これは凄い、近未来はイマーシブサラウンド(立体サラウンド)が、必ずや2chに取って代わると、確信させられたのが、WYNNホテルのスウィートに陣を構えるドルビーが、デモンストレーションした「Dolby Atmos Music」。ひじょうに感動的だ。

 ソニーの360 Reality Audioが登場し、にわかにイマーシブサラウンドへの関心が高まっている。しかし、このデモを聞くまで、Dolby Atmos Musicがこれほど急成長しているとは、知らなかった。ユニバーサル・ミュージックが熱心に取り組み、ワーナー・ミュージック、ソニー・ミュージックも加わり、すでに全世界で数千曲がリリースされている。

 デリバリーも高音質音楽配信サービスAmazon Music HDがすでにスタートし、海外ではアーチストが設立した同じく高音質音楽配信サービスTIDALも対応楽曲を2020年中にリリース予定だ。Dolby Atmos Musicというブランドは今回CESで発表された。

WYNNホテルのDolbyブースでの「Dolby Atmos Music」シアター

 Dolby Atmos Musicで、たいへん面白いのは当初、ドルビーはまったく関与していなかったことだ。Dolby Atmosは約10年前に、映画のイマーシブサラウンドとしてスタートした。映画館、ホームシアター、テレビ、スマホなどで幅広く展開しているが、あくまでもコンテンツが映画、もしくは一部の音楽映像に限られていた。

 ところが今から5年前に、エルトン・ジョンのミキサー・エンジニアのグレッグ・ペニー氏がスタジオにあったDolby Atmosの制作ツール(プロ・ロジックのような有名DAWのプラグイン)を使い、『ロケット・マン』のDolby Atmos版を制作し、関係者に披露したところ、たいへんな感動を受けたという声が続出した。

 それはどんな音か。ドルビーブースの、デノンのAVセンターやFOCALのスピーカーを用いた7.1.4のDolby Atmos Musicシアターで、当の『ロケット・マン』のDolby Atmos版を聴いた。確かに、たいへん素晴らしい臨場感であった。

 エルトン・ジョンの声はきちっと前方センターに定位し、上部とサイドにコーラスが歌い、ピアノは前方右に定位する。まさに半円球の立体音場の中に、私がいて、エルトン・ジョンの世界観に包まれるという雰囲気だ。大事なことは、オリジナルの音楽的コンセプトをそのままキープし、イマーシブ化していることだ。もともとのマルチトラックをイマーシブ空間にセンスよく解き放っている。

新しいDolbyロゴ

 次にユニバーサル・ミュージックは、ジョージ・マーチンの息子のジャイルズ・マーチンに委嘱し、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandの50周年記念としてDolby Atmos Music化を行なった。

 それをアメリカのある都市のドルビーシネマ劇場で映像なしのイマーシブサラウンド空間で再生したところ、客がみんな泣いて劇場を出てきた。それがユニバーサル・ミュージックが、本格的にDolby Atmos Musicをリリースしようと判断した根拠だった。その後、ワーナー・ミュージック、ソニー・ミュージックも陣営に加わった。

 そもそもレコード会社は償却済みカタログ作品の活性化が、実は大きな収益機会であり、ストック作品に技術革新で再度、脚光を浴びせられれば大成功だ。Dolby Atmos Musicはその意味で、望ましい新ソリューションなのだ。

 でも、イマーシブな音源があっても、これまでは伝送手段がブルーレイぐらいしかなかった。そこに登場したのがAmazon Music HD。Amazonはイマーシブサラウンドにひじょうに熱心で、すでにソニーの360 Reality Audioも1000曲をハードが登場する前に早くも、ストリーミング可能にした。Dolby Atmos Musicにも前のめりで取り組み、現在、3大レーベルで数千曲が聴取可能だ。

旧ロゴ

 ではDolby Atmos Musicはどうやって聴くか。Dolbyブースでの試聴でもデノンのAVセンターが使われていたが、Amazon Music HDアプリ入りのAVセンターは、はじめからDolby Atmos対応だから、話が早い。

 もうひとつAmazonのスマートスピーカー上位モデル「Echo Studio」で聴くのは気楽だ。ブースで聴いたが、スマートスピーカーから響きが厚く拡がり、部屋での聴取位置を選ばない。音質の最高スペックは96kHz/24ビットとのことだ。

 説明員にソニーの360Reality Audioをどう思うか? を聞いてみた。「よく質問されますが、Dolbyにとってソニーさんはものすごく大事なお客さんです。なので360 Reality Audioにもぜひ成功してもらいたい。それとは別に、これから環境を形成される360 Reality Audioと違い、Dolby Atmos Musicはすでにスタジオの音声制作のワークフローに組み込まれており、追加での機器導入が必要ないのが強みですね」。

Amazonのスマートスピーカー「Echo Studio」で聴くDolby Atmos Musicは心地好い