映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第35回をお送りします。今回取り上げるのは、この時期にぴったり、ワム!の名曲で彩られた映画『ラスト・クリスマス』。エミリア・クラークの魅力も存分に楽しめる1作。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『ラスト・クリスマス』
12月6日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

 ロンドンの雑貨店で働くケイトが出会ったイケメン青年のトム。空を見上げてごらん、という彼との何日間が生涯忘れられぬクリスマスの思い出になる――。

 この季節の定番ソングになったワム!、1984年の大ヒット曲「ラスト・クリスマス」をモチーフにしたロマンチック・ラヴ・コメディ。ほかにも「フェイス」や「ファストラヴ」、未発表曲の「ディス・イズ・ハウ」など、全編が(奇しくも2016年のクリスマスの午後に世を去った)ジョージ・マイケルの人気曲固め! 「恋のかけひき」や「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」も。80年代をポップ・デュオ、ワム!のメロディと共に過ごした向きにはこれだけでご馳走になるだろう。

 ヒロインのケイトを演じるのは『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリス役で知られるエミリア・クラーク。今回は陶磁の肌のお姫さまではないよ。きゃっきゃ言いながら男の部屋で目を覚ましたりする爆弾娘。コメディエンヌとしての魅力をスクリーン一杯に振りまいている。こちらが本来の持ち味だろう。

 勤め先の雑貨店店主に、『ポリス・ストーリー3』や『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』で命知らずのアクションを披露し、近年は伝記映画『The Lady/アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』などで演技派に転身してもいるミシェール・ヨー。イケメン青年にマレーシア生まれ、イギリス育ちの新人ヘンリー・ゴールディング。多国籍コメディ『クレイジー・リッチ!』で共演したふたりで、あの薫風がいまいちど流れ込んでいる気配もある。

 生きてゆくのは簡単じゃないし、目指す方向もイロイロだけれど、クリスマスの夜くらいは互いに出来ることがあるかも。ラヴコメの奥にそんなメッセージを忍ばせているのが微笑ましい。それゆえ舞台は2017年。イギリスで、移民問題に端を発したブレグジット(EU離脱)の国民投票が行なわれた翌年、アメリカズ・ファーストのトランプ大統領が就任した年だ。

 撮影は『パール・ハーバー』や『アメイジング・スパイダーマン』のジョン・シュワルツマン。競走馬を巡る人生ドラマ『シービスケット』など小品にも心に残るヴィジュアルが多く、今回の聖夜のイルミネーションはそちらのラインだ。コヴェントガーデンやマリルボーン・ストリートほか、ロンドンの人気スポットがロケ地に選ばれている。

『ラスト・クリスマス』

12月6日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督:ポール・フェイグ
原題:LAST CHRISTMAS
配給:パルコ ユニバーサル映画
2019年/イギリス映画/1時間43分/シネマスコープ
(C)Universal Pictures

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