秋山 真(あきやま まこと)さんは、ロスアンジェルスのPHL(Panasonic Hollywood Lab.)でシニア・コンプレッショニストとして活躍、帰国後も映像制作に携わりながら専門誌等で原稿執筆もこなすオーディオビジュアル界期待の新人だ。HiVi誌で仕事をともにして以来ぼくは親しくさせてもらっており、何度かうちに遊びに来てきてくれたこともある。話してみると、中学生の頃からHiVi誌を愛読していたそうで、映像制作のプロでありながら筋金入りのマニアでもあることもわかった。わが家のJVCプロジェクター「DLA-V9R」に新しいファームウェア「Frame Adapt HDR」を実装してその驚くべき画質改善効果を目にし、まず考えたのが「そうだ、秋山さんにこの映像を観てもらおう」ということだった。そしてお声がけして実現したのがこの企画。HDRとプロジェクター大画面にご興味のある方はぜひじっくりとお読みください。(山本浩司)

左から秋山さん、JVCの那須さん、山本さん。いずれ劣らぬ高画質愛好家が揃い、ディープな議論を展開した

山本 今回はJVCプロジェクターの新機能「Frame Adapt HDR」の効果を、わが家のDLA-V9Rを使って検証してみたいと思います。

 Frame Adapt HDRは10月中旬に行なわれたファームウェア・アップデートで実装された、HDR10コンテンツを高品位に再生するための機能です。その効果が実にすばらしく、これはぜひ一度秋山さんにご覧いただきたいと考えました。

 アップデートの前は、DLA-V9Rに内蔵された「オートトーンマッピング」機能を使っていました。こちらはUHDブルーレイのマスタリング・メタデータからMaxCLL(コンテンツの明るさの最大値)とMaxFALL(フレームごとの平均最大輝度)を参照し、最適な輝度と階調を導き出すという機能です。

 しかしながらメタデータが記録されていないディスクはけっこう多いし、メタデータが入っていたとしても、それが本当に正しい値なのか疑わしいケースもありました。そのためメタデータ依存だけでHDR再生の最適解を得るのは難しいという感触を持っていたのです。

 ぼくの部屋はスクリーンの対向面に65インチの有機ELテレビを置いていますが、この自発光ディスプレイで観るHDRと比較すると、ピーク輝度の低いプロジェクターでHDRを再生するのは難しいなぁと言わざるを得ず、場合によってはSDR変換して観たほうがしっくりくる感じでした。

 それくらいプロジェクターのHDR再生には懐疑的だったのですが、Frame Adapt HDRを試してみてその劇的改善効果にガクゼンとし、秋山さんとじっくりこの成果について語り合ってみたかったのです。今日はJVCケンウッドでプロジェクターの企画を担当している那須さんにもご同席いただきました。

秋山 ぼくも一人のAVファンとして、また映像制作に関わる者としてFrame Adapt HDRには強い興味を抱いていました。今日はお招きいただいて、ありがとうございます。

JVCの画期的機能「Frame Adapt HDR」とは

D-ILAプロジェクター JVC DLA-X9R ¥2,000,000(税別)

●投写デバイス:0.69型D-ILA
●パネル解像度:水平4096×垂直2160画素
●表示解像度:水平8192×垂直4320画素(8K e-shift)
●レンズ:2倍電動ズーム(オールガラス口径100mm)
●レンジシフト:上下100%、左右43%
●明るさ:2,200ルーメン
●コントラスト:1,000,000対1(ダイナミック)
●接続端子:HDMI入力2系統、3Dシンクロ端子、他
●消費電力:400W(エコモード待機時0.3W)
●寸法/質量:W500×H234×D518mm/21.8kg

 「Frame Adapt HDR」は、今年10月に実施された無償ファームウェアアップデートで、同社のD-ILAプロジェクター「DLA-V9R」「DLA-V7」「DLA-V5」の3モデルに追加された機能(画質モード)だ。

 UHDブルーレイなどのHDR10コンテンツを再生する際に、プロジェクターではピーク輝度が低く、コントラストレンジの狭い映像になってしまうことも多かった。Frame Adapt HDRでは、入力されたHDR10コンテンツの映像を独自のアルゴリズムでリアルタイムに解析、プロジェクターでの映像投写に最適なトーンマッピングを加えて再生する。

 その効果は本文で山本さんと秋山さんが紹介してくれている通り。ファームウェアアップデートの方法は以下の関連サイトで紹介されているので、対応プロジェクターのユーザーは今すぐチェックを!(編集部)

山本 では、UHDブルーレイのHDR10コンテンツを観ていきましょう。プレーヤーはパイオニア「UDP-LX800」を使い、HDMIセパレート出力端子から映像・音声信号をダイレクトにプロジェクターのV9RとAVセンターのデノン「AVC-X8500H」に入力しています。

 最初は『ゲット・アウト』。チャプター(以下Ch)7の主人公の黒人青年が薄暗い寝室から外に出て煙草を吸うシーンを再生します。まずDLA-V9Rの「画質モード」を《HDR10》にセットし、オートトーンマッピング機能を働かせた状態で再生します。

秋山 これはプロジェクターにはかなり厳しい映像ですね。『ハリー・ポッター』シリーズもそうですが、こういった平均輝度レベルの低いシーンが連続するコンテンツは、映画館の環境でもきちんと再生するのは難しい。

山本 そうですね。ドルビーシネマくらいでしょう、こんな映像をこなせるのは。では「画質モード」を《Frame Adapt HDR》に変えて、同じシーンを見比べましょう。「HDR Level」設定は《オート》です。

那須 《Frame Adapt HDR》では、最初にコンテンツに最適なガンマカーブを決め、その上でフレームごとに補正を加えていきます。「HDR Level」を《オート》設定していただければ、MaxCLLを参照して《高》《中》《低》の3つのポジションから自動的に選ばれます。

 《高》《中》《低》は入力された画面の明るさに対応していて、MaxCLLが600nit以下は《高》、600〜2,000nitは《中》、2,000nit以上は《低》に切り替えます。このディスクはMaxCLLが627nitですので、「HDR Level」は《中》になっているはずです。

秋山 メタデータが入っていない場合はどうなるのでしょう?

那須 「HDR Level」が《オート》になっていれば、自動的に《中》に設定されます。

秋山 なるほど。「画質モード」を《Frame Adapt HDR》にすると、たしかに画面の見晴らしがまったく違いますね。比較すると《HDR10》は目が疲れる感じがします。見えないものを脳内で補正しようとしているからかな。

DLA-V9Rの調整メニュー。「画質モード」で《Frame Adapt HDR》を選べば、HDR10コンテンツを最適な画調で再生してくれる。違和感がある場合は、右の写真のように「HDR Level」を切り替えてみるといいだろう

山本 若い黒人男性の肌の艶やかな質感も、《HDR10》モードではここまでは再現できていませんでした。暗く沈んでいた絨毯の赤も浮き立って見えますね。

 JVCのD-ILAプロジェクターは、以前から黒の黒らしさで他社製品を凌駕する魅力を持っていましたが、Frame Adapt HDRを実装したDLA-V9Rは、その美点を引き継ぎつつ暗部の階調を精妙に見せながら色合いの豊かさを訴求しています。

秋山 メタデータを見ると、このディスクはピーク輝度1000nitのマスターモニターを使ってグレーディングしているようですが、暗部に関しては絶対に《Frame Adapt HDR》モードのように見えることをイメージして作っているはずなんです。

 色味も《HDR10》モードだとアンバー寄りだったけど、《Frame Adapt HDR》ではすっきりして抜けも格段によくなります。

山本 屋外のシーンでは、夜闇に浮かぶ建物のディテイルがきめ細かく描写されるので、立体感が出てきますね

秋山 そうですね。こういったシーンは《Frame Adapt HDR》モードじゃないと辛い。何が写っているのかわからなくなってしまう。

山本 では続いて『マリアンヌ』をご覧いただきましょう。これも厳しいディスクで、少し前まではプロジェクターで見るのは難しいと感じていた作品ですが、《Frame Adapt HDR》で見ると、じつは暗部の見通しが有機ELテレビよりもよかったりするんですよ。

秋山 そうですか、それは驚きです。このディスクはメタデータが記録されていない、本当にプロジェクター泣かせのコンテンツですからね。

那須 弊社ではパナソニックさんとの協業で、UHDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」用の専用カラープロファイルを作りましたが、その時にも『マリアンヌ』をチェック用に使いました。その際にカラープロファイルを追い込むことで映像の質感ががらっと変わることに感動したんです。その効果を他のプレーヤーでも再現できないかと考えたのがFrame Adapt HDR誕生のきっかけでした。

秋山 ぼくも初めてUB9000とDLA-V9Rを組み合わせた映像を見たときに、大画面でのHDR映像に対する考えが変わりました。それくらいの衝撃がありましたね。

UHDブルーレイプレーヤーにはパイオニア「UDP-LX800」(写真上側)を使っている。AVセンターはデノン「AVC-X8500H」(写真下)という豪華な組み合わせ

山本 では、Ch2から再生します。夜のモロッコの街並みを写したシーンから始まりますが、DLA-V9Rはプロジェクターとしての基礎体力が高いので、このあたりの映像は《HDR10》モードでもそれなりに見せてくれますね。

秋山 薄暗い印象にはなりますが、時代背景を考えればこの絵も味があっていいと思います。このUHDブルーレイを普通に観ていたらこういった画調の作品だと思うのではないでしょうか。街灯も少なく、薄明かりで、当時はこういった環境で生活していたんだろうなぁと思わせてくれます。

山本 第二次世界大戦中のモロッコが舞台だからね。では《Frame Adapt HDR》モードにしてみましょう。

秋山 街灯の輝き方がヴィヴィッドになって、映像全体のフォーカスが上がったような映像になりますね。これは驚いた。

山本 そうなんですよ。不思議なことにスキントーンの緑被りも少なくなって、より好ましいホワイトバランスに近づきます。続いてCh11の空襲のシーンを再生します。

秋山 ここは、《Frame Adapt HDR》ではかなり明るくなりますね。でも、なんだか夜じゃないみたいです。本当にこれでいいのかなぁ。

山本 このディスクはメタデータが記録されていないので、「HDR Level」は自動的に《中》にセットされています。それが合っていないのかもしれない。

那須 このシーンは弊社のシアターで確認した時はちょうどよかったのですが、この環境で見ると確かに明る過ぎる感じですね。スクリーンが違うのも一因かもしれません。「HDR Level」を《低》にしてみていただけますか。

秋山 「HDR Level」=《低》にしたら、落ち着いたいいバランスになりました。そもそもこのディスクのようにデータが入っていない作品は「HDR Level」の設定を目視で再確認する必要がありますね。

那須 ところで、素朴な疑問ですが、メタデータの輝度情報はどのように記録しているのでしょう?

40代にしてHiVi読者歴が25年以上という秋山さん。現在はオーディオビジュアル関連の執筆活動の他に、パッケージメディアや配信コンテンツの画質監修も手がけている

秋山 ドルビービジョンやHDR10+などのダイナミックメタデータが必要なディスクでは当然正確な値が入っています。しかし、HDR10では映画会社によって扱いがバラバラで、オーサリング時に実際とは異なる値を入れたり、ブランクにすることもあるようです。

 むしろアップルTVなどの配信の方が、UHDブルーレイと同じ作品でも、ちゃんとしたメタデータが入っているんですよ。

山本 しかし、このシーンの画質改善度合いは圧倒的ですね。薄暗い屋外にいる女性の赤い服や、軍服のカーキ色などがくっきりと浮かび上がってくるし、夜闇の雲にもちゃんとグラデーションがある。

秋山 何より凄いのは、こういった処理を加えても画面がノイジーにならないことです。低〜中輝度部分を上げると一緒にノイズも持ち上がってきそうなものですが、そうなっていない。

那須 《Frame Adapt HDR》モードでは電気的にエンハンスをかけているのではなく、元からある情報のガンマの立て方、PQカーブのクリップポイントとニーポイントをアクティブに動かしているだけなので、弊害が少ないのです。

山本 18ビット階調で映像処理している恩恵もありますよね。

那須 12ビットか18ビットかは、DLA-V9Rのガンマ機能とカラープロファイル機能のどちらを使っているかの違いになります。ガンマ機能は歴代モデルのシステムを継承していて、12ビットでガンマ2.2乗をベースに、ノンリニアでしか処理できないのです。それに対し、カラープロファイル機能は色だけでなくガンマカーブの処理もできます。《Frame Adapt HDR》ではこちらを使って18ビット処理を行なっています。

山本 ここで、DLA-V9RとUB9000を連携した場合の映像もチェックしてみましょう。同じく『マリアンヌ』のCh11を再生します。UB9000側で《ベーシックな輝度のプロジェクター》を選んで、DLA-V9Rのカラープロファイルを《Pana_PQ_BL》にします。

秋山 こうして比較してみると、こちらは落ち着いたリファレンス調ですよね。《Frame Adapt HDR》ほど劇的な変化ではないですが、ぼくにとっての大画面HDRの原点はこの映像かなと思います。この印象が強かったので、初めて《Frame Adapt HDR》の映像を見たときは、少し違和感があったのです。

山本 それくらい《Frame Adapt HDR》モードの絵は攻めているということですね。

(株)JVCケンウッド メディア事業部 ソリューションビジネスユニット プロジェクト・マネジメント部 プロジェクト2G(プロジェクター商品開発担当)の那須洋人さん

那須 Frame Adapt HDRの「HDR Level」を《高》にした時はかなり明るい方向に振っているので、その状態で60インチ前後のスクリーンに投写すると、直視型と同等の明るさに感じられるはずです。

秋山 UHDブルーレイのHDRコンテンツは基本的に直視型モニターでグレーディング作業をします。一方のプロジェクターのHDR再生は、一般的には100インチ前後でピーク輝度200~300nitくらいでしょう。

 そのギャップを埋めるための方法として、ひとつにはプロジェクター自体の光量を上げるということもあるかと思いますが、ホームシアターでそれをやると部屋自体が反射光で明るくなってしまって、完全に逆効果なんです。やはり現実問題としてプロジェクターは限られた明るさの中で勝負しなくてはならない。言い換えれば、絶対値であるPQカーブの呪縛から解き放たれなくてはならない。

 JVCとパナソニックの連携機能はそこに踏み込んだ提案だったのですが、今回のFrame Adapt HDRはさらにその先を行っています。山本さんが“有機ELテレビを超えた”とおっしゃる気持ちもわかりますね。

山本 そのあたりは、“HDRらしさ”をどう捉えるかにもよるでしょうけど。

秋山 UB9000とDLA-V9Rの連携は、おかしなHDRの絵が出ないようにSDRの延長線上で絵づくりをしている、そんな気もします。暗部階調も出るべき所はちゃんと出てくるといった、そういったモニターライクな部分に徹しています。

 一方のFrame Adapt HDRは、もっと積極的にプロジェクターでHDR効果を楽しむためのアプローチだと思います。「HDR Level」がうまくハマった時の立体感、説得力は凄いですね。

山本 Frame Adapt HDR機能を外販して、どこかのメーカーに採用してもらいましょうよ。

那須 ご依頼いただければ、検討したいです(笑)。

山本邸に新たに導入された光変換HDMIケーブル、FIBBR「Pure2」。10mの定価は¥70,000(税別)

山本 ところで、つい先日HDMIケーブルをFIBBRの光変換ケーブル「Pure 2」(10m)に変えました。以前使っていた同じ長さのメタルケーブルよりも輝度ピークが上がり、コントラストがついてきたように思います。

秋山 光変換ケーブルは変換素子の精度が重要だと思いますが、そこがしっかりしているのでしょう。粗悪な光変換ケーブルだと絵がパキパキになってしまいます。

山本 今回は3種類のラインナップのうちトップモデルを使っていますが、秋山さんがおっしゃる通り、最大の違いは光変換素子のグレードです。

秋山 ぼくの自宅は55インチの有機ELテレビなのですが、1.5mの光変換ケーブルを使っています。短尺でも如実に画質がよくなるのでお薦めです。FIBBRは2mのラインナップもあるようですから、直視型テレビを使っている方も要注目ですね。

山本 では次にMaxFALL=13nitとデータ表示される、驚きのUHDブルーレイ『グリーンブック』(米国盤)を見てみましょう。

秋山 この数値はデタラメだと思いますが、DLA-V9Rの「オートトーンマッピング」はこういったデータが入ってきた場合はどう対応するのでしょうか?

那須 いや、データを信じて真面目に動作します(笑)。

秋山 《Frame Adapt HDR》は「HDR Level」設定時にメタデータを参考にしているというお話でしたが、MaxFALLは見ていないということですか?

那須 MaxCLLを《高》《中》《低》のどのガンマカーブを基準にするかの参考にしています。実際の処理は画像情報を解析していますので、ベースのセッティングを自動的に行なうためです。

山本 《Frame Adapt HDR》モードを使う場合、繰り返しになりますが、「HDR Level」はどれがいちばんふさわしいか目視で確認した方がいいですね。

秋山 悲しいことではありますが、UHDブルーレイのHDR10メタデータはあてになりませんから、気になったら積極的に調整してもらいたい。

DLA-V9Rを導入した結果、プロジェクターによるHDRコンテンツの満足度が格段にアップしたと話す山本さん

山本 では、最近観てとても面白かった『イエスタディ』(米国盤)を再生しましょう。

那須 いいですね。ぼくの2019年ナンバーワン作品です。主人公のなんともいえない不細工さ加減がたまらない(笑)。

山本 この作品は8K撮影4K DI制作で、精細感がおそろしく高い。ぼくは東京・池袋の「グランドシネマサンシャイン」のBESTIA(ベスティア)シアターで4K上映版を見ましたが、《Frame Adapt HDR》再生すると、その劇場体験を上回る超絶画質が味わえます。

秋山 たしかに人の顔のディテイル描写など、驚きの再現です。山本邸のキレのよいシアターサウンドを組み合わせて体験させていただくと、ついにホームシアターはここまで来たか、という感慨を抱きます。

山本 次にキューブリック監督の1980年作品『シャイニング』のUHDブルーレイを見てみましょう。これはDLA-V9R限定の機能となりますが、4Kパネルの構成画素を0.5画素分斜めにズラし、それを時分割表示して8K表示する「8K e-shift」でフィルム撮りの作品を見るとすごくいいんですよ。

 フィルム素材のコンテンツをビデオプロジェクターで再生する場合、フィルムグレインとノイズのせめぎ合いをどう落とし込むかが重要です。8K e-shiftではグレインがとても細かくなるので、ノイズ感が払拭され、フィルムルックがより強調される。雪が降る屋外をシェリー・デュヴァルが歩いているシーンを観ましたが、すっきりしていて見通しがとてもいいでしょう。

秋山 下手に超解像をかけると、グレインが硬くなってノイジーな画調になってしまうんだけど、DLA-V9Rではそうならないですね。精細感だけが向上しています。

山本 『シャイニング』公開当時、何度もデュープを重ねたと思われる質のよくないフィルム上映を体験しましたが、それゆえかどうか、とても怖かった。でもUHDブルーレイを《Frame Adapt HDR》で見ると、画質がよすぎるせいか、あまり怖くないんだよね。

秋山 ジャック・ニコルソンが、ただの変顔をしたオジサンに見えてしまう(笑)。

山本 そうそう(笑)。コントみたいに見えるんだよ。

秋山 画面をもっと暗くしたほうがいいかもしれませんね。

山本 「HDR Level」を《低》にすると、たしかに『シャイニング』ならではの怖さが出てきました。

那須 このディスクのメタデータはどれくらいでしょうか?

山本 MaxCLL=1632nit、MaxFALL=114nitと表示されます。

秋山 数字がリアルだから、この値自体はデタラメではないと思います。ただしグレインか何かの一部分のピークに反応してしまって、その値がMaxCLLになっている可能性もありますね。そうしたことを防ぐために、敢えてオーサリング時に手動で数値を変えることもあるわけです。

山本 なるほど。「HDR Level」調整でだいぶ怖くなってきたけれど、SDRのほうがもっと怖く見えるんじゃないかという気もする(笑)。ホラー映画は見えそうで見えないという演出が重要ですからね。

DLA-V9Rの使いこなしポイントとして山本さんが選んでくれたのは、「8K e-shift」と「色温度」の調整だった。色温度は好みの違いも大きいので、自分の好きなトーンをじっくり探してみて欲しい

秋山 最後にUHDブルーレイのアニメ『君の名は。』を見せてもらっていいですか。このディスクの制作にはぼくも関わっているので、Frame Adapt HDRでどんな風に見えるか興味があります。

 このディスクはMaxCLLが777nitですが、本当にその明るさが出ているのは最後の彗星が落ちてくるシーンくらいなんです。グレーディングはソニーの4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」、エンコードは当時の最新有機ELテレビや液晶テレビで作業しましたので、きちんとしたHDRプロジェクター環境で見るのは初めて。まずは《HDR10》モードでお願いします。

山本 では冒頭から再生しますよ。

秋山 この作品は大元のマスターがSDRなので、《HDR10》でも違和感はありませんね。これまで有機ELテレビで繰り返して見ていますが、2次元アニメって奥行感の再現が難しいのです。しかし今日は背景がちゃんと後にあって、新海作品ならではのパースペクティブがとても自然に再現されています。

山本  スクリーンの大画面効果と反射光効果かもしれませんね。では《Frame Adapt HDR》に切り替えてみます。

秋山 なるほど、こうなるのかぁ……。全体の明るさが底上げされることで、映像に力がみなぎり、色もきちんと乗ってくる。すばらしいですね。

那須 明部に関しては、トーンマッピングする部分の色抜け防止回路を入れていますので、アニメではその効果がとりわけ大きいと思います。

山本 そこはたしかに重要ですね。色抜けの無さが色合いの豊かさに結びついていく。

スクリーンはオーエスのピュアマットIII Cinemaの110インチ。ゲインは約1.0だが、《Frame Adapt HDR》モードを選んだ状態では、明るさの不足などはまったく感じなかった

秋山 画調については、有機ELテレビで観た印象とかなり近いです。でも、悔しいことにこちらの方がもっと奥行感がある。

 フラットテレビだと、どうしても背景が手前に出てくる感じになり、平面的になってしまうのです。それが嫌で自宅では電源ケーブルの交換や、USBパワーコンディショナーなどを使って細かく対策しているんですが、それでもこんなに自然な絵にはなりません。

 いいなぁ〜。こういう絵を見るとプロジェクターが欲しくなりますね。でも、これって結構凄いことだと思うんです。制作者側は直視型ディスプレイを見ながらパッケージの絵を決めていくのですが、そうして作ったものが、プロジェクターで見た方がもっと感動できたりするんですから。

山本 大画面による没入効果は間違いなくあると思いますよ。

那須 色の密度は画面が大きくなると薄まってしまいますから、DLA-V9RでHDR再生する場合、100〜120インチくらいがちょうどいいのかなという気もしています。

秋山 いずれにしても、スクリーンでHDRを見る落としどころとして《Frame Adapt HDR》は最適解ですね。以前はとにかく画面の明るさがないと駄目という考え方でしたが、発想を転換したことで、ついに長いトンネルを抜けたと思います。

山本 わが家のスクリーンはオーエスの「ピュアマットIII Cinema」で、110インチ/16:9です。ゲインは1.0ですから、決してハイゲインタイプではありません。実はHDR再生用にハイゲイン・スクリーンに交換しようかと考えていたのですが、Frame Adapt HDRの絵を見てからそんな気持ちはなくなりました。

 今回はファームウェア・アップデートという扱いでしたが、Frame Adapt HDRはモデルチェンジにも匹敵する進化だと個人的には思っています。それくらいの恩恵が無料で手には入るのだから、JVCの「DLA-V5」「DLA-V7」「DLA-V9R」ユーザーはぜひ試していただきたいですね。

DLA-V9Rの「Frame Adapt HDR」で見る映像は、
近未来に胸が高鳴る2019年末の眼福体験をもたらした! …… 秋山 真

 マスターモニターの「BVM-X300」で、初めて4K HDR映像を観た時の衝撃は今でも忘れない。あれがぼくの4Kファーストインパクトだった。

 その後、直視型テレビはBVM-X300をお手本に目覚ましい進化を遂げていくわけだが、同時にプロジェクターの世界には長い冬の時代が到来する。そんななか発表されたJVCとパナソニックの連携機能は、まさに春の訪れともいうべき画期的なアイデアであり、ぼくにとって待ちに待った4Kセカンドインパクトとなった。

 今回のFrame Adapt HDRはその門戸を「DP-UB9000」ユーザー以外にも開放しただけでなく、HDRプロジェクションの世界をさらに一歩先へ進めようというJVCの気概を感じた。願わくば「HDR Level」を今の3段階から5段階くらいに細分化し、さらにHDR10だけでなくHLGにも対応させてくれたら最高だ。きっとファームウェア・アップデートでやってくれると信じています(笑)。

 果たしてサードインパクトを起こすのは直視型なのか、プロジェクターなのか。当然その時は4Kではなく8Kになるだろうけど、そんな近未来に胸が高鳴る2019年末の眼福体験だった。

Frame Adapt HDRで観るとひと味違う、お薦めUHDブルーレイ

『ゲット・アウト 4K ULTRA HD+Blu-rayセット
 (NBCユニバーサルGNXF-2319)¥5,990(税別)
『マリアンヌ 4K ULTRA HD+Blu-rayセット
 (NBCユニバーサルPJXF-1093)¥5,990(税別)
『グリーンブック』(米国盤)
『イエスタディ』(米国盤)
『シャイニング 北米公開版<4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ>(2枚組)
 (WHV 1000750127)¥6,345(税別)
『君の名は。Blu-ray コレクターズ・エディション4K Ultra HD Blu-ray同梱5枚組
(初回生産限定)  (東宝TBR27260D)¥12,000(税別)