VRの普及などもあり、さまざまなメーカーから発売されているウェアラブルディスプレイ。VRというとゲームやエンタメの世界のものと思いがちだが、実はビジネスの現場でも注目を集めている。例えば工事現場など、資料などのチェックのためにいちいちスマホの画面や外部のディスプレイを見るのは、場所によっては危険なことをある。作業を続けながら、手軽に資料を確認したいというニーズは、さまざまな仕事の現場で生じている。

 肉眼での視界をある程度確保しつつ、そのまま資料やメールのチェックなどができるウェアラブルディスプレイは、作業の効率化や安全確保などでも有用性が認識され、各社がさまざまな製品を開発している。

 そんなビジネス向けのウェアラブルディスプレイも、さまざまなメーカーから発売されているが、ここで紹介するENHANLABOの「b.g.(beyond glasses)」はちょっとユニークだ。というのも、ENHANLABOは有名なメガネメーカーであるメガネスーパーのグループ会社なのだ。メガネのことを知り尽くした会社が作ったウェアラブルディスプレイというわけだ。

▲表示デバイス部分。ビジネス用ということもあり、かなり武骨なデザイン

▲表示デバイス部分をひっくり返したところ。真ん中にある鼻当てが便利

 まずはb.g.の概要を紹介しよう。表示パネルは1/2インチの有機ELパネルを2枚使い、、解像度は1280×720(16:9)となっている。質量は約130g(フレーム約10g、ケーブル約75gを含む)と、かなり軽量だ。実際のところ、細身のすっきりとしたフレームに、表示デバイスが取り付けられたシンプルなデザインとなっている。一般的なゴーグルタイプのウェアラブルディスプレイとはかなり見た目が異なる。これは、屋外などでも使えるように視界を塞がないための設計だ。b.g.の最大の特徴は自然な見え方とかけ心地の良さだという。さすがはメガネ屋さんの作るウェアラブルディスプレイだ。

さっそく体験。装着感はかなり良好で、しかも面倒な調整などはほぼ不要

 筆者も実物を見たときにはそのシンプルな作りに少々面食らったが、なにはともあれ、まずは試してみよう。装着はフレームをメガネのように耳の上にかける感じで行なう。フレームは一般的なメガネよりも長く、頭全体をホールドする感じ。そのため、しっかりと固定され、頭を振ったり、歩き回ってもずれるような感じはない。真ん中に一本、いわゆる鼻当てがあるのも、メガネ屋さんの知見なのかもしれない(これでしっかり固定できる)。

▲テストでは主にスマホと組み合わせて、いろいろなコンテンツを再生してみた

装着した状態。メガネオンメガネでも、装着感は良好

 その状態で可動式のディスプレイ部を降ろすと、目の前にディスプレイの画面が浮かび上がる。イメージとしては1m先に19インチほどの画面がある感じで、それほど大画面ではない。そのぶん、ディスプレイを表示したままでも視界が充分に確保できているので、装着したまま普通に歩き回ることもできる。

 ホールド感も適度なもので、締め付けられるような感じや不自然さはない。軽さもあって、長時間装着していても疲れにくいと感じた。筆者はメガネ装着者だが、メガネをかけたまま装着しても、違和感なしだ(メガネ オン メガネ)。

 感心したのは、面倒な調整などがほぼ不要ということ。画面の見え方や視界の中での位置を調整するためにディスプレイの角度を調整するだけなのだ。こうしたウェアラブルディスプレイは、(装着する)位置や映像の見え方を微調整する必要にある製品が多い。しかし、b.g.にはそうした微調整の機構がまったくない。人の顔の形や大きさは人の数だけ微妙な違いがあるが、それに合わせる必要もなく、装着して角度を合わせれば、視界の中央にきちんと画面が現れるのだ。

 映像の入力はHDMI接続で行なえるが、入力信号は1280×720(60Hz)のみで、HDCPにも非対応。パソコンやスマホ(HDMI出力用のアダプターが必要)などの表示は可能だが、BDプレーヤーなどのAV機器の場合、1280×720(60p)で出力しないと表示ができない。

 取材では、手持ちのiPhone 7にHDMI出力アダプターを介して接続して使った。このほかに、電源供給用としてUSB接続も必要。これはモバイルバッテリーなどを使うと便利だ。スマホの画面はそのまま表示でき、YouTubeの動画なども視聴できた。もちろん、ビジネス用の書類などもスマホが対応していれば表示可能だろう。また、Windows PCとも接続してみたが、こちらもきちんと画面の表示ができることは確認できた。Macの場合、取材時はうまく画面の表示ができなかったが、手動で出力解像度を変更すれば表示は可能と思われる。

 また、音声については、b.g.側にイヤホン端子はないので、スマホやPCのイヤホン端子を使うか、ワイヤレス(Bluetooth)イヤホンなどを併用する必要がある。

 表示された映像は、有機ELパネルを使っていることもあり、発色は良好だし、1280×720という解像度とはいえ、動画を見てもなかなか鮮明な映像が楽しめる。なにより、ウェアラブルディスプレイにありがちな目の負担が少なく、長時間使っていても平気と思わせる自然な見え方は素晴らしい。これだけ気軽に使えるウェアラブルディスプレイは、貴重な存在だと思う。

ぜひとも、家庭用モデルの発売にも期待したい

 取材で使った製品は映像を表示するミラー部分が透明なので、外光の影響を受けてコントラスト感が低下しがち。ディスプレイ部に手をかざして外光を遮るとコントラスト感もなかなか良好なことが分かった。なお、その部分についてはすでに改良されており、テスト機で透明な部分は、ブラック塗装で遮光された製品に切り替えられる予定だという。

表示デバイス外装を黒くした製品。今後はこちらに切り替えられるという

 また、HDCP非対応なのでBDソフトなどの映像は表示できないことは覚えておきたい。BDプレーヤーなどの場合は、1280×720出力ができない製品だと、映像が表示できない。そして、ちょっと残念だが3D映像にも非対応だ。このあたりは、ビジネス用の製品なので仕方のないところだが、家庭用としては使いにくい面もある。

 しかしながら、この装着感の良さや自然な見え方は家庭用モデルの発売もぜひ検討してほしくなる。フルHD(1920×1080)の映像を720pに変換するスケーラーや、HDCP対応を可能にするアダプターといったオプションがあれば、比較的容易に実現できそう。

 b.g.の装着感の良さと見やすさがあれば、メガネ型ディスプレイが当たり前の存在になるかもしれない。今後の展開がとても楽しみな製品だ。