記者会見の前半には、楽団のインテンダント(総裁)アンドレア・ツィーチュマン氏、チェロ奏者でオーケストラ代表のクヌート・ヴェーバー氏、そしてこの日本ツアーで随行している指揮者のズービン・メータ氏の3名が登壇した。
まず、メータ氏から、「世界最高峰のオーケストラのひとつ、ベルリン・フィルとともに日本に来られるのは、大きな喜びでありとても名誉なことです。日本は高潔で美しい魂を持っている国だと思います。今回のツアーでは、すでに名古屋、福岡、大阪で演奏し、今日は川崎で演奏します。明日からは世界有数のコンサートホールのひとつである、サントリーホールでの演奏会が予定されていて、とても楽しみです」と語った。
続く、インテンダントのツィーチュマン氏からは「約60年前、1957年のカラヤンさんとの初来日から日本とベルリン・フィルは強い絆で結びついております。これまで22回も日本でツアーを行なっていますが、これはヨーロッパ以外の国では最多であり、そうした点からも日本とベルリン・フィルは美しい関係が築けているとご理解いただけるでしょう」と述べた。
続いて、ヴェーバー氏は「今回のツアーは2014年以来の、(他国と合わせてのツアーではなく)純粋な日本だけで演奏するツアーとなります。随行している指揮者のメータさんとベルリン・フィルは良好な関係を作り上げています。われわれオーケストラの楽団員は、全員が年に最低1回は彼の指揮で演奏しています。そうした形でメータさんとベルリン・フィルは深く関わっており、メータさんとはオーケストラの一部になっているといえます」とメータ氏との関わりを語った・
記者会見の後半では、同楽団が運営するベルリン・フィル・メディアの代表で、ソロ・チェロ奏者のオラフ・マニンガー氏から、ベルリン・フィル・レコーディングスの最新作の紹介ならびに映像ストリーミングサービス「デジタル・コンサートホール」の最新状況が説明された。
氏から紹介されたベルリン・フィル・レコーディングスの最新作は以下の通りとなる。
9CD+3BDビデオ+1BDオーディオ『ブルックナー:交響曲全集』
(キングインターナショナルKKC-9507/19輸入盤・国内仕様)
¥18,000+税
指揮者:小澤征爾(第1番)、パーヴォ・ヤルヴィ(第2番)、ヘルベルト・ブロムシュテット(第3番)、ベルナルド・ハイティンク(第4、5番)、マリス・ヤンソンス(第6番)、クリスティアン・ティーレマン(第7番)、ズービン・メータ(第8番)、サー・サイモン・ラトル(第9番)
録音:2009〜2019年(ベルリン・フィルハーモニー/ライヴ)
※BDビデオには、フルHD映像+2chPCM/5.1ch DTS-HDMA音声を収録。BDオーディオには2ch/48kHz/24ビットおよびDTS-HDMA5.1ch/48kHz/24ビットを収録
特典:ハイレゾダウンロードクーポン、デジタル・コンサートホール7日間無料チケット
日本限定初回特典:特製フォト・ブック
キングインターナショナルの特設ページ
備考:株式会社インターネット・イニシアティヴ(IIJ)のハイレゾ配信サービス「Prime Seat」では、メータ指揮の交響曲第8番全曲を48kHz/24ビット/2chにて無料試聴サービス中。詳細は下記をご参照のこと
IIJの特設ページ
会見では本作についてマニンガー氏は次のようにコメントした。
「本作は、ベルリン・フィルのブルックナー演奏史上10年におよぶ、いわば完全なるエディションであり、われわれのレーベル史上もっとも分厚いパッケージでのリリースです。信じられないような力を持っているブルックナーは、ベルリン・フィルとの結びつきがとりわけ強い作曲家です。今回、指揮している8人は、現代のブルックナーの解釈として最先端の人たちです。通常の全集では一人の指揮者での演奏をまとめますが、本作ではあえて異なる指揮者でのチクルスとしています。われわれはホールも楽器であると考えており、10年間で8人の指揮者が、ベルリン・フィルという同じオーケストラを、フィルハーモニーという同じ空間/楽器で指揮してきた演奏をまとめた形なのです。あえていえば<指揮者だけが違う>ベルリン・フィルのブルックナー演奏の10年間の神髄をこの全集で体験していただきたい」
さらに、名指揮者ベルナルド・ハイティンクのベルリン・フィルでの最後の演奏会がダイレクト・カッティングLPで登場するというニュースも明かされた。これは、ブラームスの交響曲全集に続く、ベルリン・フィル・レコーディングスのダイレクト・カッティングLPの第二弾。2019年5月に行なわれたベルナルド・ハイティンクがベルリン・フィルを振った最後の演奏会の『ブルックナー:交響曲第7番』が2020年春に登場することになる。2枚組3面構成で、4面目には、ハイティンクと楽団員のサインが刻まれている。価格は未定。
このディスクに関して、マニンガー氏は次のように語った。
「いま考える中でももっともアナログな録音手法がダイレクト・カッティングによるLP制作といえるでしょう。リアルタイムで演奏のすべてがラッカー盤に刻まれ、あとからいかなる修正もできないというリスクがあり、実にアナログ的な手法です。
(失敗しても修正できないという意味で)この手法は演奏家にとって大きなチャレンジです。しかもオーケストラの80人での一発勝負で、仮にひとりが一度間違えたら、演奏全体では80回の間違いがそのままレコードになってしまうのです。ただし、もっともアナログ的な手法であるがゆえの成果も大きく、ラトル指揮のブラームスのチクルスの出来栄えにはたいへん満足していました。だからこそ、ハイティンクさんがベルリン・フィルを最後に振るという歴史的な演奏会を、このダイレクト・カッティングという手法で残すことにしたのです。
そうそう、ハイティンクさんにこの録音のことを相談したら、<みなさんがよいというなら>とさっぱりした返事だったです(笑)。演奏会が終わると彼からは<で、使えそうなの?>と聞かれました(笑)。もちろん立派に使える、素晴らしい演奏でした。
また、ブラームスのダイレクト・カッティング録音とはマイクセッティングが異なることも挙げておきましょう。ブラームスではワンポイントマイクの手法で録音したのですが、今回はブルックナーです。響きに幅の広さが求められるため、マルチマイク方式に変更いたしました。実際に音を聴けば、空間的広がりと幅が大きな違いとして感じられるはずです。
ひとつ付け加えたいのは、エンジニアたちのなみなみならぬ努力があることが、ダイレクト・カッティングという困難の伴なう録音を成功させた裏にある点です。マイクをセットしたら最後、本番ではやり直しできませんし、さらに演奏と同時に行なわれるラッカー盤へのカッティング作業は、溝の幅をどう調整していくのか、それがたいへん難しい。大音量時は溝を幅広く刻む必要がありますが、幅が広いままにしては録音時間が足りなくなります。曲全体の中で、音量の違い/変化を的確に把握して、一発勝負のカッティングにのぞんだエンジニアたちの心配り、努力はたいへんなものがありました」
さらに、今年で10年目を迎えた、独自の映像配信サービスである、デジタル・コンサートホールについての現況報告があった。概要は下記の通り。
・現在、約100万人が登録。有料会員は約3万5000人。日本は全体の約20%を占めている。なお、ユーザー数はドイツ本国が最多で、アメリカと日本がそれに次ぐ。その意味で日本はたいへん重要な市場である。
・10年前は720解像度からスタートしたが、現在は4K解像度+HDRまで向上している。4Kのライヴストリーミングはこの夏から始めた。これからはもっと進化させていきたい。
・現在、音質面でのトピックとして、4K映像のライヴストリーミング+ハイレゾオーディオ(96kHz/24ビット)での実証実験を2月に行なったことが挙げられる。ハイレゾ音声での配信サービスに関しては、これからも検証/実験を続け、安定性と信頼性が確認できたらすぐに実サービスに入りたい。
最後に、マニンガー氏からデジタル・コンサートホールの年末年始キャンペーンのお知らせがあった。これは、デジタル・コンサートホールの12ヵ月チケット(149ユーロ/約18,000円)を購入すると、8月23日の行なわれたキリル・ペトレンコの首席指揮者就任演奏会のCDと、翌24日のベルリン・ブランデンブルク門前での野外演奏会の模様を収めたDVDがプレゼントされるというもの。演目はどちらもベートーヴェンの交響曲第9番。本キャンペーンのみの非売品で、一般発売されない貴重なディスクとなる。2000セット限定かつ2020年1月5日までの限定販売。
チケット+特典CD+DVDの購入は以下をサイトから、キャンペーンバナーを参照してほしい(本稿執筆時点ではバナーはまだない)。
デジタル・コンサートホール