オーディオ協会は12月6日に、令和元年の「音の日」式典を開催した。

 「音の日」は、トーマス・エジソンが1877年に錫箔円筒式蓄音機に音を始めて記録した日を記念して日本オーディオ協会が1994年に制定したもので、毎年それを記念した式典が行なわれている。今回の式典では先に開催された「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」の授賞式、並びに「音の日特別講演」というふたつのプログラムが実施された。

オーディオ協会 会長の小川理子氏

 冒頭、同協会 会長の小川理子氏が登壇し、「音の日」の式典について紹介してくれた。小川氏は特に「今日は、若い学生の音楽録音の表彰式も行われますが、受賞者の中には各分野のトップランナーが揃っています」と話し、これからの音楽制作の現場を担う世代への期待が大きいことを話していた。

 その「第六回 学生の制作する音楽録音作品コンテスト」は音楽録音に興味を持つ学生の個人またはグループを対象にしたもので、10月25日までに応募のあった全28作品から選考が行なわれたそうだ。その中から選ばれたのは以下の4作品だ。

優秀企画賞 「pm 04:29」(2ch/44.1kHz/16ビット)
九州大学大学院 田島俊貴さん

●受賞のコメント:今回はストリーミングに着目しました。昨今はCDよりもストリーミングの方が聴く方も簡単だし、作り手も気軽に音楽を発信できると考えました。実際にやってみて、CDとストリーミングでは音楽の仕上げも変わってくることが分かりました。聞き手の形態を意識し、目的意識を持ってコンテンツを制作する楽しみが理解できました。

優秀音楽作品賞「 Frank Martin/フルートとピアノのためのバラード」(5ch/96kHz/24ビット)
名古屋芸術大学 福井楓栞さん

●受賞のコメント:大学に入ってからサラウンドの勉強を始めました。フルートは空間が表現できる楽器だと思っていたので、それを活かした収録を考えました。ProToolsのオートメーションを使用してサラウンドを仕上げています。

優秀録音技術賞 「All That Jazz」( 5.1ch/96kHz/24ビット)
洗足学園音楽大学 岩本双葉さん

●受賞のコメント:ミュージカルを録音したいと漠然と思っていました。オーバーダビングはしないで、聴いている人がミュージカルの世界に入るような録音を考えました。LFEは1回しか使わないとか、チャンネルの鳴らし方で私なりの遊び心を入れています。この賞には毎年応募していましたが、4年生という最後の年に受賞できて光栄です。

最優秀賞 「絶滅種の側から」(5.1ch/96kHz/24ビット)
東京藝術大学大学院 田中克さん(写真手前)
東京藝術大学 増田義基さん(写真奥)

●受賞のコメント:
 ダムマニアとしての知識を活かし、ダム内部の残響の長い空間で録音をしたいと考えました。自分がダムの中で体験した強烈な残響を再現したかったのです。リバーブなしの一発録りで、事前に空洞の響きを測定して、それを踏まえて楽曲を作成してもらいました。録音は現地に足を運んで、4日間かけて録音しています。こんな音が日本で聴けるという驚きを再現したつもりです。(田中さん)

 電子音楽を生演奏で鳴らすことを前提に作曲しています。ダムの中は気温が14度くらいで、湿度は90%ほどもありますので、楽器やマイクの管理にも気を遣いました。打楽器も前もってダムの中に運び込み、湿度になれさせてから演奏しています。ダムの中だからできる音楽、響きを作ろうと、過酷な環境で頑張りました。(増田さん)

 審査員からは各作品について、「若い人がどうやって音楽を聴いているかに合わせた音楽制作の姿勢が素晴らしかった」「ソファでくつろいで楽しめる品質であり、音楽作品として素晴らしいまとまりがある」「定位やリバーブが奇想天外で、面白いことを考えると思った」「空間の響きと音楽は不可分であるという発想を持った、凄い作品だと思う」など、若い層の熱意や発想力に対して高い賞賛が贈られていた。

授賞式に続いて「オーディオの未来を語る」と題したトークショウも行なわれた