オーディオ・エンジニアリングの本質とは何か。それは「設計者が自ら目指す音を明確にし、その目標に向けて徹底的に聴き込み、判断すること」にある。その見事な事例として称揚したいのが、デノンSX1 LIMITED(リミテッド)シリーズだ。

 そもそもこのシリーズは、製品化を目的に開発されたものではない。2015年にデノンのサウンドマネージャーに就任した山内慎一さんが、自身が掲げる音の指標「Vivid & Spacious(ヴィヴィッド&スペイシャス)」とは具体的にどういうことか、それを経営陣に示すために同社フラッグシップ機DCD-SX1(SACD/CDプレーヤー)とPMA-SX1(プリメインアンプ)のプラットフォーム(基本回路と主要デバイス)はそのままに、パーツや構造を徹底的に吟味し、自ら求める音に仕上げた実験モデルだったのだ。

 数度のデモンストレーションを体験した経営陣はその音に唸り、これを習作として終わらせるのはもったいない、広く世に問うことでデノンのブランド・イメージを高め、この感動を多くのオーディオファイルと共有したいということになり、4年という長い時間をかけて製品化されたのだそうだ。今どきこんな話は聞いたことがない。オーディオ専業メーカーならではの美談と言っていいのではないだろうか。

 山内さんが掲げた音の指標「ヴィヴィッド&スペイシャス」とは「音楽をイキイキと闊達に描写し、空間再現性に意を注ぐこと」と解していいだろう。それを成就させるためにまず注力したのがカスタム・コンデンサーの採用。リミテッド・シリーズ用に新規開発したもののほか、山内さんのデビュー作NEシリーズ時に用いたものを含め、37種類のカスタム・コンデンサーがこの両モデルに採用されたという。また筐体や脚周りにも新たな素材が採用された。音質検討の末、両モデルの天板とフットにはあのゼロ戦に使用された超々ジュラルミン、いわゆる航空機グレードのアルミニウム合金が用いられている。

 DCD-SX1リミテッドは、リッドやトレイにアルミダイキャストを用いてオリジナル機以上に制振対策を徹底したほか、いっそうのジッター低減を果たすため超低位相ノイズ水晶発振器を採用、オリジナル機に比べて10 dBの位相ノイズ低減を実現したという。PMA-SX1リミテッドについてはコンデンサーと上記天板とフット以外に大きな変更はないが、ワイヤリングや緩衝材の配置など、音を聴きながら時間をかけて最適化を図ったという。

価格アップは「仕方ない」
申し分なしの実力派

 HiVi視聴室にSACD/CDプレーヤー、プリメインアンプともに旧モデルとリミテッド・モデルを用意してもらい、それぞれの音がどう違うか比較検討してみた。まずアンプをPMA-SX1(旧モデル)に固定、DCD-SX1(旧モデル)とDCD-SX1リミテッド(新モデル)を聴き比べてみる。条件を揃えるために両モデルともに付属電源ケーブルを用いてPMA-SX1とバランス接続、「ピュアダイレクト」モードに設定した(スピーカーはモニターオーディオPL300Ⅱ)。

 聴き馴染んだSACD、CDを次々に再生してみたが、すべてのディスクで新DCD-SX1リミテッドのほうが断然よかった。音楽によっては旧モデルのほうが好ましいケースがあるかも? との事前の予想は大きくはずれた。値段はリミテッドが20万円高いが、この音の違いを体験すると「仕方ない」と言うほかない。ではいったい何が違うか。リミテッドは旧モデル以上に音像を陰影深く描写し、リアリスティックなステレオイメージを提示してみせるのである。

 たとえば最近お気に入りのスウェーデンの5人組コーラス ザ・リアル・グループのアカペラを聴くと、リミテッドは旧モデル以上にステレオフォニックな音の広がりを訴求し、眼前に5人のシンガーがずらりと並んで歌っているようなイメージが感得できる。旧SX1で少し気になった男声のざらつきも雲散霧消、シルキーななめらかさでハーモニーの美しさを堪能した。

 次にDCD-SX1リミテッドを使ってアンプの新旧比較を。プレーヤーよりは音質差は小さかったが、それでも20万円高いPMA-SX1リミテッドの魅力は明らかだった。最大の違いは低域の解像感。リミテッドはコントラバスやエレキベース、キックドラムを旧モデル以上に澄明に描写し、ヴェールを一枚はがしたかのような透明感あふれるサウンドステージを提示するのである。最後にパイオニアUDP-LX800のアナログ音声出力をつないで映画UHDブルーレイ『ロケットマン』を観てみたが、ダイアローグの安定感、環境音の音数の多さが際立っていた。価格を越えた実力派アンプであることは間違いないだろう。

PMA-SX1 LIMITED(左)/DCD-SX1 LIMITED(右)

DENON
INTEGRAATED AMPLIFIER
PMA-SX1 LIMITED
¥780,000+税

●定格出力:50W×2(8Ω)、100W×2(4Ω)
●出力端子:アナログ音声入力6系統(XLR、RCA×5)、フォノ2系統(MM/MC) 他
●寸法/質量:W434×H181×D504mm/29.5kg

SACD/CD PLAYER
DCD-SX1 LIMITED
¥750,000+税

●再生可能メディア:CD、SACD
●接続端子:アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、 デジタル音声出力2系統(同軸、光)、デジタル音声入力4系統(同軸、光、USBタイプA、USBタイプB) 他
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数(USBタイプB):〜192KHz/24ビット(PCM)、〜5.6MHz/1ビット(DSD)
●寸法/質量:W434×H149×D406mm/23.5kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオ
      お客様相談センター TEL. 0570(666)112

従来機同様の構成をとるPMA-SX1 LIMITED。EXT PRE=プリアンプ部のバイパスポジションでAVシステムとの融合もスムーズに行なえるなど、シンプルながら本誌読者にも優しい機能を持つ

「LIMITED」バージョンでは、従来機と機能面での差は設けられていない。DCD-SX1はUSB DAC機能を持っており、5.6MHzのDSD信号や192kHz/24ビットのPCM信号に対応することも従来通り

製品外部では、脚と天板が変更され、A7075(超々ジュラルミン)が採用された。アルミを主体とする合金で高い剛性を持っている

LIMITED版の要所に使われた「S.Yコンデンサー」。あまりの出来のよさから、自身の頭文字(Shinichi Yamauchi)をつけてしまったのだという

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