい